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決別
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まだ僕が10歳の頃、彼が僕に不細工だと言った日のことを今でも鮮明に覚えている。その言葉に酷く傷ついた。それと同時に、初めて会ったあの日のアデレードがあまりにも可愛くて綺麗で、こんな風になりたいとその瞬間、憧れを抱いたんだ。
ずっと、彼と仲良くなりたいと思っていた。
美しくて誰からも愛される自慢の兄。
性格は歪んでいるけれど、それでも、毎日綺麗だねって彼に笑いかけて、今みたいに抱きしめあったりなんかして、仲良く勉強をしたり、そんな日常を夢見ていた。
だから、そんな彼が死を選ぶことを僕は許せなかった。
「僕のこと嫌い?」
「っ、大っ嫌い!!お前なんか、不細工でグズで、なにもできなくて、僕の弟でもなんでもない!!お前なんか……本当に大嫌いなんだから……」
涙で僕の肩を濡らしながら、アデレードが鼻声で叫ぶ。
それにうんうんって頷きながら彼の背中を撫でてあげた。
「僕もアデレードのこと嫌い」
「……っ……」
「嫌がらせするし、すぐ不細工って言ってくる。何度も痛いことされたし、酷いこともいっぱい言われた。だから、僕もアデレードのこと嫌いだよ」
「……な、なんだよっ……結局お前もみんなと一緒じゃないかっ!!僕のことあっさり捨てたジュダ様や周りのヤツらと一緒だ!!!だったら、嫌いなら、どうして助けたんだよっ!!!」
アデレードの悲痛な叫びを聞きながら、なんでだろうって小さく呟いていた。
よく分からない。
嫌いなはずだ。それに、誘拐されて、ラセットさんは殺されそうになった。
それでも、死んで欲しくないって思ったんだ。
「ただ、勝手に身体が動いてただけ。理由なんてないよ」
そう、理由なんてない。
僕は優しい人間でもないし、きっと一生アデレードのことは嫌いだし許せない。
けれど、何度同じことが起きても僕は彼を助けるって確信していた。
「わけわかんない!」
涙を流しながらアデレードがつぶやく。僕もそれに、そうだよねって相槌を打つ。
「僕達は仲のいい兄弟にも、愛する家族にもなれなかったけれど、あの日アデレードが僕をこの国に嫁がせてくれたことは本当に感謝しているんだ」
「なにそれっ、嫌味のつもり?!」
「そう捉えてくれてもかまわないよ。でも、僕は嘘は吐かない。本当に感謝してる。君のおかげで僕は今幸せだよ」
「……っ……本当にずるいっ!お前だけ!僕は……僕だって……っ、」
泣きじゃくるアデレードの背中をひたすら撫でてあげる。ふと、屋敷の入口の方が騒がしいことに気がついて耳を澄ませてみた。
「……カ!」
聞き覚えのある声が僕のことを呼んでいる気がした。遠くからでも感じる彼の香りに、泣きたいような、心を揺さぶられる感覚を覚えて、ゆっくりとアデレードから身体を離した。
「アデレード」
「……っ、なんだよっ、まだなにかあるわけっ!」
「アデレードもきっと幸せになれるよ」
「なに、言ってんの」
彼がこの先どんな未来を辿るのかも、どうして行くのかも僕にはわからないけれど、きっと幸せになってくれるって信じてる。
どんなに悪いことをした人にだって、もう一度だけでも幸せになる機会が与えられても良いはずだって思うから。
「君の一番星を見つけて」
「……え……」
「きっと、見つかるから。いつだって君を見守って、大切にしてくれて、支えてくれる、自分だけの希望の星を探して」
ありったけの笑顔でアデレードにそう伝えた。
なんでもいい。人でも物でも、なんでもいいから……。
君だけのたった一つの星を見つけて欲しい。
そうすればきっとどんなに辛いときでも立ち上がることが出来るから。
「僕は見つけたよ」
少しずつ近づいてくる足音を聴きながら、嬉しくて泣きそうになるのを必死に堪えた。
甘やかで優しい香りが漂ってきて、ゆっくりとその香りのする方に身体ごと視線を向ける。綺麗な銀の髪を靡かせながら彼が僕に駆け寄ってきた。そうして、強くつよく抱きしめられる。
「リュカっ!」
「アデルバード様……」
荒い息を吐き出すアデルバード様を見て、必死に探してくれていたんだとわかる。申し訳なさと感謝の気持ちが溢れてきた。それと同時にすごく安心してポロリと1つ涙を流すと、彼が僕を抱きしめながら、無事でよかったって呟いた。
アデルバード様は僕の存在を確かめるように顔をぺたぺたと触って、額に自分の額を当てると、安堵したように薄く笑みを浮かべる。
「心配させてごめんなさい……。伝言聞いてくれたんですね」
「リュカが攫われたと聞いて心臓が止まるかと思ったよ。本当に無事でよかったっ」
「ラセットさんが護ってくれたから」
「……そうか……だが、髪が……それに怪我もしている……」
アデルバード様が僕の切れた髪を見て眉を寄せた。
