5 / 53
5、来客(1)
しおりを挟む
夜になると森の冷え込みは一層きついものになる。
昼間の成果は、安心して食べられるいつもの草や木の根の他に、ご褒美といってもいい秋の実りも見つけた。
小さくて食べられる部分は少ないのだが、栄養がたっぷりつまっている胡桃を、手のひらいっぱいに拾うことができたのだ。
上々の成果である。
だが、それに比べ薪の方は駄目だった。
薪となりそうな木は、かなり遠くまでいかなければ見つけられなかった。
木を伐る道具でもあれば、いくらでも薪が作れるのだろうが、ジュールは何も持っていない。
いつもは、落ちている枝や倒れた木などを探して森の中を歩いているが、それらが見つからない時は、あまり太くない枝にぶら下がり、自分の体重を利用して折ることもある。
自分の体が大きくてよかった、と思える数少ない機会だ。
しかし、枝を折って手に入れられたとしても、折ったばかりの枝はそのままでは水分が多く、すぐに薪としては使えない。
そのため、日当たりのよい場所に並べて乾かす必要があった。
枝を乾かしている間は、常に天気との戦いだ。
並べた木は濡らさないよう雨が降る度に家の中へ入れなければならず、ジュールはあまり遠出をすることができなくなる。
以前、うっかり遠くまで出かけてしまったことがあり、不運にも突然の雨に降られた結果、せっかく乾きはじめていた木は濡れてしまった。
しかも、地面に並べて乾かしていたから、表面にべったりと泥がつき、ふりだしどころかマイナスにまでいっていた。
それからジュールは、木を干す時には遠出をしないと決めている。
だから、遠くにいかなければ薪は集められないとわかっているのに、家から離れて遠くにいくことができないのだ。
ジュールがあたたまるには、小屋の中をあたためるだけでいい暖炉に頼るのではなく、吹きっさらしの外で焚き火をしなければならない。
それでも、石積みのかまどを作っただけ、少しはマシにはなっているのだ。
けれど、絶対量が違いすぎ、いつでも薪は不足していた。
ジュールは、少しずつ自分が追い詰められていることをちゃんと自覚していた。
けれど、ジュールには、もうここで生きる以外の道は残されておらず、いつかすべての終わりがくるのを待っているだけだった。
新しいスープを作りながら、集めてきた胡桃を埋めるための穴を掘っていく。
胡桃はもとから固い殻に守られているので、保存袋に入れなくても保存が可能だ。
穴を掘るための道具などないから、薪用に拾ってきた木の枝に布を巻いて持ち手としたものを使って、必死に掘り進める。
穴を掘っているのは、あとで忘れないようにするため、目印になる大きな木の根本だ。
毎年のことなのに、根本の土はいつも通り恐ろしく固くなっていた。
がつがつと地面をどうにか掘って穴を開け、胡桃を埋めて土をかぶせる。
これは冬の間の非常食として、大事に食べるつもりだ。
土の下に入れておくと、外に置いておくよりも長持ちする。
胡桃を埋め終え、スープも完成に近づいた頃、森の奥から足音が聞こえてきた。
できあがったスープの入った鍋を地面におろし、そちらの方を見つめていると暗闇の奥にゆらゆらと揺れる小さな灯りがひとつ。
それがぴたりと止まると、声が聞こえてきた。
「なぁ、どうやら、道に迷っちまったみたいなんだが、今夜、泊めてもらえねぇか?」
昼間の成果は、安心して食べられるいつもの草や木の根の他に、ご褒美といってもいい秋の実りも見つけた。
小さくて食べられる部分は少ないのだが、栄養がたっぷりつまっている胡桃を、手のひらいっぱいに拾うことができたのだ。
上々の成果である。
だが、それに比べ薪の方は駄目だった。
薪となりそうな木は、かなり遠くまでいかなければ見つけられなかった。
木を伐る道具でもあれば、いくらでも薪が作れるのだろうが、ジュールは何も持っていない。
いつもは、落ちている枝や倒れた木などを探して森の中を歩いているが、それらが見つからない時は、あまり太くない枝にぶら下がり、自分の体重を利用して折ることもある。
自分の体が大きくてよかった、と思える数少ない機会だ。
しかし、枝を折って手に入れられたとしても、折ったばかりの枝はそのままでは水分が多く、すぐに薪としては使えない。
そのため、日当たりのよい場所に並べて乾かす必要があった。
枝を乾かしている間は、常に天気との戦いだ。
並べた木は濡らさないよう雨が降る度に家の中へ入れなければならず、ジュールはあまり遠出をすることができなくなる。
以前、うっかり遠くまで出かけてしまったことがあり、不運にも突然の雨に降られた結果、せっかく乾きはじめていた木は濡れてしまった。
しかも、地面に並べて乾かしていたから、表面にべったりと泥がつき、ふりだしどころかマイナスにまでいっていた。
それからジュールは、木を干す時には遠出をしないと決めている。
だから、遠くにいかなければ薪は集められないとわかっているのに、家から離れて遠くにいくことができないのだ。
ジュールがあたたまるには、小屋の中をあたためるだけでいい暖炉に頼るのではなく、吹きっさらしの外で焚き火をしなければならない。
それでも、石積みのかまどを作っただけ、少しはマシにはなっているのだ。
けれど、絶対量が違いすぎ、いつでも薪は不足していた。
ジュールは、少しずつ自分が追い詰められていることをちゃんと自覚していた。
けれど、ジュールには、もうここで生きる以外の道は残されておらず、いつかすべての終わりがくるのを待っているだけだった。
新しいスープを作りながら、集めてきた胡桃を埋めるための穴を掘っていく。
胡桃はもとから固い殻に守られているので、保存袋に入れなくても保存が可能だ。
穴を掘るための道具などないから、薪用に拾ってきた木の枝に布を巻いて持ち手としたものを使って、必死に掘り進める。
穴を掘っているのは、あとで忘れないようにするため、目印になる大きな木の根本だ。
毎年のことなのに、根本の土はいつも通り恐ろしく固くなっていた。
がつがつと地面をどうにか掘って穴を開け、胡桃を埋めて土をかぶせる。
これは冬の間の非常食として、大事に食べるつもりだ。
土の下に入れておくと、外に置いておくよりも長持ちする。
胡桃を埋め終え、スープも完成に近づいた頃、森の奥から足音が聞こえてきた。
できあがったスープの入った鍋を地面におろし、そちらの方を見つめていると暗闇の奥にゆらゆらと揺れる小さな灯りがひとつ。
それがぴたりと止まると、声が聞こえてきた。
「なぁ、どうやら、道に迷っちまったみたいなんだが、今夜、泊めてもらえねぇか?」
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説




どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる