身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

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まるでスポンジ

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抱かれた状態のまま、離宮でアデルバード様が利用している部屋へと連れていかれた。ソファーにそっと降ろされる。

「……アデルバード様、ごめんなさい……」

ようやく見えた彼の顔には、なんの感情も現れてはいなくて、つい謝罪の言葉を口に出してしまう。

「それはなにに対して?」
「……それは……」

わからない。
兎に角謝らないとって思ったんだ。
心配をかけてしまったし、迷惑をかけてしまったから、謝らないといけないって思い、出た言葉だった。

アデルバート様が僕の目の前に片膝を着く。両手を取られて、痛くない程度に握りしめられた。そして、ただ一言「教えて欲しかった」って眉を寄せながら言われたんだ。

「っ……大丈夫だと思って……。だって、僕はなにも出来ないから、頑張らないとって思ったんです……もっと頑張らないとって……」
「……無理をしないで欲しいと伝えたはずだけど、違ったかな?」
「無理なんかしてません……」
「そうは言っても、現に限界が来ているじゃないか」
「それは……」

アデルバード様の言うことは正しい。
僕はもう限界だったんだ。
まだ数週間しか勉強をしていないけれど、打たれた腕が痛むように、貶されすぎた心も腫れ上がったみたいに痛くて、もう応急処置では足りないくらい傷を負っているんだ。

けれど、ずっと独りだったから助けを求めていいのかも、そもそも助けてと声に出すことが許されるのかすらわからなくて、ただいつものように耐える選択肢を選んでしまった。
アデルバード様が真っ直ぐに琥珀色の両目で見つめ続けてくる。

心配したんだと目が語っていて、彼の目を見返すことが今の僕には出来ない。逃げるように、繋がれた手に視線を向けた。

「…ただ、弱音を吐いて欲しかった。それだけで良かったんだよ。そうしたら私がいつだってリュカに寄り添って気が済むまで慰めるし、手を貸した」

まるで子供を叱りつけるように優しい声音で言われてぐっと唇を噛み締める。
アデルバード様の声には怒りと悲しみと悔しさが滲んでいて、すごく大事に思ってくれていることが伝わってくる。

「……僕、助けを求めていいのかも、気持ちを伝えていいのかもわからなくて……。この重い気持ちを伝えたら嫌われるかもしれないって、迷惑に思われるかもしれないって怖かったんです……」

震える声で途切れ途切れに思いを吐露する。
そうしたらアデルバード様は僕をそっと抱きしめて、なんでも話して欲しいって言ってくれた。
触れられた所から伝わってくる熱と、彼の匂いを思い切り感じると心が落ち着いてきて、何もかも嘘だったんじゃないかってくらい穏やかな気持ちになれた。

僕はずっと前からアデルバード様なしでは生きていけなくなっている気がする。

僕も彼の首に抱きついて、顔を埋めながら心を落ち着かせるように爽やかで甘い匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。

「そうやって沢山甘えてくれたら嬉しい」

あやすように後頭部を撫でてくれる彼が小さく笑う。

「……僕、甘え方なんて、分かりません……」
「こんな風に頼ってくれたらいいんだよ」
「……でも……」

甘えて欲しい、頼って欲しい、と言われても、僕にはそれのやり方がいまいちピンと来ないんだ。
そういったこととは縁遠い生活をしていたことも理由だけど、1番はやっぱり、僕なんかがってどうしても思ってしまうから。助けを求めたくてもつい口ごもってしまう。
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