恋は熱量

うしお

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10、口づけ(1)

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男はジュールと共に食事をし、片付けが終わったあとは真っ暗な小屋の中に入った。
これからここで外の続きをするのだと、ジュールは何もない部屋を見回す男の大きな背中を見ながらどきどきしていた。
寒いからと火のある側で家の壁に押し付けられることもなく、暴れられたら面倒だからと大木に縛りつけられたり、吊るされたりすることもなかった。
この男は、まるで普通の淫魔とするのと同じように、この部屋の中でジュールと性交をするつもりなのだ。

「ずいぶんと暗いし、寒いな。この小屋には、暖炉はないのか?」

「ご、ごめんなさい、暖炉は……ありません」

男の問いかけに、急に恥ずかしさと情けなさがこみあげてきた。
この小屋にないのは暖炉だけじゃなく、ベッドもなのだ。
あんな板の上に敷いただけの布は、少なくともベッドと同列に語っていいものではない。
ベッドもないくせに、普通の淫魔みたいに性交するのだ、なんてとんだ思い上がりだった。
なんて恥ずかしいことを考えていたのだろうか。

もともとこの小屋は、北の森で仕事をしていた木こりが使っていた休憩所であり、人が住むようには作られていなかった。
北の森は冬になれば雪が降り、真っ白な闇に閉ざされてしまう場所なので、木こりも秋を越えると小屋を使いにこなくなる。
暖炉は使う必要がないとはじめから作らなかったのだろう。
煙突の煤掃除や、薪の管理を面倒くさいと思ったのかもしれない。
とにかく、座って休みながら飯を食うことだけが目的なので、壁と屋根があることと風を避けられること以外、何もいいところがない小屋なのだ。
どこにも居場所のないジュールにとって、この小屋は唯一安心して暮らせる家である。
だがもしも、こんなところではやる気にならないと言われてしまえばそれまでだった。

「別に謝らなくていい。灯りは、これがあるから大丈夫だ。ただ、あんたが寒くないかと思ったんだ」

男は手にしていたランプを机の上に置くと、恥ずかしさと申し訳なさに体を丸めていたジュールをそっと抱き締めた。
同じくらい大きな体だと思っていた男は、少しだけジュールよりも大きく、たくましかった。
包み込まれる腕のたくましさに、思わず胸がぎゅうっと締め付けられる心地がした。
初めて抱き締められたのに、この男には何もかもを預けてしまいたくなる。
うつむいていたジュールの顔を、男はあごを掬い上げることであげさせると、そのまま唇を重ねてきた。
整えられたヒゲが、ジュールの口元を優しく突いてくる。
まさか口づけられるなどとは思っていなかったジュールは、目を見開いたまま入り込んでくる舌に翻弄された。
すぐ目の前にある男のやわらかい碧色に輝く瞳が、微笑むように細められる。
長い前髪がさらりと横に流され、隠していたはずの目が露になっているのに。
その瞳に、嫌悪の色はなかった。
男は、ジュールの血のように紅い瞳を見ても、ただ優しく微笑むだけだった。
宝石のようにきらきらと輝く碧色の瞳に、記憶のどこかが疼いたような気がしたが、思い出せることは何もなかった。
背中にまわされた大きな手が、首筋からゆっくり尻の方へたどるのと同時に、もう片方の手がジュールのシャツの紐をゆるめていく。
その手つきは、とても手慣れていた。
きっと、数えきれないほど繰り返されてきた当たり前のことなのだ。
男はジュールの服をはだけさせると、開いた胸元から手を差し入れ、寒さに硬くなっていた乳首にそっと触れてきた。

「ん……ぅっ」

ジュールの尻をゆったりと揉みながら、乳首をくりっくりっと少し強く撫でるその手に迷いの影はない。
口づけた唇からは男の舌がジュールの咥内へと入り込み、戸惑うジュールの舌を絡め取っていく。
ジュールの舌をゆったりと味わうように、やわらかく擦り付けられてくる舌が気持ちよくて、ぞくぞくと震えた。
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