身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

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花の行方

④〜アデルバード視点〜

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ふわりとブローチに残ったリュカの香りが揺らいだ感覚がした。
オルコット家の別荘捜索の合間、心配で落ち着かずリュカのブローチを取り出してはまた引き出しに仕舞いを繰り返していた。じっとブローチを見つめて眉を寄せる。

「……嫌な予感がする」

自分の勘がリュカが今危ない状況だと告げている気がした。

「ルートヴィヒ!まだ見つからないのか!!」

つい声を荒らげると、外に出ていたルートヴィヒが執務室へと入ってきた。

「リュカの居場所は見つかったか」
「……いえ、ですがすぐに見つかるかと」
「どういうことだ」
「宮殿の前でシシィ=オルコットが膝まづいていると報告が」

ルートヴィヒの報告に眉を寄せ、すぐに連れてこいと命じた。彼女ならリュカの居場所も知っているかもしれない。
わざわざ自分から現れるとはなにを考えているのかわからないが、探す手間がはぶけて助かる。

ルートヴィヒの指示で使用人に連れてこられたシシィ=オルコットは酷く怯えていて、私の顔を見るとその場に跪いて床に頭を擦り付けながら謝り始めた。
それを冷めた目で見つめる。

「ロペス家と繋がっているのは分かっている。リュカの居場所を教えろ」
「……わ、私……そんなことをしたら……弟と妹がっ」
「オルコット家はロペス家に借金があるそうだな」
「……っ、突然ロペス公爵家から使いがきて、借金を全て返せと……返せないのであれば言うことを聞けと言われて。さもなくばまだ幼い妹と弟を奴隷商人に売って金を作らせるとっ……!私っ、リュカ様にとんでもないことを……」

椅子から立ち上がると、シシィの目の前に立って震える彼女を見下ろす。壁際でユンナがこちらを心配そうに見ているのが視界の片隅で確認できた。
本当なら今すぐ拷問にでもかけて情報を吐かせるが、リュカはきっとそれを許しはしない。それにユンナとも約束をしたからな。

だから、私は彼女の目の前に膝を付いて目線を合わせると、しっかりと彼女の瞳を見つめてやる。

「借金のこともロペス公爵家のことも心配いらない。だから、リュカがどこにいるのか知っているなら教えてほしい」
「……弟と妹は……」
「すぐに保護しよう」
「……ぅ、ひくっ……ありがとうございますっ……」

シシィは何度もお礼と謝罪を繰り返して、その後にオルコット家が所有する別荘の場所を教えてくれた。
何ヶ所かあったそうだが金の工面のためにほとんどを売ってしまい、残っているのはそこだけらしい。

「ルートヴィヒ行くぞ」
「陛下……外はもう真っ暗です。今出るのは危険かと……」
「そんなことを言っている間にリュカになにかあったらどうする気だ」
「……数人護衛をつけます。準備をしますのでそれまでお待ちいただけますか」
「わかった」

泣き続けるシシィをルートヴィヒが連れていき、私はまた椅子に腰かけた。
いまだに香りの揺らぐブローチを見つめながら、リュカの無事をひたすらに祈る。

私の花人……私の花嫁……。
私の愛する人。
どうか……どうか彼が無事でいますように。

ルートヴィヒの準備が整うと私達は宮殿の入口付近で集まって道を確認しあった。

「この道を行く。別荘まではこの道が1番近い」
「それがいいでしょう」

地図を拡げてルートヴィヒと話し合いをしていると、ユンナとシシィが来た。

「陛下……どうかリュカ様をお願い致します」

心配そうにこちらを見つめてくる2人にしっかりと頷いて、当たり前だと応える。
リュカは必ず助ける。

「お気をつけて」

ユンナの言葉に頷くと、地図をしまって馬に跨った。ルートヴィヒと護衛も馬に乗ったのを確認すると勢いよく駆け出す。

「陛下、夜ですから慎重に向かいましょう。道は崖も多いですから」
「ああ」

少し後ろを着いてくるルートヴィヒに声をかけられて、焦る気持ちをなんとか押し止めた。
ここで焦って怪我でもしたら元も子もない。
夜ではあまりスピードも出せないため、周りに気を配りながら何度も地図を確認して道を進んでいく。

「リュカ……」
「リュカ様ならどんなピンチも乗り越えてみせますよ。弱そうに見えて根性はありますから」
「リュカの先生が言うならそうなのかもしれないな」
「ええ、間違いありません」

不器用なルートヴィヒなりに私のことを気遣ってくれているのだろう。それが今は有難い気もする。
それでもやはり焦る気持ちは止まらない。

早く見つけてやりたい。
真っ暗な道を進んでいると、段々とリュカにこのまま手が届かないのではないかと思えてきて、その考えをなんとか振り払い前へと進んでいく。

「陛下少しスピードを落としましょう」
「……っ……わかっている」

リュカ……。
まだまだ別荘までの道のりは長い。
深呼吸をすると少しだけスピードを緩めて、ルートヴィヒの隣に並んだ。

そんな私のことを、ルートヴィヒが心配げに見ているのがなんとなくわかっえ、自分は相当焦っているのだなと自覚させられた。

はやく助けてやりたい。
リュカからの伝言を思い出す。

『僕の一番星』

あの言葉はとても重く私の心にのしかかる。
彼の中で1番に輝ける自分でありたいと思う。
いつだってどんな困難からもこの手で救ってやりたいと……。

その一方で、もしも……と考えてしまう弱気な自分もいる。

そのもしもが起こってしまったら、私は彼の一番星で居続けることは出来るのだろうか……。
彼に誇れる自分であり続けられるだろうか。

「……っ絶対に間に合う」

弱気な自分の心を奮い立たせる。
もしもなど存在しないと、強く強く自分に言い聞かせ続けた。

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