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ディレーテの街
ディレーテの街 6
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数ある壁穴屋の中でも、ディレーテの下に広がるこの店の処罰の早さは、他の追随を許さない。
なにせ、見つかった瞬間に即拘束、即処罰だ。
言い訳も誤魔化しも、する暇を一切与えられずに処分を受ける。
すべてが個室で行われるので、初犯で多少怖い思いをしながらつるつるにされても、懲りないやつは懲りずにまた手を出そうとする。
だから、二度目からは、見せしめのために人前で処罰を受けさせられる。
人前というか、その人たちに見られるだけでなく、罰を与えられるわけだけれど。
だが、常習犯の末路がモンスターの肉便器だということは、実は公開されていない。
特に素行が悪く、再犯部屋に何度か入れられていた男が、ある日突然、ぴたりと姿を見せなくなる。
そんな男が再犯部屋どころか、ディレーテの街中でも見かけなくなっても、誰も気にしない。
せいぜい、あの憎らしい男のケツ穴を、二度と犯してやれないのは残念だと、酒の肴にされるくらいだ。
顔を見せなくなったところで、その素行の悪さから、あくまでも、壁穴屋を出入り禁止になったか、ディレーテの街から追放されたのだろうくらいにしか思われないのだ。
再犯の罪人を犯し放題な部屋のように、肉便器になった罪人が、二度と誰かの目に触れることはないからだろう、そんな憶測が飛び交うようになった。
きっと、もっとひどい罰を受けて、追い出されたのだろうだとか、もしかしたら、モンスターに犯されているのかも、なんて面白おかしく話のネタにされるだけ。
自分が口にしている噂話が、真実だなんてことは、誰も知らない。
それでも、正しく壁穴屋で遊ぶものは、はしご穴を楽しみ、時折開かれる断罪部屋で罪人を犯す。
入れ替わりの激しい迷宮の街ディレーテだからこそ、会わなくなったものの顔など容易く忘れる。
世の中なんて、そんなものだ。
ただの壁穴屋で、何故こんなにも簡単に処分が下されるのかと言えば、簡単な話だ。
大きくそびえる街壁に囲まれたディレーテの街、その地下すべてに広がるこの壁穴屋は、ただの壁穴屋ではない。
大規模壁穴遊戯場ディレーテ。
街の名前を冠したこの店こそ、領主が一から設立し、直属の部下が管理している壁穴屋なのだ。
表立って店名を名乗ることはないからか、よほどうまく隠されているからなのか、その名を知るものはほんの僅かしかおらず、店の設立に領主が関わっていることさえあまり知られてはいない。
その僅かに、俺が入っていることを喜ぶべきか、悩むところなのではあるが。
もとより、ここが上の酒場と違う名前がついている壁穴屋だということを、認識している客はいないだろう。
普通の街では、あの酒場この酒場と客は酒場を基準に話をするし、表立って言うものでもないのでわざわざ壁穴屋に名前をつける店主もいない。
この街のように壁穴屋がひとつしかない場所など、他にはないのだ。
実際に領主が店に立つことなどありはしないが、領主が選んだ部下により店の隅々にまで領主の方針が行き渡っている。
例えば、犯罪を許さない、は基本なのだが、売り手を傷つけるものは絶対に許さない、なんてわざわざ別項目で宣言するほど、売り手を手厚く保護している。
店のスタッフや教会の神父は、領主から断罪資格を与えられている。
領主の代理として、罪人に与える刑罰をその場で下せる特別な資格だ。
なろうと思えば裁判官にもなれるような優秀な人材も、ここでは全員が同じ資格を持っているので、ただのスタッフでしかない。
そんな資格を与えているのも、捕らえた罪人を速やかに処刑するためなのだとか。
実際に経営しているのは領主直属の部下なので、そのあたりの裏事情やらなんやらについては徹底して隠されているようだ。
常習犯用の部屋は、教会によって管理されている更正施設だと思われているし、信者も住人も独占するために外から来る人間には教えようとはしない。
見た目にはただの教会でしかないので、ふらりと立ち寄れるような場所ではない。
ましてや処刑される罪人は二度と外に出てはこないため、そこでの出来事を吹聴するものもいない。
それなら、なんで俺がそんなことを知っているのかと言えば、この店を作る際に関わらされたからだ。
ただその時の話では、迷宮近くの大都市として、犯罪率を下げるために気を付けておくべきことが知りたいという話だったはずなのだが。
「売り手に刃物? 二度と来れないように、去勢しろ」
何故か同席させられた開店前のスタッフ会議で、店主である領主は一切表情を変えることなく言ってのけた。
一瞬、世界が止まったかと思うくらいのひどい静寂が訪れた。
だって、刃物を向けただけで去勢って、さすがにやりすぎだろう?
