身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

文字の大きさ
上 下
50 / 68
花の行方

④〜アデルバード視点〜

しおりを挟む
ふわりとブローチに残ったリュカの香りが揺らいだ感覚がした。
オルコット家の別荘捜索の合間、心配で落ち着かずリュカのブローチを取り出してはまた引き出しに仕舞いを繰り返していた。じっとブローチを見つめて眉を寄せる。

「……嫌な予感がする」

自分の勘がリュカが今危ない状況だと告げている気がした。

「ルートヴィヒ!まだ見つからないのか!!」

つい声を荒らげると、外に出ていたルートヴィヒが執務室へと入ってきた。

「リュカの居場所は見つかったか」
「……いえ、ですがすぐに見つかるかと」
「どういうことだ」
「宮殿の前でシシィ=オルコットが膝まづいていると報告が」

ルートヴィヒの報告に眉を寄せ、すぐに連れてこいと命じた。彼女ならリュカの居場所も知っているかもしれない。
わざわざ自分から現れるとはなにを考えているのかわからないが、探す手間がはぶけて助かる。

ルートヴィヒの指示で使用人に連れてこられたシシィ=オルコットは酷く怯えていて、私の顔を見るとその場に跪いて床に頭を擦り付けながら謝り始めた。
それを冷めた目で見つめる。

「ロペス家と繋がっているのは分かっている。リュカの居場所を教えろ」
「……わ、私……そんなことをしたら……弟と妹がっ」
「オルコット家はロペス家に借金があるそうだな」
「……っ、突然ロペス公爵家から使いがきて、借金を全て返せと……返せないのであれば言うことを聞けと言われて。さもなくばまだ幼い妹と弟を奴隷商人に売って金を作らせるとっ……!私っ、リュカ様にとんでもないことを……」

椅子から立ち上がると、シシィの目の前に立って震える彼女を見下ろす。壁際でユンナがこちらを心配そうに見ているのが視界の片隅で確認できた。
本当なら今すぐ拷問にでもかけて情報を吐かせるが、リュカはきっとそれを許しはしない。それにユンナとも約束をしたからな。

だから、私は彼女の目の前に膝を付いて目線を合わせると、しっかりと彼女の瞳を見つめてやる。

「借金のこともロペス公爵家のことも心配いらない。だから、リュカがどこにいるのか知っているなら教えてほしい」
「……弟と妹は……」
「すぐに保護しよう」
「……ぅ、ひくっ……ありがとうございますっ……」

シシィは何度もお礼と謝罪を繰り返して、その後にオルコット家が所有する別荘の場所を教えてくれた。
何ヶ所かあったそうだが金の工面のためにほとんどを売ってしまい、残っているのはそこだけらしい。

「ルートヴィヒ行くぞ」
「陛下……外はもう真っ暗です。今出るのは危険かと……」
「そんなことを言っている間にリュカになにかあったらどうする気だ」
「……数人護衛をつけます。準備をしますのでそれまでお待ちいただけますか」
「わかった」

泣き続けるシシィをルートヴィヒが連れていき、私はまた椅子に腰かけた。
いまだに香りの揺らぐブローチを見つめながら、リュカの無事をひたすらに祈る。

私の花人……私の花嫁……。
私の愛する人。
どうか……どうか彼が無事でいますように。

ルートヴィヒの準備が整うと私達は宮殿の入口付近で集まって道を確認しあった。

「この道を行く。別荘まではこの道が1番近い」
「それがいいでしょう」

地図を拡げてルートヴィヒと話し合いをしていると、ユンナとシシィが来た。

「陛下……どうかリュカ様をお願い致します」

心配そうにこちらを見つめてくる2人にしっかりと頷いて、当たり前だと応える。
リュカは必ず助ける。

「お気をつけて」

ユンナの言葉に頷くと、地図をしまって馬に跨った。ルートヴィヒと護衛も馬に乗ったのを確認すると勢いよく駆け出す。

「陛下、夜ですから慎重に向かいましょう。道は崖も多いですから」
「ああ」

少し後ろを着いてくるルートヴィヒに声をかけられて、焦る気持ちをなんとか押し止めた。
ここで焦って怪我でもしたら元も子もない。
夜ではあまりスピードも出せないため、周りに気を配りながら何度も地図を確認して道を進んでいく。

「リュカ……」
「リュカ様ならどんなピンチも乗り越えてみせますよ。弱そうに見えて根性はありますから」
「リュカの先生が言うならそうなのかもしれないな」
「ええ、間違いありません」

不器用なルートヴィヒなりに私のことを気遣ってくれているのだろう。それが今は有難い気もする。
それでもやはり焦る気持ちは止まらない。

早く見つけてやりたい。
真っ暗な道を進んでいると、段々とリュカにこのまま手が届かないのではないかと思えてきて、その考えをなんとか振り払い前へと進んでいく。

「陛下少しスピードを落としましょう」
「……っ……わかっている」

リュカ……。
まだまだ別荘までの道のりは長い。
深呼吸をすると少しだけスピードを緩めて、ルートヴィヒの隣に並んだ。

そんな私のことを、ルートヴィヒが心配げに見ているのがなんとなくわかっえ、自分は相当焦っているのだなと自覚させられた。

はやく助けてやりたい。
リュカからの伝言を思い出す。

『僕の一番星』

あの言葉はとても重く私の心にのしかかる。
彼の中で1番に輝ける自分でありたいと思う。
いつだってどんな困難からもこの手で救ってやりたいと……。

その一方で、もしも……と考えてしまう弱気な自分もいる。

そのもしもが起こってしまったら、私は彼の一番星で居続けることは出来るのだろうか……。
彼に誇れる自分であり続けられるだろうか。

「……っ絶対に間に合う」

弱気な自分の心を奮い立たせる。
もしもなど存在しないと、強く強く自分に言い聞かせ続けた。

しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!

こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...