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92、戸惑うことしかできない
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結局、昨日はふたりがかりで抱き潰されて、俺は有給休暇を消化するはめになった。
目が覚めたら、もうすっかり夕方になっていて、かなりびっくりした。
俺が、スライムの教授がいたのだから、回復薬を出してくれればよかったのにというと、人間の教授の希望だと言われた。
お陰で丸一日寝て過ごすことになってしまったが、教授は何を考えているのだろうか。
「有給休暇など、どうせいつかは消化しなければならないものなのだから、それが昨日になったとしてもかまわないだろう? 無断欠勤にはなっていないから、安心するといい」
そう言って笑う教授は、バスローブを着ただけの俺を軽々と抱き上げて歩いていた。
いわゆる、お姫様だっこの状態で、どうすればいいかわからない俺は、少しでも負担にならないよう教授の首にしがみつくことしかできないでいる。
御前崎教授は、俺が寝ている間に出勤し、ちゃんと仕事をしてきたらしい。
夕飯は教授がテイクアウトしてきた中華で、話は食べてからにしようと言われた俺は、一口食べただけで言いたいことが全部吹っ飛んでしまった。
ゆっくり休めた上に美味い飯まで付いてくるだなんて、幸せでしかない。
それから、食後のお茶を飲んで、ゆっくり休んでからお風呂へ。
大きなお風呂でのびのびと体をのばしてから、替えの下着すら持っていないことに気が付いた。
うっかりにも程がある。
とりあえずバスローブだけでもと置いてあったそれを着て外に出たら、明らかに風呂上がりだとわかるやけに色っぽい美丈夫が俺を待っていた。
バスローブの胸元から見える雄っぱいに、どきどきが止まらない。
じろじろと見てしまわないように、目をそらすのが大変だ。
どうやら、この家には他にも浴室があるらしい。
どきっと跳ねた鼓動に驚いて、ちょっとよろめいた瞬間、俺はその美丈夫にさっと掬い上げられていた。
はっと気が付いた時には、もうこの状態だ。
それからは、もう何を言っても降ろしてもらえない。
「あの、教授、俺、歩けます、よ?」
「そうかね。それはよかった」
「……あの、教授?」
「なにかね?」
「降ろして、くれたりは……?」
「何故?」
「……なぜ、って」
「その必要はないだろう」
「え、いや、必要あるか、とかではなく、その、俺、重いですよね? 自分で歩けるので、降ろしてもらえれば」
「羽根のように軽い、とは言わないが、君が心配するほど重くはない。それに、」
ふっと目の前に影が射し、目線を上げると同時に口付けられていた。
ほんの一瞬、触れるだけで離れていった唇に、何故だか目を奪われる。
「近いというだけで、得なこともあるから気にしなくていい。それにしても、悠一は無防備すぎるね。君がそんな風だから、心配すぎて離れたくないんだ」
ついっと三日月のようにつり上がったその唇が、ただ言葉を紡いだだけなのに、それがやけに艶かしく見えてしまって、体が勝手にぞくぞくと震えた。
なんだ、この反応、おかしくなってる?
もしかして、教授とセックスをしてしまったからだろうか。
「それに、君はまだ私がお仕置きをした理由もわかっていないようだしね。これもお仕置きの延長とでも思えばいいさ」
「なん、で、そんな……」
「それもわからないのかね? なに、ごくごく簡単なことだよ」
「かんたん……?」
「そう、とても、ね」
ふっと意地悪く歪められた唇が、今度はじっくりと重ねられた。
はむりはむりと優しく啄まれ、驚いた俺の唇を教授の舌がゆっくりとなぞりあげる。
びっくりしていることを言い訳にしてされるがままになっていると、今度は舌でやわらかくノックしてきた。
どうすればいい?