たぶん、全員がそう思っていたはずなのに、スタッフは一言も口にせず、領主の向かい側に座らされた俺を一斉に振り返った。
顔を隠していたのでばれなかっただろうが、ぎょっとするくらいの勢いだった。
「えー、いきなりは、ダメだろう」
「そうですか。では、どうしましょうか? 不埒ものに相応しい罰を教えてください」
それぞれの視線が、領主の暴走を止めてくれと訴えていたので、意を決して発言すればすんなりと受け入れられた。
それどころか、お前が決めろとばかりに見つめられて、追い込まれていった。
「は? お、俺が決めるのかよ」
「決めてくださらないのでしたら、やはり去勢しますか」
「や、まてっ、そ、剃ろうっ、とりあえず、つるつるにしてやれ。見えないまま刃物を当てられたら、どれだけ怖いか思い知らせるんだ。毛は、一本残らず処理してだな」
ことあるごとに、俺が決めないなら去勢すると脅されて、軽い混乱状態のまま、適当に思い付いたことを口にし続けた。
「わかりました。では、すべてそのように」
一事が万事この様子で、なんだかよくわからないまま俺の案が採用され、処罰は決められていった。
誰も反対をしない謎会議によって、罪人への刑罰がどんどん決められていき、最終的に出された常習犯の刑罰に関しては、領主提案の『去勢』で決定した。
この時には、さすがに数人のスタッフから意見が出て、罪人は去勢されたあと、モンスターの肉便器として再利用されることになっていた。
どうも前々から、興奮したモンスターのために、それ用の奴隷が欲しいという要望が出ていたようだった。
それも、スタッフ全員から。
曰く、モンスターに我慢させるなんて可哀想、なんだそうだ。
テイマーのモンスター愛を知った瞬間だった。
それにしても、できあがってみれば、とてつもなく大規模な壁穴屋で。
こんなになるとは思っていなかったので、とても驚いた。
なにせ、見つかった瞬間に即拘束、即処罰だ。
言い訳も誤魔化しも、する暇を一切与えられずに処分を受ける。
すべてが個室で行われるので、初犯で多少怖い思いをしながらつるつるにされても、懲りないやつは懲りずにまた手を出そうとする。
だから、二度目からは、見せしめのために人前で処罰を受けさせられる。
人前というか、その人たちに見られるだけでなく、罰を与えられるわけだけれど。
だが、常習犯の末路がモンスターの肉便器だということは、実は公開されていない。
特に素行が悪く、再犯部屋に何度か入れられていた男が、ある日突然、ぴたりと姿を見せなくなる。
そんな男が再犯部屋どころか、ディレーテの街中でも見かけなくなっても、誰も気にしない。
せいぜい、あの憎らしい男のケツ穴を、二度と犯してやれないのは残念だと、酒の肴にされるくらいだ。
顔を見せなくなったところで、その素行の悪さから、あくまでも、壁穴屋を出入り禁止になったか、ディレーテの街から追放されたのだろうくらいにしか思われないのだ。
再犯の罪人を犯し放題な部屋のように、肉便器になった罪人が、二度と誰かの目に触れることはないからだろう、そんな憶測が飛び交うようになった。
きっと、もっとひどい罰を受けて、追い出されたのだろうだとか、もしかしたら、モンスターに犯されているのかも、なんて面白おかしく話のネタにされるだけ。
自分が口にしている噂話が、真実だなんてことは、誰も知らない。
それでも、正しく壁穴屋で遊ぶものは、はしご穴を楽しみ、時折開かれる断罪部屋で罪人を犯す。
入れ替わりの激しい迷宮の街ディレーテだからこそ、会わなくなったものの顔など容易く忘れる。
世の中なんて、そんなものだ。
ただの壁穴屋で、何故こんなにも簡単に処分が下されるのかと言えば、簡単な話だ。
大きくそびえる街壁に囲まれたディレーテの街、その地下すべてに広がるこの壁穴屋は、ただの壁穴屋ではない。
大規模壁穴遊戯場ディレーテ。
街の名前を冠したこの店こそ、領主が一から設立し、直属の部下が管理している壁穴屋なのだ。
表立って店名を名乗ることはないからか、よほどうまく隠されているからなのか、その名を知るものはほんの僅かしかおらず、店の設立に領主が関わっていることさえあまり知られてはいない。
