緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶

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失った愛

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突然機嫌を治したラルはそのまま部屋から出ていき、バタンっと扉の閉まる大きな音が室内へと響いた。その扉を見つめながら、彼女の考えていることは分からないと首を傾げる。

ベッドから降りて壊された小箱を手に取った。

蓋の部分の金具が折れていて、もう使えそうにない。くすんでいて分からないけれど、昔はキラキラと光輝く美しい金色だった金具を指で撫でる。

まだ愛されていた頃、お父様が誕生日にくれたこの小箱を今も愛の証として大切に大切に使っていた。中には昔愛用していた装飾品なんかが入っていて、それも散らばって埃だらけの床へと横たわっている。

これは愛の欠片達だ。

両親やラル、使用人達に愛されていた頃の残りカス。

顔が傷ついてから、皆が愛してくれていたのはあの美しい見た目だったからだと気がついた。

だから、あの時の高飛車で傲慢だった自分に言ってやりたい。これは罰だと。

あの踏み潰されたクッキーにどれだけの想いが込められていたかは分からない。けれど、僕の誕生日に贈り物をくれたあの子の気持ちを踏みにじった自分の愚かさを僕は一生許せないだろう。

人から何かを贈られることがどれだけ尊く特別なことなのかあの時の自分は知らなかった。だから、今こうして自分自身が人に行った様に周りから軽んじられている。

「……こんな物なんの意味もない」

壊れた小箱をそっと棚へと戻す。

欠片に縋ってみても失った愛は帰っては来ない。
この汚く狭い部屋に閉じ込められ、見たくないものに蓋をするかのように扱われている現状が僕のすべてだ。

お父様もお母様も本当に僕のことを大切にしてくれていた。だからこそ、欠陥品になった大事な息子への接し方が分からなくなったのかもしれない。

最初の頃は、泣き叫んで、怪我をしたって僕は何も変わらないのだと主張してみたりもした。けれど両親はそんな僕が手にあまり、困り顔でこの部屋に僕を追いやったんだ。

それで分かった。

醜い僕は要らないんだって。

まるで始末に困った大きなゴミを納屋にしまい込む様に、僕は誰の目にも晒されずただ呼吸だけを繰り返し生き殺されている。

火傷の影響で右目は見えなくなり右肩は皮膚が引きつって上手く動かせない。顔の皮膚も引き連れて笑うことも涙を流すことも難しかった。

鏡を見れば包帯の隙間から醜い火傷の痕が見え隠れしている。火傷をおっていない方の顔は原型を保っているけれど、痩せコケているせいか大きな緑の瞳だけがギラギラと輝いていて美しいとは言えない。左右非対称すぎる顔を見る度に、まるで化け物だと自分でも思う。

こんな人間を愛せと言われても無理なことは分かっている。




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