9 / 83
癒しの王太子
4.
しおりを挟む
確かに目が見えないのは不便だと思っていた。けれど、そこでふと疑問が浮かんだ。
「……どうして良くしてくれるんですか」
彼とは今日が初対面だし、良くしてもらう理由がない。
僕の質問に彼はまた驚いた顔をすると、僕の手を再び取って、なぜでしょうって呟いた。
「私の力はとても便利です。周りにはこの力を貸してくれと良く頼られるんですよ」
「……そんなの理不尽です」
「どうして?」
「貴方は利用されてるだけだから……王太子様なのに……」
「王太子だからこそ、この力は皆のために使うのですよ。けれど、貴方のことは何故か王太子としてではなく自分自身として治してあげたいと思っています」
そう言って微笑んだ彼の顔を見てドキリと胸が鳴った。
「……何も返せないです」
「それでかまいません。それに、貴方が初めてなんですよ」
「……なにがですか?」
「私の治療を断ったのは、貴方が初めてなんです。なんだかそれが嬉しくて……。変ですよね」
くすくすと笑いながら彼が僕の仮面へと触れてきた。ぎゅっと目をつぶると、彼の手からまた淡い光が漏れて僕の顔の右側を照らす。
一瞬右目が熱くなって、光が収まると火傷でただれて開かなくなっていた瞳がすんなりと開くことに気がついた。
思わず仮面の下に指を滑り込ませて確認すると、火傷のザラりとした感覚は残っていて、本当に目だけを治してくれたのが分かった。
「見えますか?」
「……はい……」
貴方の顔が良く見えます。
久しぶりに開いた右目は思ったよりも違和感がなく、片目で見るよりも確実に視野の広くなった僕にはフェリクス王太子様の顔が先程よりも良く見えた。
その事に感動する。
嬉しくてなんだか泣いてしまいそうだった。
「本当に傷は治さなくていいのかい?」
少し砕けた口調で尋ねられて、僕は小さく頷き返す。
「これでいいんです。ありがとうございます」
微かに口元に笑みを浮かべてお礼を伝えた。引き釣れた右側が邪魔をして上手く笑うことは出来ないけれど、彼に僕が喜んでいることが伝わればいいと思った。
「貴方はとても強い人ですね」
そう言って彼が握っていた僕の手を離した。
その事に名残惜しさを感じる。
「……強くなんてありません」
こう答えるのが精一杯だった。
僕は弱虫だ。この傷を治したくないと言うくせに、人に見られることは怖がっている。
醜い自分を誰かに見られて、気持ち悪いと言われてしまうことが嫌だ。
だから、強くなんてない。
ただ、強がっているだけなんだ。
「貴方の名前を伺ってもいいですか?」
「……っ……」
なんて答えるか迷って口ごもる。
僕は今日ラルとしてここに来ている。だけど、僕自身は自分の名前を彼に知って欲しいと思ってしまっている。
「……コーラル……コーラル=アルスタッドです」
でも、やっぱり双子の妹の幸せを壊すことは出来ないって思ったんだ。
「コーラル、いい名前ですね。」
「……僕なんかに敬語はやめてください」
気になっていたことを言えば彼がふわりと笑ってくれた。
「コーラル、美しい貴方に幸多からんことを願うよ」
彼の言葉が僕の中に染み渡る。
それなのに、どうしてこんなにも苦しいんだろう。
「……っ」
思わず逃げるように彼の前から駆け出していた。
彼が驚いてコーラルって名前を呼ぶけれど僕は立ち止まることはせずに必死に走り続けた。
涙が溢れてきて、顔を濡らすのも気にせずにただひたすら走り続けて、自分の乗ってきた馬車を見つけると構わずに乗り込んで御者にすぐに出すように伝えたんだ。
「……どうして良くしてくれるんですか」
彼とは今日が初対面だし、良くしてもらう理由がない。
僕の質問に彼はまた驚いた顔をすると、僕の手を再び取って、なぜでしょうって呟いた。
「私の力はとても便利です。周りにはこの力を貸してくれと良く頼られるんですよ」
「……そんなの理不尽です」
「どうして?」
「貴方は利用されてるだけだから……王太子様なのに……」
「王太子だからこそ、この力は皆のために使うのですよ。けれど、貴方のことは何故か王太子としてではなく自分自身として治してあげたいと思っています」
そう言って微笑んだ彼の顔を見てドキリと胸が鳴った。
「……何も返せないです」