その僅かに、俺が入っていることを喜ぶべきか、悩むところなのではあるが。
もとより、ここが上の酒場と違う名前がついている壁穴屋だということを、認識している客はいないだろう。
普通の街では、あの酒場この酒場と客は酒場を基準に話をするし、表立って言うものでもないのでわざわざ壁穴屋に名前をつける店主もいない。
この街のように壁穴屋がひとつしかない場所など、他にはないのだ。
実際に領主が店に立つことなどありはしないが、領主が選んだ部下により店の隅々にまで領主の方針が行き渡っている。
例えば、犯罪を許さない、は基本なのだが、売り手を傷つけるものは絶対に許さない、なんてわざわざ別項目で宣言するほど、売り手を手厚く保護している。
店のスタッフや教会の神父は、領主から断罪資格を与えられている。
領主の代理として、罪人に与える刑罰をその場で下せる特別な資格だ。
なろうと思えば裁判官にもなれるような優秀な人材も、ここでは全員が同じ資格を持っているので、ただのスタッフでしかない。
そんな資格を与えているのも、捕らえた罪人を速やかに処刑するためなのだとか。
実際に経営しているのは領主直属の部下なので、そのあたりの裏事情やらなんやらについては徹底して隠されているようだ。
常習犯用の部屋は、教会によって管理されている更正施設だと思われているし、信者も住人も独占するために外から来る人間には教えようとはしない。
見た目にはただの教会でしかないので、ふらりと立ち寄れるような場所ではない。
ましてや処刑される罪人は二度と外に出てはこないため、そこでの出来事を吹聴するものもいない。
それなら、なんで俺がそんなことを知っているのかと言えば、この店を作る際に関わらされたからだ。
ただその時の話では、迷宮近くの大都市として、犯罪率を下げるために気を付けておくべきことが知りたいという話だったはずなのだが。
「売り手に刃物? 二度と来れないように、去勢しろ」
何故か同席させられた開店前のスタッフ会議で、店主である領主は一切表情を変えることなく言ってのけた。
一瞬、世界が止まったかと思うくらいのひどい静寂が訪れた。
だって、刃物を向けただけで去勢って、さすがにやりすぎだろう?
たぶん、全員がそう思っていたはずなのに、スタッフは一言も口にせず、領主の向かい側に座らされた俺を一斉に振り返った。
顔を隠していたのでばれなかっただろうが、ぎょっとするくらいの勢いだった。
「えー、いきなりは、ダメだろう」
「そうですか。では、どうしましょうか? 不埒ものに相応しい罰を教えてください」
それぞれの視線が、領主の暴走を止めてくれと訴えていたので、意を決して発言すればすんなりと受け入れられた。
それどころか、お前が決めろとばかりに見つめられて、追い込まれていった。
「は? お、俺が決めるのかよ」
「決めてくださらないのでしたら、やはり去勢しますか」
「や、まてっ、そ、剃ろうっ、とりあえず、つるつるにしてやれ。見えないまま刃物を当てられたら、どれだけ怖いか思い知らせるんだ。毛は、一本残らず処理してだな」
ことあるごとに、俺が決めないなら去勢すると脅されて、軽い混乱状態のまま、適当に思い付いたことを口にし続けた。
「わかりました。では、すべてそのように」
一事が万事この様子で、なんだかよくわからないまま俺の案が採用され、処罰は決められていった。
誰も反対をしない謎会議によって、罪人への刑罰がどんどん決められていき、最終的に出された常習犯の刑罰に関しては、領主提案の『去勢』で決定した。
この時には、さすがに数人のスタッフから意見が出て、罪人は去勢されたあと、モンスターの肉便器として再利用されることになっていた。
どうも前々から、興奮したモンスターのために、それ用の奴隷が欲しいという要望が出ていたようだった。
それも、スタッフ全員から。
曰く、モンスターに我慢させるなんて可哀想、なんだそうだ。
テイマーのモンスター愛を知った瞬間だった。
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