使い魔スライムと俺

うしお

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30、もう一人の『教授』

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「……少しは余裕を持って動けないのかね。そんなことだから、君はまだ助手としても半人前で」

研究室に入るなり、俺は教授に叱られていた。
もちろんそれは、スライムではない方の教授だ。
遅刻はしなかったものの、俺が始業時間ぎりぎりに現れたことが気にくわないらしい。
しかし、自分でも社会人としてよろしくないことだったと思うので、大人しく拝聴する。
むしろ、そうする以外の選択肢がない。
俺はひたすら頭を下げ、嵐が去るのを待つしかなかった。

「も、申し訳ありません」

説教モードに入った教授は、とにかくねちねちと嫌みったらしい。
見た目は、紳士でダンディなナイスミドルといったところなのだが、その中身は、とんでもないパワハラ男なのだ。
機嫌が悪ければ、俺は人格どころか人生そのものを否定されるし、普段の生活態度についても、重箱の隅をつつくように細々口撃されることもある。
御前崎おまえざきたすく教授は、この世界が異世界と繋がったことで新しく設立された異世界言語分野における第一人者であり、俺の直属の上司にあたる。
正確に言うと、俺は異世界言語研究学会の母体である大学の専任職員という位置付けなのだが、この気難しい教授の助手としてフルタイムで貸し出されている状態だ。
少しでも気にくわないことがあると、いつもこの調子なくせに、何故だか俺以外が助手としてつこうものなら、嫌みでは済まないレベルの癇癪を起こす。
学会は、気難しい教授のために、これまでに何人もの新しい助手候補を用意し、この研究所に送り込んできたののだが、誰一人として教授に受け入れられることはなかった。
ちゃんとこの分野でも通用しそうな高名な言語研究者や、すでに考古学の分野で活躍しているような専門家ばかりが選ばれていたというのに。
俺にはわからないような話題にだって、軽々ついていける頭のいい人たちばかりだった。
だから、誰か一人くらいは採用されると思っていたのに、蓋を開けてみたらとんでもない結果が待っていた。
なんと、教授が助手として選んだのは、何故か専門外であるはずの俺だったのだ。
指名の理由は、俺が一番マシということらしいが、たぶん本当の理由は他にあると思う。
他の人たちは、頭もよくて、立場もあるから、いくら相手が教授でも一方的にやられてくれるわけがない。
きっと、俺みたいなバカの方が、サンドバッグとしてはちょうどいいと言うことなのだろう。
その結果、俺はいま大学公認の下僕としてこの研究室で働いている。
一応、引き受けるかどうかについては、拒否権を与えられているようだったが、どう考えても断ればどうなるか、大学側の意図が見え見えのデキレースのような面談だった。
そのせいで、俺は大学の職員仲間から『地雷処理班』という嬉しくもないあだ名をつけられてしまった。
ただし、それはドラマに出てくるような爆発を未然に防ぐエキスパートを指す言葉ではなく、地雷原に自ら飛び込んで自爆するロボットを指す、自爆処理装置的な意味で使われている。
スライムの『教授』は、一体この地雷的ナイスミドルのどこに共感したと言うんだろうか。

「……まあ、いい。この週末、何をしていたのかは知らないが、ずいぶんと調子が良いようだな」

じろじろと俺の全身を確認した教授は、そのまま手をのばしてきて、いきなりぶにっとほっぺたを摘まんできた。
俺は、あまりのことに反応出来ない。
これが、五十を越えたいい大人のすることなのだろうか?
さらに、そのままぺたぺたと顔やら首やら肩やらを触り出すから、俺の体はこの週末にスライムにされたことを思い出し始めていた。
やばい、ちょっと触られるだけでも、変な声が出そうだ。
それなのに、本当に気持ちいいところから逸れているので、焦らされているみたいでぞくぞくしてしまう。
俺は、喘いだりしないよう、ぎゅっと口を閉ざした。

「いいかね? 君も三十歳になったのだから、もっと大人としての自覚を持って、しっかりと……って、君、私の話を聞いているのかね?」

ついっと撫でられた首筋に、ぞくぞくするのを耐えていたら反応が遅れてしまった。
いつの間にか、教授に顔をのぞきこまれている。
そんなつもりはないだろう教授の手で、勝手に気持ちよくなってしまった俺は、もうすでにキャパオーバーでちょっと涙目だ。
スライムのせいで、尿道以外の場所も、かなり感じやすくなってしまっていた。
きちんとジャケットを着ているおかげで、教授にバレてはいないだろうが、乳首が触って欲しいとねだるように硬くなり、つんと立ち上がっている。
シャツと擦れて気持ちいい。

「……はい。聞いています」

出来るだけ平静を装って、俺はまだまだ続くだろう嫌みに備え姿勢をただす。
ただ、潤んでしまった目は見られないよう伏せがちにして、うっかり目を合わせてしまわないよう目線は教授の胸元に落とした。
あとは、反応してしまった体に気付かれないよう必死に耐えるだけだ。

「……まあ、いい。仕事に戻りたまえ」

しかし、ごほんっと咳払いをした教授は、そのまま俺を解放してくれるらしかった。
いつもなら、ここからあと十分くらいは嫌みが続くはずなのに。

「ありがとうございます」

腑に落ちないものを感じつつも、嫌みを聞かなくていいなら、その方がいいので頭を下げてさっさとそこから逃げ出した。
下半身の一部的にも、逃げ出さなければならなかった。
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