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宮廷編
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「僕、静龍様にもう一度会えて嬉しいです。愛しています」
今のうちに伝えておかなければならないと思った。この心は、静龍様ただ一人のものだと知っていて欲しい。
「俺も愛している」
触れるだけの口付けをされて、胸が締め付けられた。嬉しいのに辛いんだ。僕は宮廷の使用人になってしまった。ここから出るには任期明けを待つしかない。何十年先になるのだろうか……。そもそも任期など本当に存在するのかすら分からない。
なにも分からないまま宮廷に放り込まれ、ずっと不安だった。だから、静龍様が会いに来てくれて本当に心が救われた心地になったんだ。
この方と添い遂げたいと願っても無理なことはわかっている。だからこそ、辛くて苦しい。
静龍様はいつも、僕の心を救い出し、手を取ってくれる。でも、今の僕には手を繋ぎ返すことは無理だ。だから、本当はこの辛さを受け入れなければならないことはわかっている。
「もう、会いに来てはいけません」
「そのようなことは言うな」
「……いいえ。言わせてください。静龍様と僕では身分が違いすぎるのです。貴方にはもっと相応しい方が居られるはず。……それに、僕はこの場所から出ることは出来ません。貴方のお世話をしたくとも叶わない……」
握られていた手から静龍様の手をやんわりと外し、一歩後ろへと下がった。微かにできた距離。この距離はどうやっても埋められない。
「仔空よく聞け」
「静龍様……」
「命令だ。俺の話しが終わるまで喋ることは許さない。いいか、よく聞くんだ」
強い口調で言われて、肩を跳ねさせる。頷くと、開いた距離をまた静龍様がいとも簡単に埋めた。
「身分などどうでもいい。俺はお前を愛している。お前も俺を愛するというのなら、離れることなど決して許しはしない。いいか、例えお前がどこに行こうとも、どんな身分になろうとも、俺は仔空を何者にも奪わせなどしない。それが運命の番だとしてもだ。だから、決して離れようなどと考えるな」
瞳から溢れる涙を指先が掬ってくれる。目尻を撫でる指先が頬へと滑り、首元へと宛てがわれ、項を撫でた。
「仔空。お前は俺だけの芳者だ」
「っ……はいっ。僕は静龍様の芳者です」
沿わされた手に自分から口付けを送る。愛しています。こうして僕に会いに来てくれたことも、贈ってくれた言葉も決して忘れはしません。
僕は静龍様にこの身を捧げたい。
「また会いに来る」
「お待ちしています」
最後にもう一度だけ口付けを交わし、静龍様はその場を離れていった。彼の腰には、僕達の思い出の品である、あの腰紐が巻かれている。後ろ姿を見つめながら、自身の胸へと手を当て、貰った言葉を噛み締めた。
今のうちに伝えておかなければならないと思った。この心は、静龍様ただ一人のものだと知っていて欲しい。
「俺も愛している」
触れるだけの口付けをされて、胸が締め付けられた。嬉しいのに辛いんだ。僕は宮廷の使用人になってしまった。ここから出るには任期明けを待つしかない。何十年先になるのだろうか……。そもそも任期など本当に存在するのかすら分からない。
なにも分からないまま宮廷に放り込まれ、ずっと不安だった。だから、静龍様が会いに来てくれて本当に心が救われた心地になったんだ。
この方と添い遂げたいと願っても無理なことはわかっている。だからこそ、辛くて苦しい。
静龍様はいつも、僕の心を救い出し、手を取ってくれる。でも、今の僕には手を繋ぎ返すことは無理だ。だから、本当はこの辛さを受け入れなければならないことはわかっている。
「もう、会いに来てはいけません」
「そのようなことは言うな」
「……いいえ。言わせてください。静龍様と僕では身分が違いすぎるのです。貴方にはもっと相応しい方が居られるはず。……それに、僕はこの場所から出ることは出来ません。貴方のお世話をしたくとも叶わない……」
握られていた手から静龍様の手をやんわりと外し、一歩後ろへと下がった。微かにできた距離。この距離はどうやっても埋められない。
「仔空よく聞け」
「静龍様……」
「命令だ。俺の話しが終わるまで喋ることは許さない。いいか、よく聞くんだ」
強い口調で言われて、肩を跳ねさせる。頷くと、開いた距離をまた静龍様がいとも簡単に埋めた。
「身分などどうでもいい。俺はお前を愛している。お前も俺を愛するというのなら、離れることなど決して許しはしない。いいか、例えお前がどこに行こうとも、どんな身分になろうとも、俺は仔空を何者にも奪わせなどしない。それが運命の番だとしてもだ。だから、決して離れようなどと考えるな」
瞳から溢れる涙を指先が掬ってくれる。目尻を撫でる指先が頬へと滑り、首元へと宛てがわれ、項を撫でた。
「仔空。お前は俺だけの芳者だ」
「っ……はいっ。僕は静龍様の芳者です」
沿わされた手に自分から口付けを送る。愛しています。こうして僕に会いに来てくれたことも、贈ってくれた言葉も決して忘れはしません。
僕は静龍様にこの身を捧げたい。
「また会いに来る」
「お待ちしています」
最後にもう一度だけ口付けを交わし、静龍様はその場を離れていった。彼の腰には、僕達の思い出の品である、あの腰紐が巻かれている。後ろ姿を見つめながら、自身の胸へと手を当て、貰った言葉を噛み締めた。
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