身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

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そんな時こそ

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アデルバード様に1ヶ月は勉強をお休みするように言われて、僕はその期間なにをしようかと頭を悩ませていた。

「考え事かい?」
「あ…その…」

今はアデルバード様が使っている部屋にお邪魔させてもらっていて、ベッドに腰掛けて彼の膝の上で抱きしめられている状態だ。

助けて貰った日から、アデルバード様は度々この部屋に僕を連れてきてくれる。それから、一緒に眠って朝を迎えるということを繰り返していた。
自分の気持ちの名前が愛だと知ってから、なぜだか彼といるとむず痒いような、恥ずかしいような気持ちを感じてしまい、緊張してしまうようになった。顔もすぐに赤くなるし、少しだけ泣きたい気持ちにもなる。
抱きしめられている部分から温かな体温を感じると、その部分が酷く熱くなって、なにかが僕の中で頭をもたげるんだ。

それが怖くて、彼から逃げようと腰を浮かした。

「こら、また逃げようとして。悪い子だね」
「……っ、だって……」
「なーに?」

喉仏にキスをされて、そのくすぐったさに更に全身が熱を持った気がする。内側から、アデルバード様を酷く求めるような飢餓感が溢れてきて、自分が自分ではないような気にさせられる。

「……アデルバード様に触れてると……っ……なんだか変なんです」
「なにが変?」
「……身体の奥が……熱い、ん……っ」

話している途中でキスをされて、舌を絡められるとなにもかも白インクを撒き散らしたみたいに真っ白に染って、吹き飛んでしまう。

「舌を出してごらん」
「……っ……ぁ……」

言われた通り恥ずかしさを押し殺しながら微かに舌を前に突き出す。そうすると、アデルバード様が長い指で僕の舌を掴んで弄び始めた。

変な心地に眉を寄せると、彼の指が上顎を撫でてきて身体が跳ねる。彼とのキスでそこが僕の弱い所だと教え込まされたせいなのか、過剰に反応してしまうことに羞恥心が更に増す。

指を引き抜いた彼がもう一度唇を寄せてきた。舌同士を絡ませて息を奪い合うような荒々しい口付けをされる。鳴り響く水音と、かすかに漏れてしまう声を耳に入れながら必死に舌を絡める。
目を薄く開けると、楽しそうに細められた琥珀色の瞳が僕のことを見ていることに気がついて、思わずぎゅっと目を閉じた。

目が合ってしまったことで、彼から与えられる感覚がますますリアルに思えて感度が増す。
アデルバード様が唇を合わせながら、僕の着ているシャツの中に、熱を持った手を滑り込ませてくる。腰や脇腹を撫でられて背筋に痺れが走る。

「……アデルバード様っ」

なんだか未知の領域に足を踏み入れていくような感じがする。

獰猛さの垣間見える瞳から逃げるように、もう一度身体を後ろに引くと、アデルバード様はそれを利用してそのまま僕をベッドへと押し倒した。
柔らかなクッションが背中に当たる感触に、もう逃げられないと悟る。

「アデルバード様っ……」

彼から濃ゆく甘い香りが漏れていて、その匂いと熱に包まれると、自分の中に押しとどめている激情がこじ開けられていくような感覚に陥る。

大きな手が僕の脇腹からどんどんと上へ登っていき、指の腹が僕の胸の突起を掠めた時、ビクリと身体が大きく跳ねてやけに甘ったるい声が口から漏れた。
思わず両手で口を抑えると、僕を見ていたアデルバード様がふって微かに口角を上げて、その後に服の中からすんなりと手を抜いた。

そして、僕の上から退くと抱き起こして、何も無かったみたいにキスをしてくれる。
訳が分からなくて混乱していると、先程の獰猛さを引っ込めた彼は、冗談が過ぎたねって言って謝ってから頭を撫でてきた。

その先が無かったことに安堵したような、でも、寂しくもある複雑な気持ちが胸を覆う。だから、撫でられながら思わず、むうっと唇の先を尖らせた。

「どうしたんだい?」

僕の尖った唇を指でつついてくる彼に、自分でもよく分からないって答える。

「止めたから拗ねてるのかい?」
「! っ違います」
「リュカは可愛いね。こんなに可愛いリュカに手を出せないなんて辛いけれど、まだ婚姻していないから我慢するしかないな」

甘すぎる彼の雰囲気と言葉にかーっと顔が熱くなった。赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて彼の胸に自分から顔を埋める。

そっと抱きしめ返されて、彼がまた「可愛い」って囁きながら僕の背を撫でてくれた。
アデルバード様と婚姻したら、僕は彼に抱かれるのだ。

ただでさえ少しのスキンシップでいっぱいいっぱいなのに、この先に進んだら僕はおかしくなってしまうんじゃないだろうか。
そこまで考えて、アデルバード様におかしくさせられるなら良いかなって思ってしまった。自分の思考に更に羞恥心が増す。

「リュカは温かいな」

項辺りにキスを落としながらアデルバード様が呟く。息が首に当たって、くすぐったさに身悶える。そんな僕の反応が面白かったのか、またわざと息をかけられて、僕はまた身体を震わせてなんとも言えない感覚に晒された。

「……食べてしまいたくなるね」
「……え……っ……」

不穏な言葉を口にしたアデルバード様は僕が返事をする前に、かぷりと僕の首元に噛み付いて、ジュっと音がするくらい強くそこに吸い付いてきた。

「……ん゛……」

痛みに眉を寄せて呻くと、アデルバード様が首から顔を離して、痛くしてごめんって言いながら笑みを浮かべ、僕の唇にキスをしてきた。
恥ずかしがる僕にアデルバード様がもう一度キスをしようとした時、扉のノック音が聴こえてきて二人してぴたりと動きを止める。
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