恋は熱量

１３、淫魔(２)

お食い初めの相手には、精気の豊富なものや精力の強いものが選ばれやすいと聞く。
財力のある家に生まれた淫魔の子は、お食い初め相手として良質な精気に満ちたものが何人も用意され、全員から体液をもらうため一晩中性交し続けるという。
そして、お食い初めが終わると、精器は注がれた体液から精気を抽出し、それらを魔力に変換していく。
変換された魔力は、淫魔の体のあちらこちらに影響を及ぼす。
髪が美しくのびるものがいれば、胸が大きく膨れるものや腰が細く括れるものがいて、陰茎が太くなるものや長くなるものなどもいる。
魔力があればあるほど、淫魔の体は魅力的な変化を起こすのだ。
だから淫魔は、より良い精気を獲られるように性交を繰り返し、美しい体を維持するために、さらなる性交を繰り返す。
いついかなる時も、体内に魔力がたっぷりと蓄えられるようにしているのだ。
この頃になると、それまで当たり前のようにしていた飲食は、完全な嗜好品扱いとなる。
淫魔にとっては、飲食をするよりも性交をしていた方が、体は満腹になるし、何よりも美しくなるとわかっているからだ。
淫魔が美に対して執着するのは、それが生き死にに関わることだと生存本能に刻みこまれているからなのだ。

精気はもちろん体液に含まれているから、淫魔はあらゆる手段でそれを搾り取ろうとするのだが、実は一番吸収効率がいい精気の摂取方法は、性交中の口づけだった。
特に、射精や絶頂の最中に、直接吸い取るのが一番とされている。
そして、最も良質な精気にするのなら、恋人のように愛しあい、絶頂と同時に口づけを交わすことがおすすめだという。
これは、吸われる方も気持ちいい行為らしく、淫魔と口づけながらするは射精は、射精の中でも極上の部類のひとつと噂されていた。

魔力をたっぷりと蓄えた淫魔が、輝くような美しさを手にするのは常識だ。
精気から変換された魔力が、そのまま淫魔の魅力となり、人々を惑わすからだ。
だが、精気を満足に獲ることができない淫魔はとても惨めなものだ。
魔力が不足し、大人の体を維持することができず幼子の姿になってしまうものや、老人のように萎れてしまうものもいる。
ジュールは淫魔の中でも特に珍しい体質をしていて、性交をしなくても普通の食べ物から魔力を獲ることができた。
だがそれは、深刻な魔力不足には陥らない代わりに、魔力の補給を普通の食べ物にばかり頼っていると美しく保たれるはずの肉体が、淫魔のたおやかさから程遠くなってしまうという諸刃の剣だった。
これは短尾種たんびしゅと言われる尻尾の短い淫魔だけにみられる特徴で、長尾種ちょうびしゅと呼ばれる尻尾の長い淫魔から短尾種が、雑食と蔑まれる原因だと後に知ることになる。
てっきり、長尾種の淫魔があくまで嗜好品として楽しむ飲食を、短尾種の淫魔はがっつり食べるからだと思っていたので、理由を聞いてなるほどと思ったものだ。
何でも食べるから雑食なのではなく、精気も飲食もするから雑食なのだと。
とにかく、当時、娼館の前に捨てられていた赤子のジュールの世話人としてつけられた老人が教えてくれたのは、ジュールはあまり食べ物を食べてはいけないということだけだった。
ジュールは、常に癒されない空腹を抱えながらも、老人の言葉を守り続けた。