身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

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そんな時こそ

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瞳を潤ませながらも泣くのを必死に我慢しているエレノアは、見ているだけで痛々しい。この子にこんな顔をさせているアレンにふつふつと怒りが湧いてくるけれど、エレノアの想い人だから悪く言うことも出来ない。

「……ジュディ様はフローレンス男爵家の長女なのだけれど、男爵家の子だとわかったのは最近になってからなの。たまたま男爵が立ち寄った村の平民が産んだ子で、ずっと隠されて生活していたみたいだけれど、最近になって認知されたみたい」
「……そうなんだね」
「貴族の常識が分からないことは私も理解しているのよ……。それでも、学ぼうと努力することは出来るはずだわっ。それなのに、彼女はアレンが優しいからって甘えて、平民の価値観を貴族社会に持ち込もうとしている……。そんなのここじゃ通用しない。それに、傍に居るアレンまで悪く言われてしまうわ」

アレンのことを思って涙を流し始めたエレノアをそっと抱きしめてあげる。

僕も貴族社会については疎くて、ジュディとは似たような立場にある気がする。それでも、エレノアの言う通り学ぶことは出来るって知っている。

「アレンとジュディはマクホランド辺境伯爵家で開かれた晩餐会で出会ったのですって。ジュディの天真爛漫な所が好きなんだって、前にアレンが言っていたのを耳にしたことがあるの……。私、どうしてアレンのこと好きになったのかしら」
「……エレノア……」

僕の胸の中で涙を流すエレノアの背中を撫でてあげながら、どうしたら彼女の心を癒してあげれるのか考える。
けれど、いい案は浮かんでこなくて、エレノアが僕を助けてくれたときみたいには上手くいかない。ただ、大丈夫だよって声をかけながら優しく背を撫でてあげることしか出来ない自分に歯痒さを覚えた。

「お義兄様、私は大丈夫よ……」

涙をハンカチで拭いた彼女は、口元に微笑みを浮かべて言う。それが強がりだって分かっているのに、エレノアが真っ直ぐに僕を見て、目で大丈夫だと伝えてくるから、ただそれに頷いてあげることしかできない。

「そろそろ戻りましょうか」
「……うん」

椅子から立ち上がったエレノアが僕の手を引いてくるから、エレノアの横に並んで一緒に休憩室から出た。
会場に戻ると、僕達が入ってきたのを見ていたジュディが足早に近づいてくる。

「アランになにを言ったんですか?」

高くよく通る声が会場内に響き渡った。
くりくりと丸い瞳を瞬かせたジュディが僕とエレノアの前に立ち止まる。身構える僕とエレノアを交互に見た彼女は、もう一度、アランになにを言ったの?って尋ねてくる。

「いつも絶対に怒ったりしないアランが、私に注意をしてきたんですよ。言動に気をつけろだなんて、酷いわ。お2人がなにか言ったのでしょう?特に、エレノア様は言いたいことが沢山あるはずですもの」

まるで、自分の言っていることが正しいみたいに言ってくるジュディに、エレノアが訳が分からないわって言い返す。

「嫉妬したのでしょう?アランが私と一緒に居るから泣いてしまったのね」
「……これは……」
「私、エレノア様にお義兄様が出来たなんて全く知りませんでしたのよ。それでアレン様にお聞きしたら、その方は陛下に嫁ぐために隣国から来られたと……。知らない私が常識がないみたいに言われるですよ。私、それを聞いて悲しくなってしまって」

彼女がどうしてそんなことを言い出したのかわからないまま、ただ黙ったまま彼女を真顔で見つめ続ける。

「エレノア様はアランがお好きだから、私に嫉妬して嫌がらせをしてきたのですね。でも、貴方たちはの関係はもう終わっているでしょう。ご自分で捨てた関係なのに、見苦しいですわよ」
「貴方、自分がなにを言っているかわかっているのかしら」
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