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お勉強会②

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 都城はまた始まったといわんばかりに、蓮斗のことを呆れた顔で見つめてくる。そんななか、輝だけが楽しそうに笑顔を浮かべていた。

「あはは、蓮斗は面白いね。言うとおり、可愛らしいしユーモアもあるなんて魅力的だ」
「ふん、よくわかってるじゃん」

 まさか輝が褒めてくれるとは思っていなくて照れてしまう。それがバレないようにそっぽを向いた蓮斗のことを、輝が笑顔で見つめてくる。打って変わり、都城と狭山は呆けた表情を浮かべていた。

「会長、本気で言ってます?」

 都城が恐る恐るというように輝に声をかける。質問をしっかりと耳に入れていた蓮斗は、鋭い瞳で都城を睨みつけた。その圧に押されて都城は肩をすくめる。

「本気だよ。蓮斗はとても素敵な子だ。強気なところも懐かない子猫みたいで愛らしい。それに第一印象からすごく興味をそそられたんだよ」
「興味は持たなくていいから!」

 すかさず否定する。けれど、内心は嬉しさでいっぱいだった。輝は蓮斗のことをきちんと見てくれている。言葉や態度を決して否定しない。だから、彼の言葉を聞いてようやくシリルと輝は別人なのだと呑み込むことができた。

「ふふ、ほらね。そういうところが可愛い」
「会長って感覚がズレてるんですね」

 横で都城がさりげなくツッコミを入れている。狭山まで同意するように頷いていた。でも、蓮斗は気にならない。輝から与えられる一言一句を聞き逃すまいと、全集中しているからだ。

「さてと、理由はわかったことだし狭山君は蓮斗に謝罪するべきだと思うな。俺も傷ついた蓮斗を見たことがある。本当なら停学処分でもおかしくない問題だからね」
「っ、僕は……」

 急に真面目な顔に切り替えた輝が言い聞かせるように狭山を諭し始める。バツが悪そうにうつむいた狭山は、数秒後蓮斗へと視線を向けて小さく謝罪の言葉を口に出した。不服だと思っていることは表情が物語っている。それでも進歩だ。

「今後二度としないなら許してあげる」
「……言われなくてもしないよ。それに、僕がしなくてもまた別のやつがやるだろうし」

 不穏な言葉に疑問を抱く。主犯は狭山のはずなのにまだ続くとはどういうことなのだろうか?
 尋ねようと口を開いた瞬間、狭山が逃げるように勢い良くその場を去ってしまった。追いかけるか迷ったけれど、都城を追いていくわけにもいかず諦める。

「なんだったんだ……」

 都城が狭山の背中を見つめながら呟くのが聞こえてきた。

「……気にしなくていいよ。あーもう、狭山のせいで勉強時間がすごく減っちゃったよ。ほら、再開するよ!」
「俺も混ざっていいかな?」
「駄目に決まってるでしょ!って、なに隣に座ってんの!?」

 当たり前のように蓮斗の隣に腰掛ける輝。机にばらまかれたテキストを確認し始めたのを、蓮斗は横目に睨みながら見つめる。長いまつげに縁取られた瞳が、窓から差す夕日に照らされて不思議な色彩に染まっていた。どこを見ても隙のないくらい美しい男だ。アリステラもよくこんな風に、シリルの横顔を見つめながら想いを募らせていた。
彼への思いは、叶うと信じていた恋。けれど、結局叶わず失ってしまった愛だった。

「ここを勉強しておくといいよ」

 突然蓮斗へと顔を向けてきた輝が、テキストを指差しながら教えてくれる。けれど、それどころではない。やけに顔が近く感じられて、心臓が大きく鳴り始めたからだ。気にしているのは蓮斗だけ。輝は淡々とした柔らかい口調で、次々にテスト範囲を教えてくれる。

「あ~とっ、俺は用事を思い出したんでこれで失礼させてもらうわ」

 突然穏やかではないことを言い出した都城を蓮斗が慌てて止めようとする。けれど、それよりも一歩先に素早く席を立たれてしまった。
 空気を読んだつもりなのだろうか?だとしたら検討違いもはなはだしい。

(裏切り者~~~~!)

 蓮斗の内心は涙目だ。輝と一緒に居ないように心掛けようとしているはずなのに、どうしてだかいつもうまくいかない。それもこれも全部輝が無駄に関わろうとしてくるせいだ。
図書室から去っていく都城の後ろ姿を睨む。

「二人きりになっちゃったね」

 気持ちとは裏腹に、輝はやけに嬉しそうだ。この笑顔を見ていると毒気を抜かれてしまう。なんの思惑もない純粋な笑み。見たくなどないのに、つい視線は彼の顔へと向いてしまう。

「……さっきの言葉本気?」
「どれのことかな」
「僕が可愛いってやつ……素敵とか、言ってたの」
「ああ。うん。本気だよ」

 輝の瞳が蓮斗の姿を映し出す。吸い込まれてしまいそうだ。目をそらしたくなるのに、無意識に見つめ返してしまう。
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