身代わりの花は甘やかに溶かされる

天宮叶

文字の大きさ
上 下
17 / 68
離したくない

②〜アデルバード視点〜

しおりを挟む
手に持っていた書類を乱雑に卓上に投げると、手帳に今後の予定を書き込んでいるルートヴィヒに視線を向けた。

「リュカのことでなにか進展は?」
「こちらに資料が。どうやら彼は出生届けが出されていないようなのです」

「確かライヒトゥムでは花人が産まれた際は必ず国に報告する義務があるのではなかったか? あの国は子供が少ない上に、花人の人身売買が横行していた時期があったからな」
「ええ……見事に今まで隠していたようですね。世間では美しい一人息子を溺愛する優秀な公爵として有名ですから」

思わず鼻で笑ってしまう。手紙の内容を再び確認すれば、呆れと怒りにも似た感情が湧き出てくる。

リュカを守るためにも婚姻を急がなければならないとは分かっている。そのためにもリュカには本殿に移って貰い、私の近くにいて欲しかったのだが……。やはり私が離宮に移り住むしかなさそうだと考えを巡らせた。

手紙の差出人はロペス公爵。

中には、本物のアデレードを渡す代わりにリュカを返せという内容が、それはそれは丁寧に長々と遠回しに書かれてあった。

調べによれば、ご自慢の一人息子が婚約者のいる王子と婚礼前に契りを交わそうとしてしまったらしく大変な騒動になったらしい。

婚約者であった伯爵家のご令嬢が、王子へ婚約破棄を言い渡したそうだ。王子は婚約破棄はしたくないとご令嬢に謝罪し、あっさりとアデレードを捨てたとか。

勿論責任を取らされたロペス公爵家は領地の1部を没収され、アデレード自身は事の重大さを全くと言っていい程分かっておらず、その後も王子をおいかけてやりたい放題の末、尻拭いに奔走していた公爵

家は信用を失い首が回らなくなって来ているようだ。そこで、高位貴族のオールド家に支援を頼む代わりにリュカを嫁がせようと考えた……と。
本物を差し出せば私がよろこんで飛びつくとでも思ったのだろうな。

「本当にいい度胸をしている」

ぐしゃりと手の中の手紙を握り潰すと、無造作にテーブルの上に転がした。
オールド家の当主といえば異常性癖の持ち主で有名な人物だ。歳は50歳をとうに超えており、噂では娶った妻が何人も暴行された末に亡くなっていると耳にしたこともある。

そんな人間に実の息子を送り出そうとする親の気持ちなど理解したくもない。同時に、リュカをそんな人物の所にやろうとしていることにありえないほどの怒りを感じていた。

侮られたものだと薄ら笑って、ルートヴィヒに隣国の国王に手紙を送るように指示を出した。
内容は勿論抗議文であの腹立たしい公爵家を更に窮地に追いやるくらい簡単なことだ。

「そうだルートヴィヒ、養子の件はどうだ。良さそうな家はあったか」
「はい。こちらにリストが在りますので陛下が直接お選びください」

受け取ると少しだけ気分を良くして、ざっと内容に目を通した。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

推しの為なら悪役令息になるのは大歓迎です!

こうらい ゆあ
BL
「モブレッド・アテウーマ、貴様との婚約を破棄する!」王太子の宣言で始まった待ちに待った断罪イベント!悪役令息であるモブレッドはこの日を心待ちにしていた。すべては推しである主人公ユレイユの幸せのため!推しの幸せを願い、日夜フラグを必死に回収していくモブレッド。ところが、予想外の展開が待っていて…?

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様

冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~ 二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。 ■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。 ■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

処理中です...