身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

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そんな時こそ

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一頻り踊り終えた僕たちは、会場に居る数人の人達に声をかけられて、それに対応しながらパーティーを楽しんだ。
ジュディの姿はいつの間にか見えなくなっている。

しばらくして、エレノアも僕もすっかり疲れてしまい、そろそろ帰ろうかと決めて出口へと向かった。
会場から出て、中庭を通っていると女の子の泣く声が聞こえてきて、僕たちは顔を見合わせて、そちらへと足を進める。後ろ姿が見えて目を凝らすと、泣いている女の子の正体がジュディだということに気がついて、思わず足を止めた。

「……アレン……」

ジュディに寄り添うように彼女の涙を拭いてあげているアレン。エレノアがぽつりと彼の名前を呼ぶと、それが聞こえたのかアレンとジュディがこちらに顔を向けてくる。

「……なんの用だ」
「たまたま泣く声が聞こえてきたから来ただけよ。すぐに帰るわ」

対峙したエレノアがそう言って、ジュディの肩に回されているアレンの手をちらりと見る。
エレノアがそれを見て微かに傷付いたようにきゅっと唇を噛んだのがわかった。

僕はエレノアの肩を数回とんとんと指で小突くと、自分の後ろに居るように言ってアレンの前に出る。

「あんたが泣かせたって聞いた」
「彼女から?」
「……ああ。最低だな」

睨みつけてくる彼に僕は笑みを浮かべる。

「彼女からちゃんと詳細は聞いたの?君はあの場に居なかった?居たのならすべて見ていたはずだよね」
「っ、聞いたさ。だが、ジュディは場に不慣れなんだ。エレノアには悪いことをしたと思っているが、大事な恋人を傷つけられたことは許せない」

アレンがじっと僕のことを睨みつけてくる。

「……エレノアのこと嫌ってる訳ではないの?」
彼がエレノアに謝罪するとは思っていなかったから微かに驚く。
だからあえて尋ねてみる。

「……知らねえよ」

目を逸らした彼を見つめながら、二人の間にはなにかあるのかもしれないって思った。

「……アレン、私……」
「っ、とにかく、ジュディに謝ったらどうだ」

なにかを振り切るようにエレノアから目を逸らし、謝罪を求めてくるアレン。そんな彼に、ジュディがぎゅっと縋りついて、私は構いませんからってうるうると瞳を潤ませる。

それを黙って僕の後ろで見ていたエレノアは、泣きそうに震える声で言葉を発する。

「謝ることなんてないわ……」

呟かれた言葉を聞いたアレンがくっきりと眉間に皺を寄せる。

「お前はいつもそうだ。気が強くて、自分が一番正しいと思ってる!忘れてないだろうなっ、お前が先に俺のことを裏切ったんだからな」
「……っ……」

アレンの言葉にエレノアは口をはくはくさせてなにか言い返そうとするけれど、言葉は出てこないのか最後は唇を噛み締めながら俯いてしまった。

「……エレノア行こう。お義父様とお義母様が帰りを待っているよ」

また泣いてしまいそうなエレノアの手を引いて、2人に簡単なお辞儀だけしてその場を離れる。エレノアは隣を黙って着いてきてくれた。
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