命运~Ω妃は二人のαに盲愛される~

天宮叶

文字の大きさ
上 下
17 / 33
宮廷編

2

しおりを挟む
「僕、静龍様にもう一度会えて嬉しいです。愛しています」
 
今のうちに伝えておかなければならないと思った。この心は、静龍様ただ一人のものだと知っていて欲しい。

「俺も愛している」
 
触れるだけの口付けをされて、胸が締め付けられた。嬉しいのに辛いんだ。僕は宮廷の使用人になってしまった。ここから出るには任期明けを待つしかない。何十年先になるのだろうか……。そもそも任期など本当に存在するのかすら分からない。
 
なにも分からないまま宮廷に放り込まれ、ずっと不安だった。だから、静龍様が会いに来てくれて本当に心が救われた心地になったんだ。
 
この方と添い遂げたいと願っても無理なことはわかっている。だからこそ、辛くて苦しい。

静龍様はいつも、僕の心を救い出し、手を取ってくれる。でも、今の僕には手を繋ぎ返すことは無理だ。だから、本当はこの辛さを受け入れなければならないことはわかっている。

「もう、会いに来てはいけません」
「そのようなことは言うな」
「……いいえ。言わせてください。静龍様と僕では身分が違いすぎるのです。貴方にはもっと相応しい方が居られるはず。……それに、僕はこの場所から出ることは出来ません。貴方のお世話をしたくとも叶わない……」
 
握られていた手から静龍様の手をやんわりと外し、一歩後ろへと下がった。微かにできた距離。この距離はどうやっても埋められない。

「仔空よく聞け」
「静龍様……」
「命令だ。俺の話しが終わるまで喋ることは許さない。いいか、よく聞くんだ」
 
強い口調で言われて、肩を跳ねさせる。頷くと、開いた距離をまた静龍様がいとも簡単に埋めた。

「身分などどうでもいい。俺はお前を愛している。お前も俺を愛するというのなら、離れることなど決して許しはしない。いいか、例えお前がどこに行こうとも、どんな身分になろうとも、俺は仔空を何者にも奪わせなどしない。それが運命の番だとしてもだ。だから、決して離れようなどと考えるな」
 
瞳から溢れる涙を指先が掬ってくれる。目尻を撫でる指先が頬へと滑り、首元へと宛てがわれ、項を撫でた。

「仔空。お前は俺だけの芳者だ」
「っ……はいっ。僕は静龍様の芳者です」
  
沿わされた手に自分から口付けを送る。愛しています。こうして僕に会いに来てくれたことも、贈ってくれた言葉も決して忘れはしません。
 僕は静龍様にこの身を捧げたい。

「また会いに来る」
「お待ちしています」
 
最後にもう一度だけ口付けを交わし、静龍様はその場を離れていった。彼の腰には、僕達の思い出の品である、あの腰紐が巻かれている。後ろ姿を見つめながら、自身の胸へと手を当て、貰った言葉を噛み締めた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

処理中です...