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幸せを永遠に
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「アステルお待たせ。終わったからお爺様の所に行こうか……アステル?」
アステルの居るはずの所に話しかけながら振り返ると、アステルの姿がなくて一気に顔を青ざめさせた。
「アステル!?」
「うそっ、ついさっきまでそこにいたのにっ」
僕もエレノアも軽くパニックになって、慌てて控え室から飛び出すとアステルの名前を呼びながらあちらこちらを探し始めた。
幼子の歩く距離なんてたかが知れているとはいえ、見つからないと段々と不安になってくる。なにより彼は皇帝の息子だ。
万が一、見つからないとなれば今日の式は中止になることも有り得るかもしれない。
「アステルっ!!!」
廊下を駆けながら、大事な息子の名前を呼び続ける。
エレノアも会場の人達に聞いてくれると言ってくれたから、分かれて探すことにした。
どうして目を離してしまったのだろう……。
見つからないことに不安を覚えて、悪い想像までしてしまう。
ひたすら屋敷を探し回っていると、いつの間にか中庭に来ていた。息を吐き出し、1度呼吸を落ち着かせる。
中庭を進んでいると、アステルが中央のガーデンチェアに腰掛けていることに気がついて、名前を呼んだ。隣にはアステルと同じ歳くらいの可愛らしい子供もいる。
「ママ!」
こちらに来るように言うけれど、その子のことが心配なのかアステルは動こうとしない。迷子にでもなっていたのか、その子は涙を流しているようだった。
「セレーネ!」
遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえてきて、その子が声の先へと視線を向けた。
「お迎えが来たみたいだよ」
「ん!よかった。ばいばい」
アステルが安心したように笑みを浮かべて、その子にバイバイをする。
その子もにこにこと笑みを浮かべてから、声のした方へと歩いっていった。
僕もつられるようにそちらを見ようとしたとき、アステルに服の裾を引かれて下を向く。
「かってに居なくなったごめんなさい」
「僕も1人にしてしまってごめんね。さあ、皆の元に帰ろうか」
しっかりと手を繋ぎ顔を上げる。あの子が消えた先へと一瞬視線を向けると、輝くプラチナブロンドの後姿が見えて動きを止めた。
「ママ行かないの?」
「あ、うん。行こうね」
皆の元に帰ると、アデルバード様がこちらに駆け寄ってきて僕とアステルを抱きしめてくれた。
「見つかったんだね」
「アデルバード様、皆見てますから」
「見せておけばいいといつも言っているだろう」
「お父様苦しい」
アステルが抗議すると、困り顔をしたアデルバード様が僕達から離れる。それからアステルを抱えて、心配したんだよって話しかけた。
「お父様っ、僕っ天使さんに会ったのっ!それでねっ、天使さんってね、お花の匂いがしてすごく可愛くてねっ、また会えるかな?」
アステルのクリクリとした琥珀色の瞳が輝きながらアデルバード様を見つめる。
アデルバード様は一瞬だけ難しい顔をした後に、また微笑みを顔に浮かべた。
「きっとまた会えるよ」
「本当?」
「ああ、きっとね。ほら、席に座って。今日はエレノア叔母様の結婚式なんだから、沢山お祝いをしてあげようね」
「はーいっ!」
僕とアデルバード様の真ん中でアステルはニコニコしながら席へと向かう。
それを微笑ましい目で見つめながら、この子が愛する人とまた出会えたらいいと心から思った。
出会いは一瞬で、その一瞬の出会いが永遠に変わることがあると僕は知っているから。
まだ幼いこの子には、自分の感じた花の香りの正体も意味もわからないだろう。でも、大きく成長して、いつの日かその子に出会える日が来たら祝福してあげようと心に決めた。
アデルバード様の顔を見ると、優しい顔をしてアステルのことを見つめていて、僕はその顔を見つめながら幸せだなって思う。
愛しい人と、その人との間にできた宝物に囲まれてとても幸福で満たされている。どんなに大変なことがあっても彼らが傍に居てくれれば頑張れるって思えるんだ。
3人並んで席に腰かけて、エレノアの入場までアステルの話を聞きながら待つ。
「さっきねっエレノア叔母様に会ったけどね、すっごく綺麗だったの」
「うん。とても綺麗だったね」
アステルの話に相槌を打っていると、入場の合図が聞こえてきて、アステルにエレノア叔母様が来るよって教えてあげた。
伴奏が流れ始めると、エレノアが入場してきて、花が舞うウエディング・アイルを進んでいく。並びあったエレノアとお相手を見つめながら、2人の幸せの門出を心から祝福した。
昔、アレンのことで泣いていたエレノアは、今は大切な人を見つけて幸せそうに微笑んでいる。
あの頃は、エレノアを励ますためにはどうしたらいいだろうと頭を悩ませていたけれど、きっとそれは僕の役目じゃなかったんだ。それを少しだけ寂しいと思いながらも、大切な義妹がこれから先笑って暮らして行けるならそれでいいと思う。
「エレノア叔母様とっても幸せそう」
「そうだね」
アステルが僕とアデルバード様の片手を掴んで自分の膝の上に持っていく。僕達の手を重ね合わせて自分の小さな手で包み込んだ。
「僕もねっ、とっても幸せなのっ」
2人の温もりが伝わってきて、僕とアデルバード様はアステルを見つめながら微笑む。
「僕も幸せだよ」
「私もだ」
エレノア達の誓の口付けを見つめながら、この幸せが永遠に続けばいいと心から思った。
fin.
