使い魔スライムと俺

うしお

文字の大きさ
上 下
99 / 105

99、うっかりにもほどがある

しおりを挟む
研究室についてからは、いつものルーティンだ。
席につくなり本日の授業の準備をはじめた御前崎教授のためにコーヒーを用意して、部屋の外に置いてあるポスト代わりのレターケースから郵便物を回収する。
とりあえず、宛名に間違いがないのを確認してから、送り主をざっと見て、すぐに開けるべきものがないかだけをチェックしていく。
一日不在にしていたが、雑用係がいないからといって、問題が起きるようなことはなかったらしい。
まあ、御前崎教授は、普通に仕事のできる人なのだから当たり前とも言えるだろう。
特に急ぎのものはないようなので、次の仕事に取りかかる。
念のため、今朝までに届いているメールチェックを軽く済ませ、もう一度スケジュールに変更がないか確認する。
こちらも特に増えている予定はないようなので、御前崎教授にそのことを伝え、空っぽになったカップを回収しておく。

「ありがとう」

「いえ」

ほんの一瞬、見ていた書類から顔を上げ、にこりと笑った御前崎教授の顔にどきりとする。
いつも俺を悩ませていたパワハラ染みた発言や行動がなくなると、御前崎教授は本当にただただ顔がいい紳士的なイケおじ教授でしかなかった。
そう言われて見れば、学会の集まりで他の大学の職員にも会うことがあったが、御前崎教授からパワハラを受けた話など、一切でてきたことはなかった。
誰もが口にできないだけで、みんなひどい目にあってきたのだろうと思っていたのに、出会う人出会う人、聞かせてくれるのは、御前崎教授をべた褒めするような言葉ばかりで、ずっと腑に落ちない思いをしていたのだ。
学会の集まりの最中に、ひそかに担当教授の愚痴を言い合うのは、下僕のようにこき使われている助手や職員たちの特権だと思っていたのに、俺は言えたことがなかった。
お前はいいよな、と先に言われてしまうと、いやいやそんなことはないなんて愚痴は、言いづらくなるものなのだ。
それに、他の人から聞かされる担当教授への愚痴は、なるほど、御前崎教授の方がマシだな、と思えてしまうくらいひどかった。
この研究室に配属されてからずっと、悩まされていたあれこれが、本当に俺と出会った瞬間からはじまったものであったのだと思い知らされる。
御前崎教授が、俺みたいななんの取り柄もない男に一目惚れしたなんて、到底信じられないことだが、そう考えるとすべての辻褄があってしまうかも?と思ってしまうのだ。
でも、本当に俺のことが好きなのか?

「まだ何かあるのかね?」

「い、いえ、何もないデス……」

カップを回収したくせに、いつまで経ってもいなくならない俺を不思議に思ったのか、御前崎教授が書類からほんの少しだけ目をそらしてこちらを見ていた。
いつもと変わらない整った顔だ。
思わず見てしまった御前崎教授は、やはり仕事のできるただのイケおじ教授にしか見えなかった。

「……ところで、彼はいまどこに?」

目を通し終わったのか、手にしていた書類を机の上にばさりと置いた御前崎教授が、ゆっくりと立ち上がる。

「……か、かれ、ですか……?」

すらりとした長い足のせいなのか、俺がまばたきを数回する間に御前崎教授は、俺のすぐ隣に立っていた。
その顔は、少しだけ不機嫌そうに見える、気がする。
俺は、何かしてしまっただろうか。

「本当に、わからないのかね……? はぁ……不埒なところに隠れている君の使い魔のことだよ」

御前崎教授の整った顔に、縦じまのような眉間のしわがくっきりと刻まれる。
そのしわを、眩暈でも起こしそうなのかと思うくらい指先でぐっと強く摘まんだまま、御前崎教授がため息と共に答えを教えてくれた。
もちろんその視線は、俺のスラックスに向けられている。

「ぅわっ、そうだった……!」

あまりにも穿き心地がよく自然すぎて、俺のパンツと化していたスライムのことをすっかり忘れていた。
こんな衝撃的なこと、気にしないでいられるわけがないと思っていたのに、なんということだろう。

「まさか、君は……本当に、忘れていたのかね……?」

「え、えっと……あの……そ、その通りのようです……」

いいわけすら思いつかず、ただただ恥ずかしくてたまらない。
あまりの恥ずかしさに、俺は本気でどこかの穴に埋まってしまいたいと思った。
顔から火が出ているのではないかと思うくらい熱くて、全身から嫌な汗が滝のように流れている。

「…………そうか、それなら仕方がないな。私が授業に出たら、この部屋の鍵をかけてから彼を出してあげるといい。ただし、くれぐれも見つからないように気をつけること。約束できるね?」

眉間のしわをぐりくりと揉みほぐした教授は、苦笑いといった顔になり、それから、本当に仕方がないな、という表情で笑う。
しかめっ面から苦笑に変わる表情の変化を見て、俺は思わず可愛いな、と思ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...