視線をあげれば、こちらを見ていた教授と目があう。
しばらく見つめあったあと、教授の目がどこか楽しそうに細められると、不思議なことに逆らおうという気は起きなかった。
素直に口を開いて、教授の舌を受け入れる。
なすがままになっている俺の中に、優しく触れてくる舌。
荒々しくもなく、奪うようなものでもない。
ただ、ただ、ゆったりと絡みついてくる舌に、ぞくぞくと震える。
あまりにもきもちよくて、絡みあった舌から全身が蕩けてしまいそうだ。
蕩けた体が、そのまま落ちてしまいそうで怖い。
教授の首にまわした腕で、強くしがみつくと、俺を支える教授の手に力がこもる。
「……っ、ふ……ぁ、っ」
たっぷりと舌を絡めあってから解放された時には、ぐったりとしてしまっていた。
あまりにも濃厚で、官能的な口付けだった。
「どうだい? さすがに、そろそろわかってもらえると嬉しいのだがね」
そんな俺を見て、嬉しそうに目を細める教授の舌が、ゆるやかに唇を撫でていく。
ちらりと見えた赤色に、目が釘付けになってしまう。
「……わか、りません。なんで、なんですか……?」
「……君は、とても残酷だな。答えを聞く前から振られた気分だ」
「ざんこく……ふられ、えっ?」
「悠一、君はもう忘れてしまったようだけれどね。君から離れたくないのも、君を離したくないのも、全部、私が君を愛しているからなんだよ。私は一般的な男だからね、好きな子の側にただ居たいだけなんだよ。まあ、すでに手を出してしまった私の言葉では、説得力は皆無だろうけどね」
優しく微笑んだ教授は、俺を壊れ物のように優しく床に降ろすと、目の前にあった扉を開いて中へと押し込んだ。
「これならいっそ、諦めろと言ってもらえた方が楽だったかもしれないね。私もいい大人だけれど、もう少しだけ気持ちを整理する時間が欲しい。だから、答えはまだ言わないでくれるとありがたいな」
ぱたんと背後で閉まる扉の音に、うるさく鳴る心臓の音が重なった。
バスローブの袷を掴んで、そのまま膝から崩れ落ちる。
床にはふかふかの絨毯が引かれていたおかげでどこも痛くなかったが、へにゃりと座り込んだ俺は立ち上がることすらできない。
ざぁざぁと勢いよく流れる血の音まで聞こえるような激しい鼓動に、くらくらと目眩がするようだった。
「そこにあるのは、すべて君のために用意したものだ。好きなものを選ぶといい。スーツもあるから、明日はここから一緒に出勤しよう」
外から掛けられた言葉に、つられるように視線を上げると、そこにはまるで紳士服売り場の一角のような景色が広がっていた。
「……こんなの、どうしろっていうんだよ。もう、とっくにキャパオーバーだぞ……」
目が覚めたら、もうすっかり夕方になっていて、かなりびっくりした。
俺が、スライムの教授がいたのだから、回復薬を出してくれればよかったのにというと、人間の教授の希望だと言われた。
お陰で丸一日寝て過ごすことになってしまったが、教授は何を考えているのだろうか。
「有給休暇など、どうせいつかは消化しなければならないものなのだから、それが昨日になったとしてもかまわないだろう? 無断欠勤にはなっていないから、安心するといい」
そう言って笑う教授は、バスローブを着ただけの俺を軽々と抱き上げて歩いていた。
いわゆる、お姫様だっこの状態で、どうすればいいかわからない俺は、少しでも負担にならないよう教授の首にしがみつくことしかできないでいる。
御前崎教授は、俺が寝ている間に出勤し、ちゃんと仕事をしてきたらしい。
夕飯は教授がテイクアウトしてきた中華で、話は食べてからにしようと言われた俺は、一口食べただけで言いたいことが全部吹っ飛んでしまった。
ゆっくり休めた上に美味い飯まで付いてくるだなんて、幸せでしかない。
それから、食後のお茶を飲んで、ゆっくり休んでからお風呂へ。
大きなお風呂でのびのびと体をのばしてから、替えの下着すら持っていないことに気が付いた。
うっかりにも程がある。
とりあえずバスローブだけでもと置いてあったそれを着て外に出たら、明らかに風呂上がりだとわかるやけに色っぽい美丈夫が俺を待っていた。
バスローブの胸元から見える雄っぱいに、どきどきが止まらない。
じろじろと見てしまわないように、目をそらすのが大変だ。
どうやら、この家には他にも浴室があるらしい。
どきっと跳ねた鼓動に驚いて、ちょっとよろめいた瞬間、俺はその美丈夫にさっと掬い上げられていた。
はっと気が付いた時には、もうこの状態だ。
それからは、もう何を言っても降ろしてもらえない。
「あの、教授、俺、歩けます、よ?」
「そうかね。それはよかった」
「……あの、教授?」
「なにかね?」
「降ろして、くれたりは……?」
「何故?」
「……なぜ、って」
「その必要はないだろう」
「え、いや、必要あるか、とかではなく、その、俺、重いですよね? 自分で歩けるので、降ろしてもらえれば」
「羽根のように軽い、とは言わないが、君が心配するほど重くはない。それに、」
ふっと目の前に影が射し、目線を上げると同時に口付けられていた。
ほんの一瞬、触れるだけで離れていった唇に、何故だか目を奪われる。
「近いというだけで、得なこともあるから気にしなくていい。それにしても、悠一は無防備すぎるね。君がそんな風だから、心配すぎて離れたくないんだ」
ついっと三日月のようにつり上がったその唇が、ただ言葉を紡いだだけなのに、それがやけに艶かしく見えてしまって、体が勝手にぞくぞくと震えた。
なんだ、この反応、おかしくなってる?
もしかして、教授とセックスをしてしまったからだろうか。
「それに、君はまだ私がお仕置きをした理由もわかっていないようだしね。これもお仕置きの延長とでも思えばいいさ」
「なん、で、そんな……」
「それもわからないのかね? なに、ごくごく簡単なことだよ」
「かんたん……?」
「そう、とても、ね」
ふっと意地悪く歪められた唇が、今度はじっくりと重ねられた。
はむりはむりと優しく啄まれ、驚いた俺の唇を教授の舌がゆっくりとなぞりあげる。
びっくりしていることを言い訳にしてされるがままになっていると、今度は舌でやわらかくノックしてきた。
どうすればいい?
視線をあげれば、こちらを見ていた教授と目があう。
しばらく見つめあったあと、教授の目がどこか楽しそうに細められると、不思議なことに逆らおうという気は起きなかった。
素直に口を開いて、教授の舌を受け入れる。
なすがままになっている俺の中に、優しく触れてくる舌。
荒々しくもなく、奪うようなものでもない。
ただ、ただ、ゆったりと絡みついてくる舌に、ぞくぞくと震える。
あまりにもきもちよくて、絡みあった舌から全身が蕩けてしまいそうだ。
蕩けた体が、そのまま落ちてしまいそうで怖い。
教授の首にまわした腕で、強くしがみつくと、俺を支える教授の手に力がこもる。
「……っ、ふ……ぁ、っ」
たっぷりと舌を絡めあってから解放された時には、ぐったりとしてしまっていた。
あまりにも濃厚で、官能的な口付けだった。
「どうだい? さすがに、そろそろわかってもらえると嬉しいのだがね」
そんな俺を見て、嬉しそうに目を細める教授の舌が、ゆるやかに唇を撫でていく。
ちらりと見えた赤色に、目が釘付けになってしまう。
「……わか、りません。なんで、なんですか……?」
「……君は、とても残酷だな。答えを聞く前から振られた気分だ」
「ざんこく……ふられ、えっ?」
「悠一、君はもう忘れてしまったようだけれどね。君から離れたくないのも、君を離したくないのも、全部、私が君を愛しているからなんだよ。私は一般的な男だからね、好きな子の側にただ居たいだけなんだよ。まあ、すでに手を出してしまった私の言葉では、説得力は皆無だろうけどね」
優しく微笑んだ教授は、俺を壊れ物のように優しく床に降ろすと、目の前にあった扉を開いて中へと押し込んだ。
「これならいっそ、諦めろと言ってもらえた方が楽だったかもしれないね。私もいい大人だけれど、もう少しだけ気持ちを整理する時間が欲しい。だから、答えはまだ言わないでくれるとありがたいな」
ぱたんと背後で閉まる扉の音に、うるさく鳴る心臓の音が重なった。
バスローブの袷を掴んで、そのまま膝から崩れ落ちる。
床にはふかふかの絨毯が引かれていたおかげでどこも痛くなかったが、へにゃりと座り込んだ俺は立ち上がることすらできない。
ざぁざぁと勢いよく流れる血の音まで聞こえるような激しい鼓動に、くらくらと目眩がするようだった。
「そこにあるのは、すべて君のために用意したものだ。好きなものを選ぶといい。スーツもあるから、明日はここから一緒に出勤しよう」
外から掛けられた言葉に、つられるように視線を上げると、そこにはまるで紳士服売り場の一角のような景色が広がっていた。
「……こんなの、どうしろっていうんだよ。もう、とっくにキャパオーバーだぞ……」
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