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宮廷編2
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「珠蘭様、本日はこれで失礼させて頂きます」
挨拶をすれば、無言で睨まれてしまう。礼をして逃げるようにその場を立ち去ると、静龍様も後を着いてきてくれた。
決して隣には並んでくれない。それが宮廷の掟だから。
僕は劉明様の妃で、静龍様は臣下。
越えられない境界線がはっきりと引かれてしまっている。
屋敷の前まで来ると、お礼を伝えるため静龍様へと視線を向けた。
「少しやつれたのではないか」
手が伸びてきて、目元を擦られる。本当はいけないとわかっているのに、久しぶりに感じる愛おしい人の温もりに、身を委ねたくなってしまった。
瞳を細めれば、優しく手を取られる。
「いけません……」
「俺の落ち度だ。本当にすまない」
「っ……」
謝るのは僕の方なのに、どうして貴方が謝るの?
苦しげに眉を寄せる静龍様を抱きしめてしまいたい。今すぐここを出て、共に生きていきたいと言えるならどれ程よかっただろうか。
「……僕が選んだことですから」
だから、謝らないで……。僕のせいで心を痛めて欲しくなんてない
美雨はいつの間にか居なくなっていて、その場には僕と静龍様の二人きり。
こんな現場を見られてしまったら、どんな噂を立てられるかわかったものではない。
それなのに、抗えない。抗いたくないんだ。
愛おしい人が目の前にいる……。
なのに、どうして僕は彼に好きだと言うことすら許されなくなってしまったのだろうか。
(愛しています)
「もう、お引取りを……。人に見られてしまいます」
「仔空、俺はまだ君のことを……」
静龍様が言葉を続けようとしたとき、からりと地面になにかが落ちる音が聞こえてきた。視線を向ければ、それが剣の鞘だとわかる。刹那、目にも止まらない速さで近づいてきた人物が静龍様の喉元に剣先を突きつけた。
「離れろ」
「……っ、陛下」
怒りを含んだ声音が鼓膜を揺らす。静龍様の温もりがゆっくりと離れていき、それを見計らった劉明様が僕を胸元へと引き寄せ、閉じ込めた。
剣先は相変わらず静龍様の喉元。
「まだ諦めがつかないか。切り捨てられたくなければ去れ」
「……たとえ陛下の命だとて、命尽きようともこの思いは変えられないのです」
剣先が微かに静龍様の肌に食い込む。流れる血を見て、咄嗟に身体が動いていた。
「劉明様っ、やめてくださいっ!!」
劉明様の持つ剣に手を添えて、下ろして欲しいと懇願する。静龍様が傷つくのも、劉明様が彼を傷つける所も見たくなんてない。
「行くぞ」
剣を静龍様からそらし、地面へと投げ捨てた劉明様が僕の腕を引いて屋敷へと入っていく。そんな僕達の姿を静龍様がただ無表情で見つめていた。
挨拶をすれば、無言で睨まれてしまう。礼をして逃げるようにその場を立ち去ると、静龍様も後を着いてきてくれた。
決して隣には並んでくれない。それが宮廷の掟だから。
僕は劉明様の妃で、静龍様は臣下。
越えられない境界線がはっきりと引かれてしまっている。
屋敷の前まで来ると、お礼を伝えるため静龍様へと視線を向けた。
「少しやつれたのではないか」
手が伸びてきて、目元を擦られる。本当はいけないとわかっているのに、久しぶりに感じる愛おしい人の温もりに、身を委ねたくなってしまった。
瞳を細めれば、優しく手を取られる。
「いけません……」
「俺の落ち度だ。本当にすまない」
「っ……」
謝るのは僕の方なのに、どうして貴方が謝るの?
苦しげに眉を寄せる静龍様を抱きしめてしまいたい。今すぐここを出て、共に生きていきたいと言えるならどれ程よかっただろうか。
「……僕が選んだことですから」
だから、謝らないで……。僕のせいで心を痛めて欲しくなんてない
美雨はいつの間にか居なくなっていて、その場には僕と静龍様の二人きり。
こんな現場を見られてしまったら、どんな噂を立てられるかわかったものではない。
それなのに、抗えない。抗いたくないんだ。
愛おしい人が目の前にいる……。
なのに、どうして僕は彼に好きだと言うことすら許されなくなってしまったのだろうか。
(愛しています)
「もう、お引取りを……。人に見られてしまいます」
「仔空、俺はまだ君のことを……」
静龍様が言葉を続けようとしたとき、からりと地面になにかが落ちる音が聞こえてきた。視線を向ければ、それが剣の鞘だとわかる。刹那、目にも止まらない速さで近づいてきた人物が静龍様の喉元に剣先を突きつけた。
「離れろ」
「……っ、陛下」
怒りを含んだ声音が鼓膜を揺らす。静龍様の温もりがゆっくりと離れていき、それを見計らった劉明様が僕を胸元へと引き寄せ、閉じ込めた。
剣先は相変わらず静龍様の喉元。
「まだ諦めがつかないか。切り捨てられたくなければ去れ」
「……たとえ陛下の命だとて、命尽きようともこの思いは変えられないのです」
剣先が微かに静龍様の肌に食い込む。流れる血を見て、咄嗟に身体が動いていた。
「劉明様っ、やめてくださいっ!!」
劉明様の持つ剣に手を添えて、下ろして欲しいと懇願する。静龍様が傷つくのも、劉明様が彼を傷つける所も見たくなんてない。
「行くぞ」
剣を静龍様からそらし、地面へと投げ捨てた劉明様が僕の腕を引いて屋敷へと入っていく。そんな僕達の姿を静龍様がただ無表情で見つめていた。
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