「それでかまいません。それに、貴方が初めてなんですよ」
「……なにがですか?」
「私の治療を断ったのは、貴方が初めてなんです。なんだかそれが嬉しくて……。変ですよね」
くすくすと笑いながら彼が僕の仮面へと触れてきた。ぎゅっと目をつぶると、彼の手からまた淡い光が漏れて僕の顔の右側を照らす。
一瞬右目が熱くなって、光が収まると火傷でただれて開かなくなっていた瞳がすんなりと開くことに気がついた。
思わず仮面の下に指を滑り込ませて確認すると、火傷のザラりとした感覚は残っていて、本当に目だけを治してくれたのが分かった。
「見えますか?」
「……はい……」
貴方の顔が良く見えます。
久しぶりに開いた右目は思ったよりも違和感がなく、片目で見るよりも確実に視野の広くなった僕にはフェリクス王太子様の顔が先程よりも良く見えた。
その事に感動する。
嬉しくてなんだか泣いてしまいそうだった。
「本当に傷は治さなくていいのかい?」
少し砕けた口調で尋ねられて、僕は小さく頷き返す。
「これでいいんです。ありがとうございます」
微かに口元に笑みを浮かべてお礼を伝えた。引き釣れた右側が邪魔をして上手く笑うことは出来ないけれど、彼に僕が喜んでいることが伝わればいいと思った。
「貴方はとても強い人ですね」
そう言って彼が握っていた僕の手を離した。
その事に名残惜しさを感じる。
「……強くなんてありません」
こう答えるのが精一杯だった。
僕は弱虫だ。この傷を治したくないと言うくせに、人に見られることは怖がっている。
醜い自分を誰かに見られて、気持ち悪いと言われてしまうことが嫌だ。
だから、強くなんてない。
ただ、強がっているだけなんだ。
「貴方の名前を伺ってもいいですか?」
「……っ……」
なんて答えるか迷って口ごもる。
僕は今日ラルとしてここに来ている。だけど、僕自身は自分の名前を彼に知って欲しいと思ってしまっている。
「……コーラル……コーラル=アルスタッドです」
でも、やっぱり双子の妹の幸せを壊すことは出来ないって思ったんだ。
「コーラル、いい名前ですね。」
「……僕なんかに敬語はやめてください」
気になっていたことを言えば彼がふわりと笑ってくれた。
「コーラル、美しい貴方に幸多からんことを願うよ」
彼の言葉が僕の中に染み渡る。
それなのに、どうしてこんなにも苦しいんだろう。
「……っ」
思わず逃げるように彼の前から駆け出していた。
彼が驚いてコーラルって名前を呼ぶけれど僕は立ち止まることはせずに必死に走り続けた。
涙が溢れてきて、顔を濡らすのも気にせずにただひたすら走り続けて、自分の乗ってきた馬車を見つけると構わずに乗り込んで御者にすぐに出すように伝えたんだ。
31
お気に入りに追加
1,120
あなたにおすすめの小説
キスより甘いスパイス
凪玖海くみ
BL
料理教室を営む28歳の独身男性・天宮遥は、穏やかで平凡な日々を過ごしていた。
ある日、大学生の篠原奏多が新しい生徒として教室にやってくる。
彼は遥の高校時代の同級生の弟で、ある程度面識はあるとはいえ、前触れもなく早々に――。
「先生、俺と結婚してください!」
と大胆な告白をする。
奏多の真っ直ぐで無邪気なアプローチに次第に遥は心を揺さぶられて……?
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
使用人の俺を坊ちゃんが構う理由
真魚
BL
【貴族令息×力を失った魔術師】
かつて類い稀な魔術の才能を持っていたセシルは、魔物との戦いに負け、魔力と片足の自由を失ってしまった。伯爵家の下働きとして置いてもらいながら雑用すらまともにできず、日々飢え、昔の面影も無いほど惨めな姿となっていたセシルの唯一の癒しは、むかし弟のように可愛がっていた伯爵家次男のジェフリーの成長していく姿を時折目にすることだった。
こんなみすぼらしい自分のことなど、完全に忘れてしまっているだろうと思っていたのに、ある夜、ジェフリーからその世話係に仕事を変えさせられ……
※ムーンライトノベルズにも掲載しています

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる