身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

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僕の一番星

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楽しみなことっていうのは中々訪れなくて、うずうずした気持ちを抱えたままなかなか寝付けない。前日は余計わくわくしてしまって更に眠れなかった。
視察当日の寝不足な僕の目元をアデルバード様が優しく撫でてくれる。

「楽しみで眠れなかった?」
「……その、……はい……」
「リュカは本当に可愛いね」

アデルバード様の乗る馬に乗せてもらい、彼にしっかりと支えられながら、初めての乗馬に少しうきうきする。それと同時に後ろから感じる体温と匂いにドキドキしてしまう。

今日はお忍びみたいなものらしくて、馬車ではなくて馬で視察に向かうんだ。
シシィとユンナが同行することもアデルバード様が許してくれた。

シシィはラセットさんの馬に一緒に乗っていて、ユンナは自分で馬を操縦している。
地面から鳴り響く馬の蹄の音を聴きながら、アデルバード様の匂いと髪を撫でる風に心地良さを感じて目を細めた。
スピードが段々と緩やかになってくると、人々の賑わう声が耳に届いてくる。思わず顔に笑みを浮かべて周りをキョロキョロと見渡した。

「馬屋に馬を置いてこよう。そしたら好きに見て回っていいからね」
「本当ですか!」
「ああ、リュカの行きたいところに行こう」

優しく頭を撫でられて、頬を染めながらありがとうございますって感謝の言葉を伝えた。
馬を預け終えると、そのまま全員で街の中を見て回る。人の多い大通りでは、すぐに皆とはぐれてしまいそうで不安になる。ついアデルバード様の手を握ると、彼が微かに笑って握り返してくれた。

「あらあら!そこのかっこいいお兄さん!!1つ買って行っておくれよっ」

屋台の建ち並ぶ道を歩いていると屋台のおばさんに声をかけられて僕達は立ち止まる。
街の人達はあまりアデルバード様の顔は知らないみたいで、こうやって気安く誰かが彼に話しかけるのを見るのは新鮮な感じがした。

彼女は手に、丸い肉の塊が串に刺さった食べ物を持っていて、初めて見るそれに首を傾げる。

「1つ貰うよ」

代金を払ったアデルバード様が僕に手渡してくれる。

「ほら、リュカ。これはポロッニョと言って、この国の名産品の1つだよ。動物の肉を叩いて細かくしたものを丸めてタレに付けて焼いたものだ」

戸惑いながらもそれを受け取ると、どうしたらいいか分からなくて受け取ったまま固まってしまった。

「これって……」

立ったまま食べるなんて行儀が悪いよね……。
困り果てていると、アデルバード様が、突然僕の持っていたポロッニョにかぶりついた。

驚きすぎて、思わずアデルバード様を凝視してしまう。
もぐもぐとポロッニョを頬張るアデルバード様はしっかりとそれを飲み込んでから、民間ではこうやって食べるのが普通なんだよって教えてくれた。

アデルバード様はいつも完璧で何処にも隙がないから、まさか立ち食いをするなんて思わなくて、意外な一面を垣間見て驚きと、親近感を感じた。

「……い、いただきます」

アデルバード様の真似をしてポロッニョにかぶりつくと、思ったよりも熱いそれに口をほふほふさせながらなんとか噛み砕いていく。

あまじょっぱいタレの味と、じゅわりと口の中に広がる肉の汁が舌の上を滑って、噛みごたえもあってとても美味しい。

「……おいひいです!」
「よかった」

美味しい美味しいって食べ進める僕をアデルバード様が優しげに見守ってくれていて、その視線になんだか気恥しいような嬉しいような感じがした。
ポロッニョを食べている僕を見て、おばさんがやけに嬉しそうに顔を綻ばせる。

「そんなに気にいったんなんら、1本と言わず5本!いやっ、10本くらい買って行っておくれよっ」

おばさんの圧に押されてたじろぐ僕をアデルバード様が楽しげに見ていて、助けて欲しいって思ってしまう。
アデルバード様は追加で数本ポロッニョを購入すると、僕の手を引いてその場を離れた。

「ルートヴィヒと二人で少し街の様子を見てくるよ。リュカは好きに街を回っていていいからね」
「……わかりました」

本当は僕も一緒に行きたいけれど、今の僕じゃまだアデルバード様のお役には立てないから、大人しく彼の言う通りにすることにした。

少しだけ悲しいと思ってしまう。
2人は街の西南から回るみたい。僕はアデルバード様達と別れて、シシィとユンナとラセットさんと一緒に街を見て回ることにした。
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