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宮廷編

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宮廷で働き初めて一週間程が経った。一日中休みなく働かされ、食事は小さな椀に粥一杯。水だけはたらふく飲めるため、空腹時は水を飲んで凌ぐ。たった数日で、何人も倒れる人を見た。過酷な環境だけれど、生きるためには働くしかない。

「おい、お前。こちらに来い」
「なんでしょうか」
 
水桶を運んでいると、突然やってきた衛兵に呼び止められて足を止めた。着いて来るように言われたため、素直に後を追う。持ち場からかなり離れた場所まで連れてこられ、どこに行くのかと訪ねようとしたとき、衛兵が足を止めた。

「連れて来ました」
「ご苦労。これは酒代にでもしてくれ」
「有難く頂きます」
 
涼やかな声に反応して、顔を勢いよく上げる。唇が震え、自然と目頭が熱くなった。衛兵が立ち去ると、声の主が目の前まで歩いてきてくれる。
 
小刻みに揺れる赤切れだらけの手を、初めてあったときのように躊躇なく自身の手で包み込んでくれたその人の姿が、涙でぼやけた。

「っ……静龍様」
「会いに来るのが遅くなった……。こんなに痩せて……ずっと心配していた」
「どうしてっ……」
 
もう二度と会えないと思っていた。

「母上から居場所を聞き出した。随分時間がかかってしまったが、もう大丈夫だ。酷いことはされていないか?飯は食べれているのか?」
 
優しく包み込むような声音が耳をくすぐる。こうして会いに来てくださっただけで、胸が満たされて本当に嬉しくてたまらなくなった。
 
でも、僕に会いに来て、旦那様や奥様に怒られたりしないのだろうか。静龍様の立場が悪くなることは避けたい。

「僕に会いに来て大丈夫だったのですか?」
「父上と母上のことを気にしているのだな。心配するな。皇帝陛下の命で参上したことになっているから、お前に会っていることはすぐにはばれはしない。実際に命は下っているからな」
「……そうなのですね」
 
少しだけ安堵する。包み込んだ僕の手に息を吐き温めてくれる静龍様。優しさが身に染み、とても幸せな気持ちになった。
 
諦めなければならないと思い知らされたばかりなのに、本人を目の前にするとやはり諦めきれない心が騒ぎ始める。
 僕は静龍様を愛している。この心はどんな逆境に立たされても変わらない。

「これをお食べ。それから、塗り薬も持ってきた」
 
温かな肉入りの点心と薬を渡されて、素直に受け取る。静龍様の真心を無下にはしたくない。
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