緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶

文字の大きさ
上 下
16 / 83
幸せのお裾分け

7

しおりを挟む
僕がぶつかってしまったその人は僕から視線を逸らすと、フェリクス様へと声をかけた。

「フェリクス様、・・が来ています」

「……そうか。報告ありがとう。ルダ、もう少し話していたかったのだけれど予定が入ってしまったんだ」

僕がフェリクス様の前から逃げ出そうとしたことには一切触れずに、彼は本当に申し訳なさそうに眉を寄せて僕に謝ってきた。

それになんと返していいか分からなくなる。

彼はどうして怒らないんだろう。

どうしていつもいつも僕に何も聞いてこないんだ。

「……分かりました。本日はありがとうございました」

来た時には出来なかったカーテシーをして僕は彼に再び背を向けた。

そんな僕の背中に向かって、フェリクス様が入口まで送るよって言ってくれたけれど、彼の顔を見ないまま大丈夫ですって素っ気なく答えてしまった。

そんな自分が心底嫌になる。

どうして僕はこんなにひねくれてるんだろう。

フェリクス様の優しい言葉一つ一つを受け取ることをとても嬉しく感じるのに、僕はこうやって自分で彼を突っぱねて壁を作る。

「それならダリウスに送らせるよ。それくらい許してくれないかな。彼は私の近衛騎士だからルダの怖がることはしないと思う」

悲しそうな声で提案されて、チラリと隣にいる黒髪の男の人のことを見た。多分この人がダリウスさんだと思う。

波打つ黒髪を後ろで束ねた、浅黒い肌の大男といった風貌の彼を僕は何処かで見たことがある気がした。

けれど思い出せない。

「……よろしくお願いします」

返事の代わりに、どちらに言うでもなく呟くと、ダリウスさんが頷いてくれた。

「直ぐにお迎えにあがりますのでこちらでお待ちください」

「うん。ルダのこと任せたよ」

「承知しました」

ニコニコと微笑んでいるフェリクス様とは対照的に一切表情を崩さず硬い顔をしている彼を横目で盗み見た。

やっぱり知っている気がする。

「行きましょう」

彼を観察していたら、彼の青い瞳と目が合って慌てて視線を下へと向けた。そうして、歩き出した彼の1歩後ろを大人しくついて行く。

「フェリクス様が此処に人を呼ぶなど珍しいですね」

彼から話しかけられて、何とか返せばいいのか悩んでしまう。

「……そうなんですね」

結局無難な相槌しか打てずに、会話は終了してしまい僕たちの間には沈黙が流れていた。

しばらくそのまま歩いて、入口に着くと彼が何故か立ち止まって僕の方に体を向けてきたから、僕も立ち止まって背の高い彼の顔を見上げる。

「どうかしましたか?」

「……失礼ですが、その仮面の下はなにかお怪我でも?」

彼の青い瞳が僕の顔の右側に注がれていて慌てて俯いて、見ないでくださいって小さく悲鳴のような声を返してしまう。

そうしたら、ダリウスさんは数秒沈黙した後に、失礼なことを言ってしまいすみませんと謝ってくれた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

キスより甘いスパイス

凪玖海くみ
BL
料理教室を営む28歳の独身男性・天宮遥は、穏やかで平凡な日々を過ごしていた。 ある日、大学生の篠原奏多が新しい生徒として教室にやってくる。 彼は遥の高校時代の同級生の弟で、ある程度面識はあるとはいえ、前触れもなく早々に――。 「先生、俺と結婚してください!」 と大胆な告白をする。 奏多の真っ直ぐで無邪気なアプローチに次第に遥は心を揺さぶられて……?

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

使用人の俺を坊ちゃんが構う理由

真魚
BL
【貴族令息×力を失った魔術師】  かつて類い稀な魔術の才能を持っていたセシルは、魔物との戦いに負け、魔力と片足の自由を失ってしまった。伯爵家の下働きとして置いてもらいながら雑用すらまともにできず、日々飢え、昔の面影も無いほど惨めな姿となっていたセシルの唯一の癒しは、むかし弟のように可愛がっていた伯爵家次男のジェフリーの成長していく姿を時折目にすることだった。  こんなみすぼらしい自分のことなど、完全に忘れてしまっているだろうと思っていたのに、ある夜、ジェフリーからその世話係に仕事を変えさせられ…… ※ムーンライトノベルズにも掲載しています

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

[BL]王の独占、騎士の憂鬱

ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕 騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて… 王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい

処理中です...