命运~Ω妃は二人のαに盲愛される~

天宮叶

文字の大きさ
上 下
16 / 33
宮廷編

1

しおりを挟む
宮廷で働き初めて一週間程が経った。一日中休みなく働かされ、食事は小さな椀に粥一杯。水だけはたらふく飲めるため、空腹時は水を飲んで凌ぐ。たった数日で、何人も倒れる人を見た。過酷な環境だけれど、生きるためには働くしかない。

「おい、お前。こちらに来い」
「なんでしょうか」
 
水桶を運んでいると、突然やってきた衛兵に呼び止められて足を止めた。着いて来るように言われたため、素直に後を追う。持ち場からかなり離れた場所まで連れてこられ、どこに行くのかと訪ねようとしたとき、衛兵が足を止めた。

「連れて来ました」
「ご苦労。これは酒代にでもしてくれ」
「有難く頂きます」
 
涼やかな声に反応して、顔を勢いよく上げる。唇が震え、自然と目頭が熱くなった。衛兵が立ち去ると、声の主が目の前まで歩いてきてくれる。
 
小刻みに揺れる赤切れだらけの手を、初めてあったときのように躊躇なく自身の手で包み込んでくれたその人の姿が、涙でぼやけた。

「っ……静龍様」
「会いに来るのが遅くなった……。こんなに痩せて……ずっと心配していた」
「どうしてっ……」
 
もう二度と会えないと思っていた。

「母上から居場所を聞き出した。随分時間がかかってしまったが、もう大丈夫だ。酷いことはされていないか?飯は食べれているのか?」
 
優しく包み込むような声音が耳をくすぐる。こうして会いに来てくださっただけで、胸が満たされて本当に嬉しくてたまらなくなった。
 
でも、僕に会いに来て、旦那様や奥様に怒られたりしないのだろうか。静龍様の立場が悪くなることは避けたい。

「僕に会いに来て大丈夫だったのですか?」
「父上と母上のことを気にしているのだな。心配するな。皇帝陛下の命で参上したことになっているから、お前に会っていることはすぐにはばれはしない。実際に命は下っているからな」
「……そうなのですね」
 
少しだけ安堵する。包み込んだ僕の手に息を吐き温めてくれる静龍様。優しさが身に染み、とても幸せな気持ちになった。
 
諦めなければならないと思い知らされたばかりなのに、本人を目の前にするとやはり諦めきれない心が騒ぎ始める。
 僕は静龍様を愛している。この心はどんな逆境に立たされても変わらない。

「これをお食べ。それから、塗り薬も持ってきた」
 
温かな肉入りの点心と薬を渡されて、素直に受け取る。静龍様の真心を無下にはしたくない。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

処理中です...