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夜の宝石
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それに気がつくと途端に我慢していた涙が流れ出していた。
どんどん遠ざかっていくお父様の姿を目で追いかける。
行かないで……僕を見てよ……。
僕はあの頃から何も変わってない。
怪我をしても、性格が歪んでも、僕はエスメラルダだ。お父様が愛してくれたエメラルドだ。
そのはずなのにどうして彼は僕を見てくれないの?どうして愛してくれないの?疵の付いた宝石の価値はもう元には戻らない?
「エスメラルダ」
「……」
「ルダってば!!」
「……っ!」
お父様の姿が見えなくなった廊下の先をボーッと涙を流しながら見つめていると、僕の耳にコーラルの声が飛び込んできて意識を引き戻した。
「……ラル……」
「エスメラルダってば何をそんなに悲しんでいるのよ」
「……ラルには分からないよ」
「またそれ?ねえ、エスメラルダ。お父様とお母様と話す価値なんて無いわ。だから泣く必要なんてないの」
「……分かってる。僕には価値なんてない」
「……どうしてそう解釈してしまうの……。まあ、いいわ。それよりもまた傷は治してもらわなかったのね」
「……この傷はこのままでいいんだよ」
そう答えた僕にラルが大股で近づいてきて驚く。
久しぶりにこんなに近くでラルの顔を見た気がした。彼女の美しい赤茶の瞳の奥に一瞬だけ暗い色が見えた気がしたけれど、それは彼女の次の言葉でかき消されてしまう。
「っ、良くなんてないわ!!!!」
それはまるで悲鳴だった。
コーラルは何故か泣いていた。
僕と同じ顔の彼女がまるで鏡にでも写したかのように、僕と同じように涙を流している。
「……なんで泣くの」
彼女の涙を拭うためにゆっくりと腕を持ち上げたけれど、彼女は僕から1歩離れてしまって拭ってあげることは出来なかった。
「どうして……どうしてなにも思い通りにいかないのっ……どうしてエスメラルダの顔はずっとそのままなの!!どうしてよっ!教えてっ!!私に教えて頂戴!!!どうしてエスメラルダはそうなったのよっ……どうして治して貰わないのよ……」
今にも倒れてしまいそうな程に身体を震わせて僕に叫ぶラルにかけてあげれる言葉が見当たらなかった。
それに、ラルがどうしてこんなにも僕に怒っているのかも解らない。
だってラルは僕のことが嫌いなんでしょう?
「ねえ、ラル。僕が怪我をしたのは自業自得なんだよ。僕が最低な人間だったから神様が罰を下したんだ」
「……ちがう……そんなの違うわ」
「この傷はこのままでいいんだ。このままで在るべきなんだよ。僕はね、あの日に戻れたとして、もしもまたお湯をかけられても、それを甘んじて受け入れる。この傷は絶対に消さないし、誰にも消せないんだ」
「っ、なんでよっ!!!そんなのおかしい!どうして貴方はそうなの!どうして恨まないの。恨めばいいじゃない!!!お前のせいだって!それなのに……どうして貴方はそんなに自分ばかり責めるのよ……」
ついに泣き崩れたラルに僕は手を差し出せなかった。
正直混乱していた。
彼女がこんなにも僕のために泣く所を久しぶりに見たから。昔は僕が少し怪我をするだけで一緒になって泣いてくれた彼女は、今こうして僕のことを嫌いながらも僕のために涙を流してくれている。
ああ……僕達はどんなに否定しても嫌っていても双子なのだ。
「僕が間違っていたからこうなったんだよ」
「そんなのおかしいわよ。間違いは誰だって犯すはずだわ。それなのに罰を受けずに平気な顔で生きてる人は沢山いる……貴方だけじゃない。それに、貴方はもう償ったはずじゃない」
「……そうかもしれない。でも、僕はこのままがいいんだ」
僕はそう言って下手くそに笑う。
そうしたらラルはいつもみたいに眉を顰めるんだ。
それでいい。そうやって僕のことを嫌っていて。曖昧な優しさなんて僕は受け入れられない。
それを受け入れられる程、僕の心に隙間はないから。
どんどん遠ざかっていくお父様の姿を目で追いかける。
行かないで……僕を見てよ……。
僕はあの頃から何も変わってない。
怪我をしても、性格が歪んでも、僕はエスメラルダだ。お父様が愛してくれたエメラルドだ。
そのはずなのにどうして彼は僕を見てくれないの?どうして愛してくれないの?疵の付いた宝石の価値はもう元には戻らない?