ラセットさんを助けた時にまとめていた髪が切られてしまって不揃いに髪が短くなってしまっている。それに、殴られた所も今更痛みが出てきて、眉を寄せる僕をアデルバード様が心配げに見つめてきた。
ずっと、彼と仲良くなりたいと思っていた。
美しくて誰からも愛される自慢の兄。
性格は歪んでいるけれど、それでも、毎日綺麗だねって彼に笑いかけて、今みたいに抱きしめあったりなんかして、仲良く勉強をしたり、そんな日常を夢見ていた。
だから、そんな彼が死を選ぶことを僕は許せなかった。
「僕のこと嫌い?」
「っ、大っ嫌い!!お前なんか、不細工でグズで、なにもできなくて、僕の弟でもなんでもない!!お前なんか……本当に大嫌いなんだから……」
涙で僕の肩を濡らしながら、アデレードが鼻声で叫ぶ。
それにうんうんって頷きながら彼の背中を撫でてあげた。
「僕もアデレードのこと嫌い」
「……っ……」
「嫌がらせするし、すぐ不細工って言ってくる。何度も痛いことされたし、酷いこともいっぱい言われた。だから、僕もアデレードのこと嫌いだよ」
「……な、なんだよっ……結局お前もみんなと一緒じゃないかっ!!僕のことあっさり捨てたジュダ様や周りのヤツらと一緒だ!!!だったら、嫌いなら、どうして助けたんだよっ!!!」
アデレードの悲痛な叫びを聞きながら、なんでだろうって小さく呟いていた。
よく分からない。
嫌いなはずだ。それに、誘拐されて、ラセットさんは殺されそうになった。
それでも、死んで欲しくないって思ったんだ。
「ただ、勝手に身体が動いてただけ。理由なんてないよ」
そう、理由なんてない。
僕は優しい人間でもないし、きっと一生アデレードのことは嫌いだし許せない。
けれど、何度同じことが起きても僕は彼を助けるって確信していた。
「わけわかんない!」
涙を流しながらアデレードがつぶやく。僕もそれに、そうだよねって相槌を打つ。
「僕達は仲のいい兄弟にも、愛する家族にもなれなかったけれど、あの日アデレードが僕をこの国に嫁がせてくれたことは本当に感謝しているんだ」
「なにそれっ、嫌味のつもり?!」
「そう捉えてくれてもかまわないよ。でも、僕は嘘は吐かない。本当に感謝してる。君のおかげで僕は今幸せだよ」
「……っ……本当にずるいっ!お前だけ!僕は……僕だって……っ、」
泣きじゃくるアデレードの背中をひたすら撫でてあげる。ふと、屋敷の入口の方が騒がしいことに気がついて耳を澄ませてみた。
「……カ!」
聞き覚えのある声が僕のことを呼んでいる気がした。遠くからでも感じる彼の香りに、泣きたいような、心を揺さぶられる感覚を覚えて、ゆっくりとアデレードから身体を離した。
「アデレード」
「……っ、なんだよっ、まだなにかあるわけっ!」
「アデレードもきっと幸せになれるよ」
「なに、言ってんの」
彼がこの先どんな未来を辿るのかも、どうして行くのかも僕にはわからないけれど、きっと幸せになってくれるって信じてる。
どんなに悪いことをした人にだって、もう一度だけでも幸せになる機会が与えられても良いはずだって思うから。
「君の一番星を見つけて」
「……え……」
「きっと、見つかるから。いつだって君を見守って、大切にしてくれて、支えてくれる、自分だけの希望の星を探して」
ありったけの笑顔でアデレードにそう伝えた。
なんでもいい。人でも物でも、なんでもいいから……。
君だけのたった一つの星を見つけて欲しい。
そうすればきっとどんなに辛いときでも立ち上がることが出来るから。
「僕は見つけたよ」
少しずつ近づいてくる足音を聴きながら、嬉しくて泣きそうになるのを必死に堪えた。
甘やかで優しい香りが漂ってきて、ゆっくりとその香りのする方に身体ごと視線を向ける。綺麗な銀の髪を靡かせながら彼が僕に駆け寄ってきた。そうして、強くつよく抱きしめられる。
「リュカっ!」
「アデルバード様……」
荒い息を吐き出すアデルバード様を見て、必死に探してくれていたんだとわかる。申し訳なさと感謝の気持ちが溢れてきた。それと同時にすごく安心してポロリと1つ涙を流すと、彼が僕を抱きしめながら、無事でよかったって呟いた。
アデルバード様は僕の存在を確かめるように顔をぺたぺたと触って、額に自分の額を当てると、安堵したように薄く笑みを浮かべる。
「心配させてごめんなさい……。伝言聞いてくれたんですね」
「リュカが攫われたと聞いて心臓が止まるかと思ったよ。本当に無事でよかったっ」
「ラセットさんが護ってくれたから」
「……そうか……だが、髪が……それに怪我もしている……」
アデルバード様が僕の切れた髪を見て眉を寄せた。
ラセットさんを助けた時にまとめていた髪が切られてしまって不揃いに髪が短くなってしまっている。それに、殴られた所も今更痛みが出てきて、眉を寄せる僕をアデルバード様が心配げに見つめてきた。
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