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ずっと傍に

ずっと傍に⑩

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 手をは引かれて着いた先は噴水の周りにベンチが備えつけられた場所だった。水の流れる音だけがその場を支配していて、静寂が少しだけ怖い。
 俺の手を掴んだまま背を向けて何も言わないレオニードを見つめながら、離れないって言ったのに約束を破ったことを怒っているのかもしれないと思った。
 
「レオニード、離れないって言ったのに約束破ってごめん」
「……違うんだ……」

 俺の言葉を背中で受け止めたレオニードは何度も違う違うって繰り返し呟きながら、ゆっくりとこちらへと振り返った。その拍子に繋いでいた手が離れる。
 こちらに振り返ったレオニードはクシャリと綺麗な顔をゆがめて、今にも壊れてしまいそうな危うさを滲ませていた。

「……レオニード?」
「……約束を破ったのは私だ。引き止めると約束したのにマテオをみすみすルイスの元に行かせてしまった」

 ルイスへの嫌悪感からか、敬称を取り払って後悔の念を吐き出すレオニードはまるで取り返しのつかないことをしてしまったとでも言うかのようだ。
 そんなレオニードの手を取って、しっかりと彼の瞳を見つめ返す。手を取れば彼が微かに震えているのが感じられた。

「俺はここにいるだろ」
「……っ」
「なあ、手の感触も声も感じるだろ?俺はここにいる。レオニードが連れ戻してくれたんだ」
「……っ……もう何処にも行かせはしない。手放しはしない。そう決めたんだっ!なのに簡単に離してしまった!」

 叫ぶ様に言葉を吐き出して、それから俺の事をこれでもかっていう程にキツくきつく抱きしめてきた彼の背中をトントンっとあやす様に撫でてやる。
 レオニードが俺のことをどうしてこんなにも離したがらないのか理由をずっと考えていた。それで少しだけ分かったんだ。きっとそれは満人のせいなんだって。
 レオニード正孝と別れてから、彼がどんな風に暮らしていたのかを俺は知らない。知る機会は何度もあったはずだ。だけど、見て見ぬふりをしていたんだ。
 最低だった。自分は酷い人間で、最低なヤツで、正孝みたいな素敵な人に思われる資格なんてないって満人は分かってた。だからこそ、逃げて逃げて、彼を深く深く傷つけていることに気づけていなかったんだと思う。

 前世のことを謝りたい……。

 今更謝っても過去は消えないって分かっている。だけど、彼に謝りたいって何度も何度も思ったんだ。でも、レオニードは前世の話をしたがらない。前世のことはもう良いんだって、傍に居てくれさえすれば良いんだって言うんだ。

「なあ、ごめんな」

 だから、何に対してなんて言わずに勝手に謝ってしまおうと思った。これはただのエゴだ。
 満人が最低だった事実は消えないし、この謝罪の意味をレオニードは分からない。

「謝らないでくれ。全て私が悪かったんだ」

 なあ、それって何のことを言ってるんだよ。

 レオニードの言葉を聞いてついそう言葉がついて出そうになった。だけど、必死にそれを飲み込んで、心の奥に仕舞い込む。
 お前は何も悪くないんだよって言ってあげたい。悪いのはお前じゃなくて現実から目を逸らして逃げた満人の方なんだよ。

 でも……、でもさ……、それを俺が謝るのは違う気がしたんだ。
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