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幸せのお裾分け
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あれから数日後、ラナ宛に王太子様からお茶会のお誘いの手紙が送られてきた。
どうしてそれを知っているかといえば、ラナが見せびらかすように僕の目の前でその手紙をヒラヒラとさせながら、羨ましい?って聞いてきたからだ。
その時は、どうして羨ましいなんて聞くんだろうって純粋にそう思った。
王太子様と僕の間には何も無いのに。
「早く準備しなさいよ!」
そんなことを考えていたらラナに急かされて、僕は慌てて仮面を顔へと着けた。
婚約者選びの時みたいに着飾ざることを強要された僕は鏡を見ながらどうしてこうなったんだろうって頭を抱える。
「早くしないと遅刻するわよ」
ラナが僕の手を引いて出入口で待機している馬車へと向かう。そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、まるで昔に戻ったみたいだと思った。
今回のお茶会のお誘いにラナはやっぱり行きたくないと駄々を捏ねたから、結局僕が行くことになったけれど、何度も同じことをしていたらいつか本人に『偽物』だって言われてしまうかもしれない。
それが今は何よりも怖いと思う。
馬車に乗せられて、前みたいに窓を締め切って背中を曲げる。
彼に会いたいような、会いたくないような複雑な心情が胸の内に渦巻いていた。
王宮に着くと、今回は御者のおじさんを待たせないように直ぐに降りた。すると彼が入口の所に立っていて、僕の姿を見つけると微笑みを浮かべてこちらへと向かって歩いてくる。
「来てくれて嬉しいよ」
「あ……え、と、……」
驚きすぎて挨拶が頭から飛んで慌ててドレスの裾を持つけれど、王太子様がこっちだよって僕の手を引いて王宮の中へと入って行ったことで挨拶はしなくて良くなった。
「あの……今日って他にも誰か……」
「私と2人きりだけれど嫌だったかな?」
少しだけ悲しげな声で返事が返ってきて、慌てて嫌じゃないです……って答えた。
ただ、何故かさっきから胸がドキドキと有り得ないくらい高鳴っていてどうしたらいいのか分からない。
彼に手を繋がれて案内された先は王宮内の一室で、その部屋のテラスに既にお茶の用意がしてあった。
色とりどりのお茶菓子と美しい陶器のティーセットが並ぶその場所はまるで夢の国の様だ。
「どうぞ」
「……あ、ありがとう……ございます」
彼が椅子を引いてくれて、おずおずとそこに腰掛ける。
彼も僕の正面に座って、彼自ら紅茶を用意してくれた。
「あの、今日は王太子様にお招き頂けて光栄です……」
「ふふ、そう固くならないで。それにフェリクスでいいよ。君には名前で呼んで欲しいんだ」
「……フェリクス様?」
「うん。ふふ、名前を呼ばれるのってくすぐったい気分になるね」
そう言ってふわりと笑う彼の笑顔に目が釘付けになる。どうして、こんなにも彼が素敵に見えるんだろう。
まだ会ったばかりなのに、僕はおかしくなったのか?
どうしてそれを知っているかといえば、ラナが見せびらかすように僕の目の前でその手紙をヒラヒラとさせながら、羨ましい?って聞いてきたからだ。
その時は、どうして羨ましいなんて聞くんだろうって純粋にそう思った。
王太子様と僕の間には何も無いのに。
「早く準備しなさいよ!」
そんなことを考えていたらラナに急かされて、僕は慌てて仮面を顔へと着けた。
婚約者選びの時みたいに着飾ざることを強要された僕は鏡を見ながらどうしてこうなったんだろうって頭を抱える。
「早くしないと遅刻するわよ」
ラナが僕の手を引いて出入口で待機している馬車へと向かう。そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、まるで昔に戻ったみたいだと思った。
今回のお茶会のお誘いにラナはやっぱり行きたくないと駄々を捏ねたから、結局僕が行くことになったけれど、何度も同じことをしていたらいつか本人に『偽物』だって言われてしまうかもしれない。
それが今は何よりも怖いと思う。
馬車に乗せられて、前みたいに窓を締め切って背中を曲げる。
彼に会いたいような、会いたくないような複雑な心情が胸の内に渦巻いていた。
王宮に着くと、今回は御者のおじさんを待たせないように直ぐに降りた。すると彼が入口の所に立っていて、僕の姿を見つけると微笑みを浮かべてこちらへと向かって歩いてくる。
「来てくれて嬉しいよ」
「あ……え、と、……」
驚きすぎて挨拶が頭から飛んで慌ててドレスの裾を持つけれど、王太子様がこっちだよって僕の手を引いて王宮の中へと入って行ったことで挨拶はしなくて良くなった。
「あの……今日って他にも誰か……」
「私と2人きりだけれど嫌だったかな?」
少しだけ悲しげな声で返事が返ってきて、慌てて嫌じゃないです……って答えた。
ただ、何故かさっきから胸がドキドキと有り得ないくらい高鳴っていてどうしたらいいのか分からない。
彼に手を繋がれて案内された先は王宮内の一室で、その部屋のテラスに既にお茶の用意がしてあった。
色とりどりのお茶菓子と美しい陶器のティーセットが並ぶその場所はまるで夢の国の様だ。
「どうぞ」
「……あ、ありがとう……ございます」
彼が椅子を引いてくれて、おずおずとそこに腰掛ける。
彼も僕の正面に座って、彼自ら紅茶を用意してくれた。
「あの、今日は王太子様にお招き頂けて光栄です……」
「ふふ、そう固くならないで。それにフェリクスでいいよ。君には名前で呼んで欲しいんだ」
「……フェリクス様?」
「うん。ふふ、名前を呼ばれるのってくすぐったい気分になるね」
そう言ってふわりと笑う彼の笑顔に目が釘付けになる。どうして、こんなにも彼が素敵に見えるんだろう。
まだ会ったばかりなのに、僕はおかしくなったのか?
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