「エスメラルダ」
「……」
「ルダってば!!」
「……っ!」
お父様の姿が見えなくなった廊下の先をボーッと涙を流しながら見つめていると、僕の耳にコーラルの声が飛び込んできて意識を引き戻した。
「……ラル……」
「エスメラルダってば何をそんなに悲しんでいるのよ」
「……ラルには分からないよ」
「またそれ?ねえ、エスメラルダ。お父様とお母様と話す価値なんて無いわ。だから泣く必要なんてないの」
「……分かってる。僕には価値なんてない」
「……どうしてそう解釈してしまうの……。まあ、いいわ。それよりもまた傷は治してもらわなかったのね」
「……この傷はこのままでいいんだよ」
そう答えた僕にラルが大股で近づいてきて驚く。
久しぶりにこんなに近くでラルの顔を見た気がした。彼女の美しい赤茶の瞳の奥に一瞬だけ暗い色が見えた気がしたけれど、それは彼女の次の言葉でかき消されてしまう。
「っ、良くなんてないわ!!!!」
それはまるで悲鳴だった。
コーラルは何故か泣いていた。
僕と同じ顔の彼女がまるで鏡にでも写したかのように、僕と同じように涙を流している。
「……なんで泣くの」
彼女の涙を拭うためにゆっくりと腕を持ち上げたけれど、彼女は僕から1歩離れてしまって拭ってあげることは出来なかった。
「どうして……どうしてなにも思い通りにいかないのっ……どうしてエスメラルダの顔はずっとそのままなの!!どうしてよっ!教えてっ!!私に教えて頂戴!!!どうしてエスメラルダはそうなったのよっ……どうして治して貰わないのよ……」
今にも倒れてしまいそうな程に身体を震わせて僕に叫ぶラルにかけてあげれる言葉が見当たらなかった。
それに、ラルがどうしてこんなにも僕に怒っているのかも解らない。
だってラルは僕のことが嫌いなんでしょう?
「ねえ、ラル。僕が怪我をしたのは自業自得なんだよ。僕が最低な人間だったから神様が罰を下したんだ」
「……ちがう……そんなの違うわ」
「この傷はこのままでいいんだ。このままで在るべきなんだよ。僕はね、あの日に戻れたとして、もしもまたお湯をかけられても、それを甘んじて受け入れる。この傷は絶対に消さないし、誰にも消せないんだ」
「っ、なんでよっ!!!そんなのおかしい!どうして貴方はそうなの!どうして恨まないの。恨めばいいじゃない!!!お前のせいだって!それなのに……どうして貴方はそんなに自分ばかり責めるのよ……」
ついに泣き崩れたラルに僕は手を差し出せなかった。
正直混乱していた。
彼女がこんなにも僕のために泣く所を久しぶりに見たから。昔は僕が少し怪我をするだけで一緒になって泣いてくれた彼女は、今こうして僕のことを嫌いながらも僕のために涙を流してくれている。
ああ……僕達はどんなに否定しても嫌っていても双子なのだ。
「僕が間違っていたからこうなったんだよ」
「そんなのおかしいわよ。間違いは誰だって犯すはずだわ。それなのに罰を受けずに平気な顔で生きてる人は沢山いる……貴方だけじゃない。それに、貴方はもう償ったはずじゃない」
「……そうかもしれない。でも、僕はこのままがいいんだ」
僕はそう言って下手くそに笑う。
そうしたらラルはいつもみたいに眉を顰めるんだ。
それでいい。そうやって僕のことを嫌っていて。曖昧な優しさなんて僕は受け入れられない。
それを受け入れられる程、僕の心に隙間はないから。
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