緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶

文字の大きさ
上 下
29 / 83
何も無い

1

しおりを挟む
その後、すぐにフェリクス様が戻ってきてくれて、ダリウスさんが先程あったことを説明し始めた。

僕は伝えなくていいと言ったのだけれど、ダリウスさんは仕事だからと言ってそれを了承してはくれなかったんだ。

ダリウスさんの話を聞き終えたフェリクス様は顔いっぱいに心配の色を宿しながら僕の手を取った。

「怪我は無いのかい?痛いところは??私が離れたいせいで怖い思いをさせてしまって本当にごめんっ……」

取り乱すフェリクス様に大丈夫だと何度も言葉にして伝えるけれど、フェリクス様の顔色は優れない。

「……やはり駄目だな……」

フェリクス様がふと落とした呟きを聞いて、彼が今にも泣きそうだと思った。だから、もう一度大丈夫だと伝えてみる。

けれど、彼の顔はやっぱり曇ったまま晴れることはなかった。

「今日はもう帰ろうか。送るよ」

「……ありがとうございます」

ちらりとダリウスさんの方を見れば小さくお辞儀をしてくれた。

それに僕もお辞儀を返してからフェリクス様と共に並んで馬車まで向かう。

まだ来たばかりなのに申し訳ないなと思うけれど、フェリクス様の様子が変なことも気になっていて、大人しくフェリクス様の隣を歩く。

馬車に乗り込んで、椅子に腰かけるとフェリクス様は僕の正面に腰掛けてから、お疲れ様って微笑んでくれた。

それに僕もお疲れ様ですと返す。

今日は楽しい日になるはずだったのに、フェリクス様を心配させてしまって、それに目の前の彼が凄く悲しそうな顔をしていることに僕も悲しくなった。

「あの……ごめんなさい」

「っ、どうしてルダが謝るの?」

「……だって、フェリクス様が凄く悲しそうな顔をしているから……」

「……そんなこと、ないよ」

そう言って笑うフェリクス様の顔には少しだけぎこちなさが垣間見えていて僕はそれを見て益々辛くなる。

折角フェリクス様のパートナーに選んでもらったのに彼を悲しませてしまった。

その事に物凄く後悔を覚えて何も言えなくなる。

その後はお互い無言になって馬車のガラガラっていう地面を踏む音だけが鼓膜を揺らしていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

キスより甘いスパイス

凪玖海くみ
BL
料理教室を営む28歳の独身男性・天宮遥は、穏やかで平凡な日々を過ごしていた。 ある日、大学生の篠原奏多が新しい生徒として教室にやってくる。 彼は遥の高校時代の同級生の弟で、ある程度面識はあるとはいえ、前触れもなく早々に――。 「先生、俺と結婚してください!」 と大胆な告白をする。 奏多の真っ直ぐで無邪気なアプローチに次第に遥は心を揺さぶられて……?

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

使用人の俺を坊ちゃんが構う理由

真魚
BL
【貴族令息×力を失った魔術師】  かつて類い稀な魔術の才能を持っていたセシルは、魔物との戦いに負け、魔力と片足の自由を失ってしまった。伯爵家の下働きとして置いてもらいながら雑用すらまともにできず、日々飢え、昔の面影も無いほど惨めな姿となっていたセシルの唯一の癒しは、むかし弟のように可愛がっていた伯爵家次男のジェフリーの成長していく姿を時折目にすることだった。  こんなみすぼらしい自分のことなど、完全に忘れてしまっているだろうと思っていたのに、ある夜、ジェフリーからその世話係に仕事を変えさせられ…… ※ムーンライトノベルズにも掲載しています

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

処理中です...