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幸せのお裾分け
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エスメラルダ、って僕の名前を呟いたフェリクス様は君にぴったりの名前だねって褒めてくれた。
僕の緑色の瞳がエメラルドの様だからとお父様が付けてくれたこの名前は、今の僕には勿体ないとずっと思っていたから、その名前を褒めて貰えたことが凄く嬉しい。
「ルダと呼んでもいいかな?」
「……僕のこと愛称で呼んでくれるんですか?」
それってなんだか彼の婚約者になったみたいでドキドキしてしまう。実際には男の僕が王太子様の婚約者になれる訳がないのだけど……。
この国の法律では同性同士の婚姻も認められてはいるものの、王太子様となると話は変わってくるんじゃないかなって思うんだ。
お世継ぎは男には産むことが出来ないから……。
だから、愛称で呼ばれることに期待なんてしちゃいけないってわかってる。それに、本当は愛称で呼ばれることを断らないといけないことも……。
だけど、そう分かっていても彼に愛称で呼ばれたいって欲張ってしまう心を抑えることが出来ない。
「……嬉しいです」
はにかみながら伝えると、フェリクス様が良かったって言ってくれた。
そんな彼の笑顔を見つめながら、僕も笑い返したいって試みる。だけど上手く動かない右側が邪魔してそれは叶わなかった。
こういう、ふとした瞬間思い出す。僕は化け物だって。
王太子のフェリクス様とこうやって話していい人間じゃないんだって……。
彼が優しいから勘違いしそうになるんだ。少しだけ彼と仲良くなれたかもしれないなんて。そう思ったらさっきまで自分がしていた大胆な行動が一気に恥ずかしくなってきた。
こんな醜い僕からタルトを差し出された彼はどんな気分だったんだろう?
僕なんかを婚約者になんて想像した自分に、調子に乗るなって叱責してやった。
舞い上がっては急降下する。
フェリクス様と関わるといつもそうだ。
「……僕帰ります」
急に声のトーンが下がった僕にフェリクス様が心配気な顔を向けてくる。そんなことにすら、ほら、僕の心が舞い上がった。
「なにか悲しませることを言ってしまったかな」
「……違うんです。ただ、僕はここに居ちゃいけないって思い出しただけなんです」
「……どうしてそんなことを……」
フェリクス様が分からないって顔をするから、その顔を見ていたくなくて椅子から立ち上がってまた逃げるみたいにお辞儀をしてテラスからでていこうと振り返った。
そうしたら誰かに思いっきりぶつかってよろけた。
「おっと、申し訳ありません」
低くて落ち着いた声が頭の上から降ってきて固まる。
僕が倒れないように支えてくれたその人は直ぐに僕を離して、自分から僕を避けてくれた。
「ご、ごめんなさい」
「いえ」
簡素な返事に僕もそれ以上何も返すことはしなかった。
僕の緑色の瞳がエメラルドの様だからとお父様が付けてくれたこの名前は、今の僕には勿体ないとずっと思っていたから、その名前を褒めて貰えたことが凄く嬉しい。
「ルダと呼んでもいいかな?」
「……僕のこと愛称で呼んでくれるんですか?」
それってなんだか彼の婚約者になったみたいでドキドキしてしまう。実際には男の僕が王太子様の婚約者になれる訳がないのだけど……。
この国の法律では同性同士の婚姻も認められてはいるものの、王太子様となると話は変わってくるんじゃないかなって思うんだ。
お世継ぎは男には産むことが出来ないから……。
だから、愛称で呼ばれることに期待なんてしちゃいけないってわかってる。それに、本当は愛称で呼ばれることを断らないといけないことも……。
だけど、そう分かっていても彼に愛称で呼ばれたいって欲張ってしまう心を抑えることが出来ない。
「……嬉しいです」
はにかみながら伝えると、フェリクス様が良かったって言ってくれた。
そんな彼の笑顔を見つめながら、僕も笑い返したいって試みる。だけど上手く動かない右側が邪魔してそれは叶わなかった。
こういう、ふとした瞬間思い出す。僕は化け物だって。
王太子のフェリクス様とこうやって話していい人間じゃないんだって……。
彼が優しいから勘違いしそうになるんだ。少しだけ彼と仲良くなれたかもしれないなんて。そう思ったらさっきまで自分がしていた大胆な行動が一気に恥ずかしくなってきた。
こんな醜い僕からタルトを差し出された彼はどんな気分だったんだろう?
僕なんかを婚約者になんて想像した自分に、調子に乗るなって叱責してやった。
舞い上がっては急降下する。
フェリクス様と関わるといつもそうだ。
「……僕帰ります」
急に声のトーンが下がった僕にフェリクス様が心配気な顔を向けてくる。そんなことにすら、ほら、僕の心が舞い上がった。
「なにか悲しませることを言ってしまったかな」
「……違うんです。ただ、僕はここに居ちゃいけないって思い出しただけなんです」
「……どうしてそんなことを……」
フェリクス様が分からないって顔をするから、その顔を見ていたくなくて椅子から立ち上がってまた逃げるみたいにお辞儀をしてテラスからでていこうと振り返った。
そうしたら誰かに思いっきりぶつかってよろけた。
「おっと、申し訳ありません」
低くて落ち着いた声が頭の上から降ってきて固まる。
僕が倒れないように支えてくれたその人は直ぐに僕を離して、自分から僕を避けてくれた。
「ご、ごめんなさい」
「いえ」
簡素な返事に僕もそれ以上何も返すことはしなかった。
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