3 / 62
地味な生徒
③
しおりを挟む
放課後は、押し付けられた図書委員の仕事で図書館にいることが多い。
学生達が有意義な学園生活を送れるようにと様々な場所から集められた大量の本を貯蔵しているこの大図書館には大勢の生徒が押し寄せてくる。
その生徒たちに本の貸出をするのが俺の仕事だ。
カウンターに置いてある委員専用の椅子に腰かけて適当な本を読み進める。この仕事は生徒が本を持ってくるまではなにもすることがなく、今日は人がまばらだから比較的暇な日だ。
「あの~……」
「は……い……」
本の文字を追っていると声をかけられてそちらへと顔を向ける。
そして返事をしようとして俺は動きを止めた。
図書館の照明が彼の髪をいつもよりも濃ゆい色へと照らしていて、雰囲気が微かに違う感じがした。
「あの、どうかした??」
「……あっ……いや……なにか?」
「あっ、【騎士の心得】っていう本を探してるんだけど」
彼のクリクリの瞳が俺を真っ直ぐに見つめていて、それに心臓がドキドキと跳ねる。
ふわふわといい匂いがしてきて、ああ、目の前に彼がいるって心が沸き立った。
「それなら、一番手前の棚の3段目左にあると思うけど」
「細かくありがと~、探してみるね」
小走りに俺の教えた棚に向かって走っていく彼の背中を見つめながら、あんな本何に使うんだろうって不思議に思った。
騎士の心得はその名の通り騎士になる者が最初に読む本とも言われている、騎士の基本的なことを書いた1冊で俺も幼い頃に読んだことがある。
「本当にあったよ~!」
すぐに彼が本を腕に抱えてふわふわと緩くウェーブのかかった柔らかそうな髪を揺らしながらこちらへと戻ってきた。
本を受け取って受付を完了させると、彼へと本を手渡してやる。
「この本読んだら少しは騎士のことわかるかな?」
直ぐに帰っていくと思ったのに、そんなことを尋ねられて俺は内心で酷く動揺した。
「わかると思うけれど、どうしてそれを読みたいと思ったんだ。騎士になるのかい?」
「好きな人が騎士になりたいって言ってたから僕もその人がなりたいモノがどんなモノなのか知っておきたくて」
そう行って頬を染めて可愛らしくはにかむ彼を見つめながら、胸が苦しくなるのが分かった。
好きな人が……か。
昔、君の傍にずっといると約束したことを覚えているかい?
「……セレーネ……」
君が好きだ。
つい彼の名前をつぶやくと、セレーネが驚いた顔をした後に、なーに?って微笑んでくれた。
昔は見れなかった笑顔を間近で見れたことが嬉しくて、同時にやっぱり胸が苦しい。
「ごめん、勝手に名前呼んで」
セレーネは誰にでも優しいと評判だ。
少しわがままなところもあるそうだけど、そこも可愛いのだとクラスメイトが話していた。
「構わないよ。皆勝手に呼ぶからさ」
「そっか」
「うん、あっ、もう行かないと。これありがとうね」
そう言って今度こそ出口の方に駆けていくセレーネの後ろ姿を見つめながら、漂う彼の残り香に泣きそうになった。
もう、見つけているのに……。
目の前に彼はいるのに。
手は届かない。
学生達が有意義な学園生活を送れるようにと様々な場所から集められた大量の本を貯蔵しているこの大図書館には大勢の生徒が押し寄せてくる。
その生徒たちに本の貸出をするのが俺の仕事だ。
カウンターに置いてある委員専用の椅子に腰かけて適当な本を読み進める。この仕事は生徒が本を持ってくるまではなにもすることがなく、今日は人がまばらだから比較的暇な日だ。
「あの~……」
「は……い……」
本の文字を追っていると声をかけられてそちらへと顔を向ける。
そして返事をしようとして俺は動きを止めた。
図書館の照明が彼の髪をいつもよりも濃ゆい色へと照らしていて、雰囲気が微かに違う感じがした。
「あの、どうかした??」
「……あっ……いや……なにか?」
「あっ、【騎士の心得】っていう本を探してるんだけど」
彼のクリクリの瞳が俺を真っ直ぐに見つめていて、それに心臓がドキドキと跳ねる。
ふわふわといい匂いがしてきて、ああ、目の前に彼がいるって心が沸き立った。
「それなら、一番手前の棚の3段目左にあると思うけど」
「細かくありがと~、探してみるね」
小走りに俺の教えた棚に向かって走っていく彼の背中を見つめながら、あんな本何に使うんだろうって不思議に思った。
騎士の心得はその名の通り騎士になる者が最初に読む本とも言われている、騎士の基本的なことを書いた1冊で俺も幼い頃に読んだことがある。
「本当にあったよ~!」
すぐに彼が本を腕に抱えてふわふわと緩くウェーブのかかった柔らかそうな髪を揺らしながらこちらへと戻ってきた。
本を受け取って受付を完了させると、彼へと本を手渡してやる。
「この本読んだら少しは騎士のことわかるかな?」
直ぐに帰っていくと思ったのに、そんなことを尋ねられて俺は内心で酷く動揺した。
「わかると思うけれど、どうしてそれを読みたいと思ったんだ。騎士になるのかい?」
「好きな人が騎士になりたいって言ってたから僕もその人がなりたいモノがどんなモノなのか知っておきたくて」
そう行って頬を染めて可愛らしくはにかむ彼を見つめながら、胸が苦しくなるのが分かった。
好きな人が……か。
昔、君の傍にずっといると約束したことを覚えているかい?
「……セレーネ……」
君が好きだ。
つい彼の名前をつぶやくと、セレーネが驚いた顔をした後に、なーに?って微笑んでくれた。
昔は見れなかった笑顔を間近で見れたことが嬉しくて、同時にやっぱり胸が苦しい。
「ごめん、勝手に名前呼んで」
セレーネは誰にでも優しいと評判だ。
少しわがままなところもあるそうだけど、そこも可愛いのだとクラスメイトが話していた。
「構わないよ。皆勝手に呼ぶからさ」
「そっか」
「うん、あっ、もう行かないと。これありがとうね」
そう言って今度こそ出口の方に駆けていくセレーネの後ろ姿を見つめながら、漂う彼の残り香に泣きそうになった。
もう、見つけているのに……。
目の前に彼はいるのに。
手は届かない。
22
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
番を持ちたがらないはずのアルファは、何故かいつも距離が近い【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全10話。距離感のおかしい貴族の次男アルファ×家族を支えるため屋敷で働く魔術師オメガ。
オメガであるロシュは、ジール家の屋敷で魔術師として働いている。母は病気のため入院中、自宅は貸しに出し、住み込みでの仕事である。
屋敷の次男でアルファでもあるリカルドは、普段から誰に対しても物怖じせず、人との距離の近い男だ。
リカルドは特殊な石や宝石の収集を仕事の一つとしており、ある日、そんな彼から仕事で収集した雷管石が魔力の干渉を受けない、と相談を受けた。
自国の神殿へ神が生み出した雷管石に魔力を込めて預ければ、神殿所属の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれる。
貴族達の間では大振りの雷管石は番との縁を繋ぐ品として高額で取引されており、折角の石も、魔力を込められないことにより、価値を著しく落としてしまっていた。
ロシュは調査の協力を承諾し、リカルドの私室に出入りするようになる。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる