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身代わりの花
⑤
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僕は目の前の彼の足元を見つめながら、震える自分の体に手を添えた。
なぜだか酷くこの人のことが怖く感じるんだ。
いや……怖いとは少し違うかもしれない。この人の金色の瞳と目を合わせると、身体の奥が疼くような不思議な感覚に陥ってしまって、自分が自分では無くなる気がする。
それが僕に不安を与えてくるんだ。
「僕は……星が好きです……。あんな風に輝ける人間になりたい……」
「そうなんだね。けれど、そんなに震えていては折角の君の輝きも失われてしまうよ」
彼はそう言って僕肩に優しく手を置いてきた。
その時ピリッとした感覚がして、それに反応して顔を上げる。先程とは何処か違う優しげな色を宿した瞳と目が合った。
ドキリと胸の鼓動が一際大きく波打つ。
「名前を教えて欲しいな」
「…ぼ、僕は……」
自分の名前を言おうとして、戸惑う。
どうしてだか自分の名前を彼に知られることが酷く恥ずかしく思えたんだ。
こんなみすぼらしい格好で、震えている姿を彼に覚えられることが悲しく思えて、僕は嘘をついた。
「……アデレード……アデレード=ロペス……です」
「……君がロペス公爵家の一人息子?確か花人の……」
1人息子という言葉に胸が痛んだけれど、それには気付かないふりをして頷いた。
「そうか君が……。私は今、この屋敷に来たばかりなのだけれど迷ってしまってね。今日は君に会いに来たんだよ」
「……僕に?」
つまり彼はアデレード兄さんに会いに来たということだろうか?
本日のパーティーは兄さんの婚約者を探すためのものでもあると、お父様達が話していたのを思い出した。
だから彼は僕に会いに来たと言ったのだろうか……。
今の僕は美しい兄さんとは比べ物にならないほどに汚らしいけれど、衣装だけは兄さんのお下がりだからそれなりに見えるのかもしれない。だから、今この瞬間だけは僕がアデレードではないとバレることはない気がした。
「私はそろそろ帰らなければならない。君にも会えたことだし、従者が探しているかもしれないからね」
「……お気を、付けて」
「ありがとう」
微笑みを返されて胸が高鳴る。
先程の作られた笑みではなくて、慈しむような作られていない自然体な笑みをむけられたからだ。
それが嬉しくて僕も彼に小さく笑顔を向けると、一瞬驚いた表情をした彼がおもむろに僕の片手を取って、目の前に片膝を着くと、その手の甲に1つキスを落としてきた。
まるでおとぎ話に出てくる王子様のように、僕の目の前に跪き、月明かりに照らされながら微笑む彼は美しくてかっこいい。
触れられたところからじわじわと例えようもない熱が溢れてきて、全身にその熱が伝染していくような感じがした。
酷く火照った身体のせいか潤んでいるだろう瞳で、見上げてくる彼の顔を見つめる。
「私の大輪の花に心からの祝福を」
聞き心地のいい柔らかな声が全身に染み渡る。
そっと離された手から、彼の熱が消えることが切なく感じて思わず自分の手をきつく握りしめた。
「また会おう」
立ち上がった彼は僕の頬を1度だけそっと撫でてから、笑ってそう告げると、僕に背を向けて元来た方に戻り始める。
「あっ、まって!」
呼び止めるけれど、小さな僕の声は彼には届かなくて、どんどんと来た通路の奥へと進んでいく。
その後ろ姿を見つめながら、名前すら聞けなかったと後悔した。
初めてあったはずなのに、酷く心を揺さぶられる感覚。
あんなにも素敵な人には一生会うことは出来ないだろうこともわかっていた。
それに彼は、アデレード兄さんに会いに来たのだ。
本当ならアデレード兄さんが貰うはずだった祝福も笑顔も僕が奪ってしまった。
それに罪悪感を感じて唇を噛み締めた。
なぜだか酷くこの人のことが怖く感じるんだ。
いや……怖いとは少し違うかもしれない。この人の金色の瞳と目を合わせると、身体の奥が疼くような不思議な感覚に陥ってしまって、自分が自分では無くなる気がする。
それが僕に不安を与えてくるんだ。
「僕は……星が好きです……。あんな風に輝ける人間になりたい……」
「そうなんだね。けれど、そんなに震えていては折角の君の輝きも失われてしまうよ」
彼はそう言って僕肩に優しく手を置いてきた。
その時ピリッとした感覚がして、それに反応して顔を上げる。先程とは何処か違う優しげな色を宿した瞳と目が合った。
ドキリと胸の鼓動が一際大きく波打つ。
「名前を教えて欲しいな」
「…ぼ、僕は……」
自分の名前を言おうとして、戸惑う。
どうしてだか自分の名前を彼に知られることが酷く恥ずかしく思えたんだ。
こんなみすぼらしい格好で、震えている姿を彼に覚えられることが悲しく思えて、僕は嘘をついた。
「……アデレード……アデレード=ロペス……です」
「……君がロペス公爵家の一人息子?確か花人の……」
1人息子という言葉に胸が痛んだけれど、それには気付かないふりをして頷いた。
「そうか君が……。私は今、この屋敷に来たばかりなのだけれど迷ってしまってね。今日は君に会いに来たんだよ」
「……僕に?」
つまり彼はアデレード兄さんに会いに来たということだろうか?
本日のパーティーは兄さんの婚約者を探すためのものでもあると、お父様達が話していたのを思い出した。
だから彼は僕に会いに来たと言ったのだろうか……。
今の僕は美しい兄さんとは比べ物にならないほどに汚らしいけれど、衣装だけは兄さんのお下がりだからそれなりに見えるのかもしれない。だから、今この瞬間だけは僕がアデレードではないとバレることはない気がした。
「私はそろそろ帰らなければならない。君にも会えたことだし、従者が探しているかもしれないからね」
「……お気を、付けて」
「ありがとう」
微笑みを返されて胸が高鳴る。
先程の作られた笑みではなくて、慈しむような作られていない自然体な笑みをむけられたからだ。
それが嬉しくて僕も彼に小さく笑顔を向けると、一瞬驚いた表情をした彼がおもむろに僕の片手を取って、目の前に片膝を着くと、その手の甲に1つキスを落としてきた。
まるでおとぎ話に出てくる王子様のように、僕の目の前に跪き、月明かりに照らされながら微笑む彼は美しくてかっこいい。
触れられたところからじわじわと例えようもない熱が溢れてきて、全身にその熱が伝染していくような感じがした。
酷く火照った身体のせいか潤んでいるだろう瞳で、見上げてくる彼の顔を見つめる。
「私の大輪の花に心からの祝福を」
聞き心地のいい柔らかな声が全身に染み渡る。
そっと離された手から、彼の熱が消えることが切なく感じて思わず自分の手をきつく握りしめた。
「また会おう」
立ち上がった彼は僕の頬を1度だけそっと撫でてから、笑ってそう告げると、僕に背を向けて元来た方に戻り始める。
「あっ、まって!」
呼び止めるけれど、小さな僕の声は彼には届かなくて、どんどんと来た通路の奥へと進んでいく。
その後ろ姿を見つめながら、名前すら聞けなかったと後悔した。
初めてあったはずなのに、酷く心を揺さぶられる感覚。
あんなにも素敵な人には一生会うことは出来ないだろうこともわかっていた。
それに彼は、アデレード兄さんに会いに来たのだ。
本当ならアデレード兄さんが貰うはずだった祝福も笑顔も僕が奪ってしまった。
それに罪悪感を感じて唇を噛み締めた。
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