マニーフェイク・フレンズ

天宮叶

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友達

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すこし気分転換したかっただけだったから時計を見るとそんなに時間は経っていなかった。
明日は仕事は休みだからタクシーを捕まえてから家に帰るためにタクシーがよく止まっている駅辺までゆっくりと歩いて向かう。

空を見てみるとめずらしくちらほらと星が見えて、少しだけ得した気分になった。

学生の時は毎日スマホとかばかり見ていて空を見上げる機会も花を愛でる機会も持とうとしなかったから、就職してからこんな楽しみ方もあるんだって色んなことを知れる毎日が俺は充実していて楽しいと思う。

それと同時に少しだけさみしさもおぼえるんだ。

高校の時に言われたあの言葉達が結局忘れられないまま、友達も恋人もいない孤独な生活を送っている俺はこの先もずっと独りなんじゃないかとか、孤独死は嫌だなとかつい思ってしまう。

駅に着くとタクシーがないかキョロキョロと辺りを見渡して見るけれどなかなかお目当ての物は見つけられなくてがくりと肩を落とした。
こんなことなら代行を呼ぶんだったと後悔する。駅からバーまではそんなに遠くないから戻って代行サービスに電話するかと考え直す。

とぼとぼと来た道を進みながらため息をついた。

友達や恋人がいればこんな時くだらない話をしながら一緒に車まで歩いてくれるのかなって思って悲しくなる。酒が入るとマイナス思考になるのは前からで飲酒の度に寂しい寂しいと子供みたいに脳内で喚き散らかしたりして、自分に呆れる。

2杯しか飲んでいないはずなのに度数が強いからなのか、今日は酔いやすい日だったのか、段々とフラフラと足がおぼつかなくなる。
下戸では無いはずだけどと思いつつ俺も弱くなったぜーとか言いながらヘラヘラフラフラと道を進んでいく。

もうすぐ車に着くというところで大きくフラついてドンッと近くにあった何かにぶつかった。

「す、すみませんっ」

その何かが少しだけ衝撃に呻いたことで人にぶつかったんだと気づいた俺は一気に酔いが冷めていく感覚を味わいながら慌てて謝罪をする。

サラリと見覚えのある黒髪が目の前を流れ落ちていく。

「……大丈夫です」

「……お客さん……?」

俺の言葉にチラッとこっちをみた彼は俺が昼にあったホームセンター店員だと気づいたのか一瞬だけ驚いた表情をしてから直ぐに表情を元に戻した。

昼に見た時と違いスーツを着込んだ彼はどこか色気たっぷりの危うい雰囲気を醸し出している。朝は後ろに流していた髪を後ろの下の方で1つ結びにしていて彼の顔がハッキリと分かって、やっぱりとんでもなく美人だなと思った。
よく見るとインナーカラーだったのか結んだ髪からちらほら薄い金色の毛束が見え隠れしていた。

「お酒飲みすぎじゃないかい。」

昼にも聞いた声が避難するみたいに俺に話しかけてくる。昼間接した穏やかで優しげな雰囲気はなくて、どこか刺々しいような声にたじろいだ。敬語じゃないからかもしれないと思いながら、とりあえず、ははって苦笑いを返しておいた。

「2杯しか飲んでないんですけど、今日は酔いが回るのが早くて」

「……気をつけないとここら辺危ないから」

心配してくれるんだ。

「大丈夫っすよ。俺、そんなか弱くないんで」

「どうだろうね」

俺の事をつま先から頭まで確認した彼が含んだように笑ってスっと俺の太ももを撫でた。
それに驚いて少しだけ後ずさるとくすくすと笑われて、からかわれたとわかった。

「そんな反応じゃやっぱり危ないかもね」

「…だ、大丈夫っすよ」

同じ言葉を繰り返すと彼はならいいけどとだけ言って俺が進んでいる方向へと歩き出す。

「向かってた方と逆じゃ……」

「心配だから目的地まで付き添ってあげる」

「……え、あ……ありがとうございます」

この状況がよく分からないけれど付き添ってくれるならとお礼を言って俺も隣に並んで歩き始めた。

「やけ酒?」

「え、いや、気分転換に少しだけバーに……」

彼は俺が相当飲んだってまだ思ってるみたいで、そんなことを聞いてくる。
それに律儀に答える俺も俺だ。

「……へー。ここら辺のバーって確かあそこしかないよね、IZUMI」

「……よく分かりましたね」

ママの泉さんが経営しているからIZUMIだって前に教えてもらったけれど、彼も知っているなんて驚きだ。
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