緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶

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癒しの王太子

4.

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確かに目が見えないのは不便だと思っていた。けれど、そこでふと疑問が浮かんだ。

「……どうして良くしてくれるんですか」

彼とは今日が初対面だし、良くしてもらう理由がない。

僕の質問に彼はまた驚いた顔をすると、僕の手を再び取って、なぜでしょうって呟いた。

「私の力はとても便利です。周りにはこの力を貸してくれと良く頼られるんですよ」

「……そんなの理不尽です」

「どうして?」

「貴方は利用されてるだけだから……王太子様なのに……」

「王太子だからこそ、この力は皆のために使うのですよ。けれど、貴方のことは何故か王太子としてではなく自分自身として治してあげたいと思っています」

そう言って微笑んだ彼の顔を見てドキリと胸が鳴った。

「……何も返せないです」

「それでかまいません。それに、貴方が初めてなんですよ」

「……なにがですか?」

「私の治療を断ったのは、貴方が初めてなんです。なんだかそれが嬉しくて……。変ですよね」

くすくすと笑いながら彼が僕の仮面へと触れてきた。ぎゅっと目をつぶると、彼の手からまた淡い光が漏れて僕の顔の右側を照らす。

一瞬右目が熱くなって、光が収まると火傷でただれて開かなくなっていた瞳がすんなりと開くことに気がついた。

思わず仮面の下に指を滑り込ませて確認すると、火傷のザラりとした感覚は残っていて、本当に目だけを治してくれたのが分かった。

「見えますか?」

「……はい……」

貴方の顔が良く見えます。

久しぶりに開いた右目は思ったよりも違和感がなく、片目で見るよりも確実に視野の広くなった僕にはフェリクス王太子様の顔が先程よりも良く見えた。

その事に感動する。

嬉しくてなんだか泣いてしまいそうだった。

「本当に傷は治さなくていいのかい?」

少し砕けた口調で尋ねられて、僕は小さく頷き返す。

「これでいいんです。ありがとうございます」

微かに口元に笑みを浮かべてお礼を伝えた。引き釣れた右側が邪魔をして上手く笑うことは出来ないけれど、彼に僕が喜んでいることが伝わればいいと思った。

「貴方はとても強い人ですね」

そう言って彼が握っていた僕の手を離した。

その事に名残惜しさを感じる。

「……強くなんてありません」

こう答えるのが精一杯だった。
僕は弱虫だ。この傷を治したくないと言うくせに、人に見られることは怖がっている。
醜い自分を誰かに見られて、気持ち悪いと言われてしまうことが嫌だ。

だから、強くなんてない。
ただ、強がっているだけなんだ。

「貴方の名前を伺ってもいいですか?」

「……っ……」

なんて答えるか迷って口ごもる。

僕は今日ラルとしてここに来ている。だけど、僕自身は自分の名前を彼に知って欲しいと思ってしまっている。

「……コーラル……コーラル=アルスタッドです」

でも、やっぱり双子の妹の幸せを壊すことは出来ないって思ったんだ。

「コーラル、いい名前ですね。」

「……僕なんかに敬語はやめてください」

気になっていたことを言えば彼がふわりと笑ってくれた。

「コーラル、美しい貴方に幸多からんことを願うよ」

彼の言葉が僕の中に染み渡る。
それなのに、どうしてこんなにも苦しいんだろう。

「……っ」

思わず逃げるように彼の前から駆け出していた。

彼が驚いてコーラルって名前を呼ぶけれど僕は立ち止まることはせずに必死に走り続けた。

涙が溢れてきて、顔を濡らすのも気にせずにただひたすら走り続けて、自分の乗ってきた馬車を見つけると構わずに乗り込んで御者にすぐに出すように伝えたんだ。
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