12 / 33
将軍家編
12
しおりを挟む
誕辰の宴も終わり皆が寝静まった夜、作りかけの腰紐と刺繍糸と針を持って、こっそりと部屋から抜け出した。植木の縁に腰掛けて、高く昇った月を見つめながらため息を零す。火照った身体に夜風が心地よく、思わず目を細めた。
「一人でなにを?」
「静龍様……」
咄嗟に持っていた腰紐を背に隠す。
「今なにを隠した?」
「これは、その……あっ、駄目です」
あっさりと奪われてしまい、下手くそな刺繍を見られてしまった。まじまじと見つめられて、恥ずかしくなってくる。普段、高価な物を目にしている静龍様にはとてもみすぼらしく見えてしまうだろう。
「これは仔空が?」
「はい。まだ作りかけなのですが……」
「もしや、俺にか」
「っ、あ、それはその……」
「違うのか?まさか他に情人が……」
「違います!僕が好きなのは静龍様だけです」
思わず力強く否定してしまう。勘違いだけはされたくない。僕の剣幕に、静龍様が嬉しそうに微笑む。
「なら、俺のためということだ」
「……はい。でも、下手くそで……」
「どれ、かしてみろ」
手を差し出されて、持っていた針と糸を手渡すと静龍様が迷うことなく布へと針を刺す。あまりにも簡単そうに縫うものだから、感心してしまい覗き見る。でも、形作られている模様は模様とは呼べないものだった。もしかしたら僕よりも下手かもしれない。
「どうだ?」
「あ、えーと」
「ふっ、下手だろう。人には向き不向きがある。俺は武術なら誰にも負けない自信があるが、こういった細々としたことは苦手だ。だから気にするな。気持ちは伝わっている。それに見てみろ。この腰紐は俺と仔空の合作であり、唯一無二の物。どんな宝よりも貴重なものだ」
優しい言葉と、髪を撫でてくる手の感覚に涙が溢れてきそうになる。静龍様はいつだって心を救いあげて、温もりを与えてくれる。だから、僕はこの方を好きになった。
触れられていると、火照った身体が更に熱くなっていく。心做しか息も荒くなってきていて、ふわふわと身体が浮いたような感覚がしてきた。
静龍様の香りを感じていると、もっとその感覚は強くなってきて、身体の奥が疼くような心地を感じる。
「はっ、なにこれ……」
「様子がおかしいと思っていたが、やはり香期だったとは」
「香期……でも、僕っ……ん」
口を塞ぐように静龍様の唇が押し当てられる。なんだかいつもよりも余裕のない様子だ。
「段々と香りが溢れてくるな……。このままでは危ない。部屋に行こう」
静龍様に横向きに抱かれて、部屋へと連れていかれた。寝台に寝かされると、覆いかぶさられて激しいキスをされた。
どうしてこんなことになっているのかはわからないけれど、とても幸せな気持ちで胸がいっぱいで、なにも考えられなくなる。静龍様が欲しい。無意識にそう思う。
自ら舌を差し出し、快感を追いかける。首に腕を回し、角度を変えて何度も唾液を交換しあう。男らしい手が、衣装をはだけさせ、中へと潜り込んでくる。脇腹や腰を撫でられるだけで、全身がビクビクと反応を示し、乳首の突起に指先が触れた瞬間電流のような痺れが走った。
「ん、あぁ」
「仔空俺を見ろ」
目尻に口付けをされて、固く閉じていた瞳を恐る恐る開ける。目の前に色気を漂わせた静龍様の姿が現れて、顔が赤くなるのが自分でもわかった。頬を撫でられ、おでこや鼻先、顔の至る所に唇が触れる。
「お前が欲しい」
「僕も、静龍様のことが欲しいです」
はやく欲しいと急いてしまう心が胸を支配している。言葉には表しようもない疼き。これが本当に香期だとするなら、僕の性別は芳者だったということになる。普者として生きてきたから、芳者への知識は乏しいけれど、香期が尊者を誘うのだということだけは知っている。
静龍様の下半身が熱を持っているのが布越しに伝わってくる。僕の香りを感じて、反応してくれているというのなら、とても嬉しいと思った。
指の腹が乳首を優しくこね、時々爪先で刺激される。鎖骨や胸元に痕が残される度に、幸福感が胸を満たし、切ない気持ちも同時に心を支配した。
身分違いという言葉が頭を過ぎる。いいんだ……今だけは。なにも分からないふりをして、与えられる快感だけに意識を集中させてみる。そうすれば、愛だけが包み込んでくれるから。
「一人でなにを?」
「静龍様……」
咄嗟に持っていた腰紐を背に隠す。
「今なにを隠した?」
「これは、その……あっ、駄目です」
あっさりと奪われてしまい、下手くそな刺繍を見られてしまった。まじまじと見つめられて、恥ずかしくなってくる。普段、高価な物を目にしている静龍様にはとてもみすぼらしく見えてしまうだろう。
「これは仔空が?」
「はい。まだ作りかけなのですが……」
「もしや、俺にか」
「っ、あ、それはその……」
「違うのか?まさか他に情人が……」
「違います!僕が好きなのは静龍様だけです」
思わず力強く否定してしまう。勘違いだけはされたくない。僕の剣幕に、静龍様が嬉しそうに微笑む。
「なら、俺のためということだ」
「……はい。でも、下手くそで……」
「どれ、かしてみろ」
手を差し出されて、持っていた針と糸を手渡すと静龍様が迷うことなく布へと針を刺す。あまりにも簡単そうに縫うものだから、感心してしまい覗き見る。でも、形作られている模様は模様とは呼べないものだった。もしかしたら僕よりも下手かもしれない。
「どうだ?」
「あ、えーと」
「ふっ、下手だろう。人には向き不向きがある。俺は武術なら誰にも負けない自信があるが、こういった細々としたことは苦手だ。だから気にするな。気持ちは伝わっている。それに見てみろ。この腰紐は俺と仔空の合作であり、唯一無二の物。どんな宝よりも貴重なものだ」
優しい言葉と、髪を撫でてくる手の感覚に涙が溢れてきそうになる。静龍様はいつだって心を救いあげて、温もりを与えてくれる。だから、僕はこの方を好きになった。
触れられていると、火照った身体が更に熱くなっていく。心做しか息も荒くなってきていて、ふわふわと身体が浮いたような感覚がしてきた。
静龍様の香りを感じていると、もっとその感覚は強くなってきて、身体の奥が疼くような心地を感じる。
「はっ、なにこれ……」
「様子がおかしいと思っていたが、やはり香期だったとは」
「香期……でも、僕っ……ん」
口を塞ぐように静龍様の唇が押し当てられる。なんだかいつもよりも余裕のない様子だ。
「段々と香りが溢れてくるな……。このままでは危ない。部屋に行こう」
静龍様に横向きに抱かれて、部屋へと連れていかれた。寝台に寝かされると、覆いかぶさられて激しいキスをされた。
どうしてこんなことになっているのかはわからないけれど、とても幸せな気持ちで胸がいっぱいで、なにも考えられなくなる。静龍様が欲しい。無意識にそう思う。
自ら舌を差し出し、快感を追いかける。首に腕を回し、角度を変えて何度も唾液を交換しあう。男らしい手が、衣装をはだけさせ、中へと潜り込んでくる。脇腹や腰を撫でられるだけで、全身がビクビクと反応を示し、乳首の突起に指先が触れた瞬間電流のような痺れが走った。
「ん、あぁ」
「仔空俺を見ろ」
目尻に口付けをされて、固く閉じていた瞳を恐る恐る開ける。目の前に色気を漂わせた静龍様の姿が現れて、顔が赤くなるのが自分でもわかった。頬を撫でられ、おでこや鼻先、顔の至る所に唇が触れる。
「お前が欲しい」
「僕も、静龍様のことが欲しいです」
はやく欲しいと急いてしまう心が胸を支配している。言葉には表しようもない疼き。これが本当に香期だとするなら、僕の性別は芳者だったということになる。普者として生きてきたから、芳者への知識は乏しいけれど、香期が尊者を誘うのだということだけは知っている。
静龍様の下半身が熱を持っているのが布越しに伝わってくる。僕の香りを感じて、反応してくれているというのなら、とても嬉しいと思った。
指の腹が乳首を優しくこね、時々爪先で刺激される。鎖骨や胸元に痕が残される度に、幸福感が胸を満たし、切ない気持ちも同時に心を支配した。
身分違いという言葉が頭を過ぎる。いいんだ……今だけは。なにも分からないふりをして、与えられる快感だけに意識を集中させてみる。そうすれば、愛だけが包み込んでくれるから。
1
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜
ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。
恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。
※猫と話せる店主等、特殊設定あり
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる