身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

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まるでスポンジ

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煮え切らない返事をする僕からアデルバード様は身体を離すと、そっと僕の頬に両手を添えて、形のいい唇を動かした。

「それなら、合言葉を決めよう」
「……合言葉?」
「そうだよ。助けて欲しいときや頼りたいとき、なにか困ったことがあるときにその言葉を言えば、私がいつだってリュカの力になる。どんな言葉がいいかな?」

ふわりと笑みを向けてくれるアデルバード様の顔を見つめていると、鼻の奥がつーんっとして、また止まっていた涙が流れ出しそうな感覚を覚えた。
彼は優しい。

僕の気持ちを汲み取って、いつだって先回りして手を差し出してくれる。

「……僕の一番星……」

貴方は僕だけの眩い星のようだ。

「その言葉がいいの?」

もしも、誰かに助けを求めたとして、きっと一番に思い浮かぶのはアデルバード様の顔。彼は、僕にとっての一番星だから。

頷くと、わかったって頬を撫でられて、それから両頬に手を添えたまま彼が自分の唇を僕の唇に合わせてきた。

彼とのキスは甘くて、まるで溶かされてしまうんじゃないかって思うくらい気持ちが良い。唇を合わせるたびに、大丈夫だよって安心させようとしてくれているようにも感じる。

「アデルバード様、ありがとうございます」
「お礼なんていいんだよ。もっと早く気づいてあげていればよかったと後悔しているんだ。だから謝らせて欲しい」
「……でも、アデルバード様は助けてくれました。僕、アデルバード様が来てくれたとき凄く嬉しかったです。だから、ありがとうございます」

ラナやラセットさんにもお礼を言わないと。
2人にも凄く心配をかけてしまったから。
お礼を言いながら微かに笑う僕のおでこに、アデルバード様がキスをしてくれた。

「私はリュカのことがなによりも大事なんだ。だから、いつだって君の元に駆けつける。愛してるよ」

『愛してる』

その言葉が僕の胸の奥深くに届いて鳴り響いた。
ずっと分からなかった気持ちの名前の答えを知れた気がする。じっとアデルバード様の瞳を見返しながら、言葉を心の中で噛み砕いていく。

「……愛してる……?」
「そうだよ。リュカのことが好きで、リュカのことで胸がいっぱいになって、リュカの行動1つ1つに一喜一憂するんだ。誰にも渡したくないし、何者からも守り抜きたい。それは全部君を愛しているからだ」
「……僕のこの気持ちも、愛してるってこと?」
「そうだと嬉しいな」

目を細めながら嬉しそうに微笑むアデルバード様。微笑みを見返しながら、そうかこれは愛って名前なんだって、胸がぽかぽかするような、不思議な感覚になった。

「ねえ、リュカ聞いてもいいかな」
「……なんですか?」
「フローレンス=ワトソンに酷い仕打ちを受けたのだろう?」

先程までの柔らかさはなりを潜めて、甘いのに棘を含んだ声音で尋ねられた。思わず叩かれた腕を抑えてしまう。もう痛みはあまり感じないけれど、少しだけ感じる違和感に眉をしかめる。

「……見せて」

アデルバード様が僕の腕をそっと掴んで、袖を捲ると、叩かれた所にくっきりと赤い蚯蚓脹れが出来ていて、それを確認した彼のこめかみがぴくりと1度動いたのが分かった。

「痛い?」
「もう、痛くありません」
「……許せないな」

呟いたアデルバード様は腫れた箇所をそっと指でなぞり、腕に顔を近づけるとなにを思ったのかその場所に舌を這わせ始めた。

「あ、アデルバード様っ!?」

思わず腕を引くけれど、アデルバード様の力には適わない。ぴくりとも動かすことが出来なくて、されるがまま、なんだか卑猥にも感じるその行為を目に焼きつける。

「民衆の間では唾をつけて怪我をしたところを消毒するそうだよ」
「……そ、それは、そうかもしれないですけど……」

彼の舌の感触が生々しすぎて、話は右から左に流れて行ってしまう。恥ずかしくて、ずっと舐められていると変な感覚に陥って、むず痒いような、気持ちいいような気がしてくる。

「……ぁ……」

僕の小さく漏れた声が部屋に響いて、アデルバード様がしっかりとその声を拾い上げる。ほくそ笑むように口角を上げた彼は僕の腕から顔を離して、人差し指の腹で太ももを撫でてきた。

「勉強はしばらく休みなさい。いいね」
「……っ、は、い……」

荒い息を吐き出しながらなんとか頷くと、アデルバード様も満足気に頷いてからその場に立ち上がった。そうして、座っている僕を抱き上げるとそのままベッドへと向かって歩き出す。

ベッドに寝かされた僕の隣にアデルバード様も転がり、ぎゅっと抱きしめられた。彼の胸の中に閉じ込められて、幸せな心地になる。

「少し寝た方がいい」
「……アデルバード様、、服に皺が……」
「そんなことかまわないさ。それよりリュカの方が大事だ」

頭に回された彼の綺麗な手が髪の間を縫って入ってきて、優しく梳くように撫でられた。
彼の匂いに包まれながら、戸惑いがちに言われるまま目を閉じると、更に強く抱きしめられて、その温もりを感じると段々と眠気が襲ってくる。
自分で思うよりも疲れていたのかもしれない……。
それとも、アデルバード様に抱きしめられているからかな?

「おやすみリュカ」
「おやすみなさい……アデルバード様」

耳当たりのいい彼の落ち着いた声を聞きながら、少しづつ微睡みの中に意識を預けていく。
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