アステルの居るはずの所に話しかけながら振り返ると、アステルの姿がなくて一気に顔を青ざめさせた。
「アステル!?」
「うそっ、ついさっきまでそこにいたのにっ」
僕もエレノアも軽くパニックになって、慌てて控え室から飛び出すとアステルの名前を呼びながらあちらこちらを探し始めた。
幼子の歩く距離なんてたかが知れているとはいえ、見つからないと段々と不安になってくる。なにより彼は皇帝の息子だ。
万が一、見つからないとなれば今日の式は中止になることも有り得るかもしれない。
「アステルっ!!!」
廊下を駆けながら、大事な息子の名前を呼び続ける。
エレノアも会場の人達に聞いてくれると言ってくれたから、分かれて探すことにした。
どうして目を離してしまったのだろう……。
見つからないことに不安を覚えて、悪い想像までしてしまう。
ひたすら屋敷を探し回っていると、いつの間にか中庭に来ていた。息を吐き出し、1度呼吸を落ち着かせる。
中庭を進んでいると、アステルが中央のガーデンチェアに腰掛けていることに気がついて、名前を呼んだ。隣にはアステルと同じ歳くらいの可愛らしい子供もいる。
「ママ!」
こちらに来るように言うけれど、その子のことが心配なのかアステルは動こうとしない。迷子にでもなっていたのか、その子は涙を流しているようだった。
「セレーネ!」
遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえてきて、その子が声の先へと視線を向けた。
「お迎えが来たみたいだよ」
「ん!よかった。ばいばい」
アステルが安心したように笑みを浮かべて、その子にバイバイをする。
その子もにこにこと笑みを浮かべてから、声のした方へと歩いっていった。
僕もつられるようにそちらを見ようとしたとき、アステルに服の裾を引かれて下を向く。
「かってに居なくなったごめんなさい」
「僕も1人にしてしまってごめんね。さあ、皆の元に帰ろうか」
しっかりと手を繋ぎ顔を上げる。あの子が消えた先へと一瞬視線を向けると、輝くプラチナブロンドの後姿が見えて動きを止めた。
「ママ行かないの?」
「あ、うん。行こうね」
皆の元に帰ると、アデルバード様がこちらに駆け寄ってきて僕とアステルを抱きしめてくれた。
「見つかったんだね」
「アデルバード様、皆見てますから」
「見せておけばいいといつも言っているだろう」
「お父様苦しい」
アステルが抗議すると、困り顔をしたアデルバード様が僕達から離れる。それからアステルを抱えて、心配したんだよって話しかけた。
「お父様っ、僕っ天使さんに会ったのっ!それでねっ、天使さんってね、お花の匂いがしてすごく可愛くてねっ、また会えるかな?」
アステルのクリクリとした琥珀色の瞳が輝きながらアデルバード様を見つめる。
アデルバード様は一瞬だけ難しい顔をした後に、また微笑みを顔に浮かべた。
「きっとまた会えるよ」
「本当?」
「ああ、きっとね。ほら、席に座って。今日はエレノア叔母様の結婚式なんだから、沢山お祝いをしてあげようね」
「はーいっ!」
僕とアデルバード様の真ん中でアステルはニコニコしながら席へと向かう。
それを微笑ましい目で見つめながら、この子が愛する人とまた出会えたらいいと心から思った。
出会いは一瞬で、その一瞬の出会いが永遠に変わることがあると僕は知っているから。
まだ幼いこの子には、自分の感じた花の香りの正体も意味もわからないだろう。でも、大きく成長して、いつの日かその子に出会える日が来たら祝福してあげようと心に決めた。
アデルバード様の顔を見ると、優しい顔をしてアステルのことを見つめていて、僕はその顔を見つめながら幸せだなって思う。
愛しい人と、その人との間にできた宝物に囲まれてとても幸福で満たされている。どんなに大変なことがあっても彼らが傍に居てくれれば頑張れるって思えるんだ。
3人並んで席に腰かけて、エレノアの入場までアステルの話を聞きながら待つ。
「さっきねっエレノア叔母様に会ったけどね、すっごく綺麗だったの」
「うん。とても綺麗だったね」
アステルの話に相槌を打っていると、入場の合図が聞こえてきて、アステルにエレノア叔母様が来るよって教えてあげた。
伴奏が流れ始めると、エレノアが入場してきて、花が舞うウエディング・アイルを進んでいく。並びあったエレノアとお相手を見つめながら、2人の幸せの門出を心から祝福した。
昔、アレンのことで泣いていたエレノアは、今は大切な人を見つけて幸せそうに微笑んでいる。
あの頃は、エレノアを励ますためにはどうしたらいいだろうと頭を悩ませていたけれど、きっとそれは僕の役目じゃなかったんだ。それを少しだけ寂しいと思いながらも、大切な義妹がこれから先笑って暮らして行けるならそれでいいと思う。
「エレノア叔母様とっても幸せそう」
「そうだね」
アステルが僕とアデルバード様の片手を掴んで自分の膝の上に持っていく。僕達の手を重ね合わせて自分の小さな手で包み込んだ。
「僕もねっ、とっても幸せなのっ」
2人の温もりが伝わってきて、僕とアデルバード様はアステルを見つめながら微笑む。
「僕も幸せだよ」
「私もだ」
エレノア達の誓の口付けを見つめながら、この幸せが永遠に続けばいいと心から思った。
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