32 / 33
宮廷編2
7
しおりを挟む
劉明様の本心を垣間見た日から、少しだけ彼に歩み寄って見ようと思えるようになって来ていた。否定ばかりしていても仕方ない。もしかしたら、話し合えばこのどうしようもできない三人の関係にも、解決策が見いだせるかもしれないと思い始めてきた。
「仔空様、お手紙をお持ちしました」
「……燃やしておいて」
「かしこまりました」
でも、相変わらず静龍様がくれる手紙には目を通していない。きっと読んでしまったら、決心もなにもかもが消えてしまう気がするから。
それなのに、手紙を送らないで欲しいと伝えることは出来ないでいる。これが妃としてあるまじき行為だとしても、少しでいいから静龍様と繋がっている証が欲しかった。
「お聞きかもしれませんが、静龍様の婚姻の準備が進んでおります。一言でも良いので、お返事を書いてあげてはくれませんか?」
「……それは無理なんだ」
僕たちの関係はなにも進まない。僕は静龍様を諦めきれないし、劉明様を好きになることもできない。現状に立ち往生したまま、僕はどこにも心を運べない。
「……困らせてしまいましたね」
「美雨、ありがとう……」
彼女が僕たちのことを思って発言してくれていることはわかっている。それに、静龍様は恩人だ。彼女が静龍様の肩を持つのも、手紙を断らずに持ってくることも責めたりしないし、そんな資格もない。
ただ、この宮廷内で唯一僕に苦言を呈しながらも寄り添ってくれる美雨に感謝している。
美雨が部屋を出ていくと、入れ替わるように劉明様が入ってきた。会話を聞かれたかもしれないと焦ったけれど、なにも聞かれることはなかった。
「本日はどうされたのですか?」
「最近巷で野盗が増えておる。その対策でしばらく会いに来れぬ。だからこれを持ってきた」
小箱を手渡される。蓋を開けると、中には空色の佩玉が入っていた。繊細に彫られた模様が美しい。
「着けてやろう」
箱から佩玉を取り出した劉明様が、僕の腰に自らの手で着けてくれる。至近距離に近づくと、彼から漂う甘い香りが鼻腔をくすぐり、心が揺すぶられてしまう。
「仔空様、お手紙をお持ちしました」
「……燃やしておいて」
「かしこまりました」
でも、相変わらず静龍様がくれる手紙には目を通していない。きっと読んでしまったら、決心もなにもかもが消えてしまう気がするから。
それなのに、手紙を送らないで欲しいと伝えることは出来ないでいる。これが妃としてあるまじき行為だとしても、少しでいいから静龍様と繋がっている証が欲しかった。
「お聞きかもしれませんが、静龍様の婚姻の準備が進んでおります。一言でも良いので、お返事を書いてあげてはくれませんか?」
「……それは無理なんだ」
僕たちの関係はなにも進まない。僕は静龍様を諦めきれないし、劉明様を好きになることもできない。現状に立ち往生したまま、僕はどこにも心を運べない。
「……困らせてしまいましたね」
「美雨、ありがとう……」
彼女が僕たちのことを思って発言してくれていることはわかっている。それに、静龍様は恩人だ。彼女が静龍様の肩を持つのも、手紙を断らずに持ってくることも責めたりしないし、そんな資格もない。
ただ、この宮廷内で唯一僕に苦言を呈しながらも寄り添ってくれる美雨に感謝している。
美雨が部屋を出ていくと、入れ替わるように劉明様が入ってきた。会話を聞かれたかもしれないと焦ったけれど、なにも聞かれることはなかった。
「本日はどうされたのですか?」
「最近巷で野盗が増えておる。その対策でしばらく会いに来れぬ。だからこれを持ってきた」
小箱を手渡される。蓋を開けると、中には空色の佩玉が入っていた。繊細に彫られた模様が美しい。
「着けてやろう」
箱から佩玉を取り出した劉明様が、僕の腰に自らの手で着けてくれる。至近距離に近づくと、彼から漂う甘い香りが鼻腔をくすぐり、心が揺すぶられてしまう。
2
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説

金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!

【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜
みかん桜(蜜柑桜)
BL
バース検査でオメガだった岩清水日向。オメガでありながら身長が高いことを気にしている日向は、ベータとして振る舞うことに。
早々に恋愛も結婚も諦ていたのに、高校で運命の番である光琉に出会ってしまった。戸惑いながらも光琉の深い愛で包みこまれ、自分自身を受け入れた日向が幸せになるまでの話。
***オメガバースの説明無し。独自設定のみ説明***オメガが迫害されない世界です。ただただオメガが溺愛される話が読みたくて書き始めました。

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる