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対面
②
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彼の姿を目に焼き付けると、また1つ涙を流した。
「……どうして……」
どうして彼がここに居るのだろう。
思わずラナやラセットさんの顔を見るけど、誰もなにも教えてくれる気配はない。
疑問は声にはならなくて、ただもう一度会いたいとずっと思っていた彼のことを見つめることしかできない。
確かに彼はあの月に照らされた夜にまた会おうと言ってくれたけれど、それはきっと叶わない口約束のようなものだと思っていた。
いざそれが現実になると、思考は追いつかず、会えた嬉しさと、彼が今この場所に立っていることへの疑問で頭の中は埋め尽くされてしまう。
「……泣いているのかい?」
優しい声だった。
ただひたすらに僕を気遣うような声に、涙は少しずつ止まって、声を聞いて姿を見つめているだけで、段々と心が落ち着いてくる気がした。
彼が居るからもう安心できるってなぜだか安心できて、言葉も発せないままじっと彼を見つめ続ける。
「隣に座っても?」
頷けば、彼は僕の隣の椅子に足を組んで腰掛けて、それから当然のように僕の肩に腕を回してきた。
そんなことにすらドキドキしてしまって動悸がする。
爽やかでとても甘く柔らかな香りが彼から漂ってきて、全身から漂う美しさや高貴さも相まってか、とてもくらくらしてしまう。
「ど、どうして………ここにいるんですか………」
「それよりも先に、どうして泣いていたのか教えて欲しい」
未だ微かに頬を流れる涙を彼が人差し指で掬って、それに顔を赤くしてしまう。
「………ただ……不安で」
「なにが不安?」
「皆優しいから……嫌われたくないなって……」
彼の前だと素直に思っていることを口にすることができる。それに、とても安心感を貰えるんだ。あのパーティーの夜も彼にはなんでも話せる気がしていた。
「嫌われるようなことでもしたのかい?」
前みたいに彼は僕にずっと質問しながら、ただ話に耳を傾けてくれる。心地よくて安心できるいい匂いに包まれながら、だらだらと思いの丈を声に出した。
「……とても許されないような嘘をついたから……皇帝陛下は僕のことを嫌って、この離れに住まわせているんです」
「……そうなのか……皇帝陛下に会いたいとは思わない?」
「……会いたくない」
ぽつりと出た言葉は、皇帝陛下をただただ拒否する言葉だった。
僕の言葉を聞いた彼は微かに驚いた表情を浮かべると、またすぐに柔らかな笑みを浮かべ直して、どうして?と尋ねて来た。
どう答えるのが正しいのか迷ってしまう。
そもそも彼は誰なのだろう……。
城内にいるということは、関係者なのだろうか。だとすれば、この話が皇帝陛下の耳に届いてしまわないだろうか……。
「……あの……このことは……」
「誰にも言わない。ラナもラセットもなにも聞こえていないと思うよ」
傍にいる2人には話は丸聞こえのはずだ。でも、彼が2人に視線を向けると、2人は1度だけ頷いてその場を離れてくれた。それを見て僕はほっと息を吐き出す。
「ほら、大丈夫だから、皇帝陛下に会いたくない理由を話してみてよ」
促されて、僕はゆっくりと心の声を吐露する。
「……自分のことを嫌っている人に好かれる努力をするのは、随分昔に辞めてしまったから……」
まだ10歳の時から、今までの6年間で僕は嫌という程にそれを実感していた。
「……どうして……」
どうして彼がここに居るのだろう。
思わずラナやラセットさんの顔を見るけど、誰もなにも教えてくれる気配はない。
疑問は声にはならなくて、ただもう一度会いたいとずっと思っていた彼のことを見つめることしかできない。
確かに彼はあの月に照らされた夜にまた会おうと言ってくれたけれど、それはきっと叶わない口約束のようなものだと思っていた。
いざそれが現実になると、思考は追いつかず、会えた嬉しさと、彼が今この場所に立っていることへの疑問で頭の中は埋め尽くされてしまう。
「……泣いているのかい?」
優しい声だった。
ただひたすらに僕を気遣うような声に、涙は少しずつ止まって、声を聞いて姿を見つめているだけで、段々と心が落ち着いてくる気がした。
彼が居るからもう安心できるってなぜだか安心できて、言葉も発せないままじっと彼を見つめ続ける。
「隣に座っても?」
頷けば、彼は僕の隣の椅子に足を組んで腰掛けて、それから当然のように僕の肩に腕を回してきた。
そんなことにすらドキドキしてしまって動悸がする。
爽やかでとても甘く柔らかな香りが彼から漂ってきて、全身から漂う美しさや高貴さも相まってか、とてもくらくらしてしまう。
「ど、どうして………ここにいるんですか………」
「それよりも先に、どうして泣いていたのか教えて欲しい」
未だ微かに頬を流れる涙を彼が人差し指で掬って、それに顔を赤くしてしまう。
「………ただ……不安で」
「なにが不安?」
「皆優しいから……嫌われたくないなって……」
彼の前だと素直に思っていることを口にすることができる。それに、とても安心感を貰えるんだ。あのパーティーの夜も彼にはなんでも話せる気がしていた。
「嫌われるようなことでもしたのかい?」
前みたいに彼は僕にずっと質問しながら、ただ話に耳を傾けてくれる。心地よくて安心できるいい匂いに包まれながら、だらだらと思いの丈を声に出した。
「……とても許されないような嘘をついたから……皇帝陛下は僕のことを嫌って、この離れに住まわせているんです」
「……そうなのか……皇帝陛下に会いたいとは思わない?」
「……会いたくない」
ぽつりと出た言葉は、皇帝陛下をただただ拒否する言葉だった。
僕の言葉を聞いた彼は微かに驚いた表情を浮かべると、またすぐに柔らかな笑みを浮かべ直して、どうして?と尋ねて来た。
どう答えるのが正しいのか迷ってしまう。
そもそも彼は誰なのだろう……。
城内にいるということは、関係者なのだろうか。だとすれば、この話が皇帝陛下の耳に届いてしまわないだろうか……。
「……あの……このことは……」
「誰にも言わない。ラナもラセットもなにも聞こえていないと思うよ」
傍にいる2人には話は丸聞こえのはずだ。でも、彼が2人に視線を向けると、2人は1度だけ頷いてその場を離れてくれた。それを見て僕はほっと息を吐き出す。
「ほら、大丈夫だから、皇帝陛下に会いたくない理由を話してみてよ」
促されて、僕はゆっくりと心の声を吐露する。
「……自分のことを嫌っている人に好かれる努力をするのは、随分昔に辞めてしまったから……」
まだ10歳の時から、今までの6年間で僕は嫌という程にそれを実感していた。
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