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夜の宝石
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ダズリー公爵様に呼ばれたフェリクス様は少しだけ残念そうな顔を僕に向けてから、公爵様の方に視線を向けた。
「公爵、どうされました?」
「いえねえ、少しお話でもと思いまして。積もる話もありますから」
「申し訳ありませんが彼を1人には出来ませんので」
人好きのする微笑みを浮かべて、やんわりと公爵様の誘いを断るフェリクス様に公爵様も笑みを返して、少しの間だけだと答えた。
引く気は無いようで、フェリクス様は仕方なく公爵様の誘いに頷くと僕の方を見て少しだけ待っていて欲しいと声をかけてくれる。
それに頷くと、フェリクス様が何処からか突然現れたダリウスさんに僕の傍に居るように指示した。
まさか彼がいるとは思っていなかったからとても驚いてしまったけれど、ダリウスさんはフェリクス様の護衛騎士だからいるのは当然だと納得する。
この間とは違ってスーツを着込んだ彼は貴族然として、きっと何処かの貴族のご子息なのだろうなと思った。
「それでは行きましょうか」
ダズリー公爵様の声掛けに応じてフェリクス様は公爵様の隣に並ぶと2人は会場内へと戻って行ってしまう。
その後ろ姿を見つめながら、なんだか不安に駆られてしまって行かないでって心の中で呟いた。
「不安ですか?」
そんな僕の心を読んだみたいにダリウスさんが声をかけてくれる。それに、驚いて顔を上げると彼の真っ直ぐな瞳と目が合った。
やっぱり見覚えのある顔だと感じる。
だから思い切って僕は彼に尋ねてみることにした。
「あの、僕達何処かで会ったことがありますか?」
「ええ」
彼から返ってきたのはそんな簡素な返事だった。彼の返事を聞いて、やっぱり会ったことがあるんだと納得した。
けれど、何処で会ったのかが思い出せなくてまた尋ねた。
「ごめんなさい。僕、ダリウスさんと何処で出会ったのか思い出せなくて」
失礼なことを言ってしまっている自覚はあるけれどどうしても思い出せないから聞くしかない。
「あら、こんな所に居たのね」
ダリウスさんが僕の質問に答えようとした時、アニーシャ様がテラスへと来てまたしても会話を遮られてしまった。
思わず眉を寄せて彼女を見れば、僕の目の前に歩み寄ってきた彼女が僕をきつく睨みつけてきた。
「貴方フェリクス様とはどういう関係なの?」
「……それは先程フェリクス様がお答えしたと思うのですが……」
僕なりに精一杯返事を返すとアニーシャ様ほ気に触ったのか、鋭い瞳が更に鋭く細められた。
「今日は仮面舞踏会でもないのに不釣り合いな仮面なんて付けて美しい顔が半分隠れてしまっているわね」
「……え」
まるで仮面の下を知っている様な口ぶりに驚いて声を漏らすと、彼女はくすくすと可笑しそうに笑いを零す。
「ずーっと昔、何処かのご子息の誕生日パーティで主役の1人が大きな火傷を負ったのだとか。あれは何処の貴族だったかしら」
唇に人差し指を当ててわざとらしく考える素振りをする彼女を見つめながら、彼女は僕がその貴族子息だと知っているのだと分かった。
火傷の件はかなり噂になったけれど、もうあれから10年経っている。そのことを覚えている貴族はあまりいないのでは無いのだろうか。
「……何が言いたいのですか」
「簡単な話よ。醜い貴方が聖人の様に清らかで美しいフェリクス様の隣に居るのが許せないの。フェリクス様はこの国の唯一の王太子であり国1番の回復魔法の使い手なのよ。そんな尊い方の隣に貴方のようななんの価値も無いような人間がなんの恥ずかしげもなく立っているなんて面の皮が厚すぎるのではなくて?」
「公爵、どうされました?」
「いえねえ、少しお話でもと思いまして。積もる話もありますから」
「申し訳ありませんが彼を1人には出来ませんので」
人好きのする微笑みを浮かべて、やんわりと公爵様の誘いを断るフェリクス様に公爵様も笑みを返して、少しの間だけだと答えた。
引く気は無いようで、フェリクス様は仕方なく公爵様の誘いに頷くと僕の方を見て少しだけ待っていて欲しいと声をかけてくれる。
それに頷くと、フェリクス様が何処からか突然現れたダリウスさんに僕の傍に居るように指示した。
まさか彼がいるとは思っていなかったからとても驚いてしまったけれど、ダリウスさんはフェリクス様の護衛騎士だからいるのは当然だと納得する。
この間とは違ってスーツを着込んだ彼は貴族然として、きっと何処かの貴族のご子息なのだろうなと思った。
「それでは行きましょうか」
ダズリー公爵様の声掛けに応じてフェリクス様は公爵様の隣に並ぶと2人は会場内へと戻って行ってしまう。
その後ろ姿を見つめながら、なんだか不安に駆られてしまって行かないでって心の中で呟いた。
「不安ですか?」
そんな僕の心を読んだみたいにダリウスさんが声をかけてくれる。それに、驚いて顔を上げると彼の真っ直ぐな瞳と目が合った。
やっぱり見覚えのある顔だと感じる。
だから思い切って僕は彼に尋ねてみることにした。
「あの、僕達何処かで会ったことがありますか?」
「ええ」
彼から返ってきたのはそんな簡素な返事だった。彼の返事を聞いて、やっぱり会ったことがあるんだと納得した。
けれど、何処で会ったのかが思い出せなくてまた尋ねた。
「ごめんなさい。僕、ダリウスさんと何処で出会ったのか思い出せなくて」
失礼なことを言ってしまっている自覚はあるけれどどうしても思い出せないから聞くしかない。
「あら、こんな所に居たのね」
ダリウスさんが僕の質問に答えようとした時、アニーシャ様がテラスへと来てまたしても会話を遮られてしまった。
思わず眉を寄せて彼女を見れば、僕の目の前に歩み寄ってきた彼女が僕をきつく睨みつけてきた。
「貴方フェリクス様とはどういう関係なの?」
「……それは先程フェリクス様がお答えしたと思うのですが……」
僕なりに精一杯返事を返すとアニーシャ様ほ気に触ったのか、鋭い瞳が更に鋭く細められた。
「今日は仮面舞踏会でもないのに不釣り合いな仮面なんて付けて美しい顔が半分隠れてしまっているわね」
「……え」
まるで仮面の下を知っている様な口ぶりに驚いて声を漏らすと、彼女はくすくすと可笑しそうに笑いを零す。
「ずーっと昔、何処かのご子息の誕生日パーティで主役の1人が大きな火傷を負ったのだとか。あれは何処の貴族だったかしら」
唇に人差し指を当ててわざとらしく考える素振りをする彼女を見つめながら、彼女は僕がその貴族子息だと知っているのだと分かった。
火傷の件はかなり噂になったけれど、もうあれから10年経っている。そのことを覚えている貴族はあまりいないのでは無いのだろうか。
「……何が言いたいのですか」
「簡単な話よ。醜い貴方が聖人の様に清らかで美しいフェリクス様の隣に居るのが許せないの。フェリクス様はこの国の唯一の王太子であり国1番の回復魔法の使い手なのよ。そんな尊い方の隣に貴方のようななんの価値も無いような人間がなんの恥ずかしげもなく立っているなんて面の皮が厚すぎるのではなくて?」
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