身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

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僕の家族

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邸の入口でエレノアさんのご両親の、エーデルシュタイン公爵様と公爵夫人に笑顔で向かえられる。なんだか優しそうな雰囲気に内心でとてもほっとした。

「リュカお義兄様、こちらは私のお父様とお母様ですわっ!とっても優しくて、かっこよくて、素敵でしょう?お義兄様も、とても素敵な方で嬉しいですわ。私、ずっと兄弟が欲しいと思っていましたの」

マシンガンのように喋り続ける彼女は楽しそうで、本当に心の底から僕がここに来たことを喜んでくれているように感じられた。まだ、彼女のお義兄様・・・ではないけれど、それでもこんな僕を受け入れてくれたことに感謝の気持ちが湧いてくる。

エレノアさんと手を繋いでいる僕に、エーデルシュタイン公爵様が1歩近づいてくる。それから、おっとりとした優しげな口調で「よく来たね」って声をかけて下さった。
優しい声音に釣られるように、僕も挨拶をする。

「……リュカ=ロペスです。本日はお時間を頂きありがとうございます」

礼儀作法なんて分からないから、とりあえず名前を名乗ってお辞儀をしておく。公爵様も僕の真似をして、こちらこそ来てくれてありがとうってお辞儀をしてくれて、とても驚いた。
公爵家当主がこんな風に頭を下げるなんて思わなかったから。

高位貴族の人達は皆、プライドが高くて怖い人ばかりだと勝手に思い込んでいた。元に、お父様はそうだった。でも、その思い込みが間違いだったと反省する。

エレノアさんのものよりも少し薄いプラチナブロンドの髪に、垂れ目がちな青い瞳が、優しげでおっとりとした雰囲気を醸し出している公爵様は、僕の父であるロペス公爵とは全然違う雰囲気を持った人だという印象を受けた。

(同じ公爵でもこんなに違うものなんだ……)
「ねえ、お父様。私、お義兄様とお散歩に行ってきてもいいかしら?」
「構わないよ。私は陛下とお話をしないといけないからゆっくりしておいで」

エレノアさんの髪を優しく撫でながら答えた公爵様に、彼女は嬉しそうにはにかんで、ありがとうお父様って返事をしている。そして、僕の手をまた引いて庭の奥の方へと向かって歩き始めた。

誰かと手を繋いで歩いたことがなくて、なんだかくすぐったいような、それでいて不思議と温かさを感じるような気持ちになる。

数分歩いて辿り着いたのは、邸の裏手に設置してあるガーデンテーブルとチェアがある場所だった。エレノアさんに促されてそこに腰かける。

「ねえ、お義兄様」
「……え、と……どうしたんですか?」
「ふふ、お義兄様の方が歳上なのに敬語なんておかしいわ。私のことはエレノアって呼んで頂戴。それに敬語もいらないわ」
「……分かった。エレノア、どうしたの?」

首を傾げると、エレノアは先程までの満面の笑みを引っ込めて急に真剣な表情で、真っ直ぐにこちらへと視線を向けてきた。その表情を見つめ返しながら、なにかしてしまっただろうか……と不安になる。

「後から知られて誤解されるのは嫌だから、先に言っておきますわね」
「……はい」

思わず敬語に戻ると、エレノアは1度息を大きく吸ってから覚悟を決めたように口を開いた。

「私、少し前まで次期皇后候補でしたの」
「……え?」

エレノアの言葉が上手く呑み込めなくて、思わず言葉にならない声を漏らしてしまう。
色んな疑問や不安が一気に押し寄せてきて、なにを言えばいいのか分からず、頭の中が真っ白になってしまった。

皇后候補ってことはアデルバード様と恋人だったの?
僕が来たから別れた?

過去形ってことは、皇后になれなくなったってことだよね……僕のせいってこと?
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