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エルデラの街
エルデラの街 4
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魔力を撒き餌に、土竜を地中から誘き出す。
しっかりと瀕死にまで追い込んで、念のため槍で固定してから彼らに攻撃させた。
動けない上にでかい土竜は、どこでも槍で刺し放題だ。
狙うべき場所や、取れる素材について話しながら、次々処理していく。
何匹かは彼らが止めを刺し、しっかりと討伐数を稼いでいた。
気付けば、俺たちのまわりには、おこぼれを狙う冒険者がたくさん集まってきていた。
「そろそろ休憩にするか」
土竜に止めを刺した槍を肩に担ぎ、ふらふらになっている三人に声をかける。
始めのうちは、休憩することを嫌がっていた三人も、これだけの土竜と戦ったあとでは素直に頷いてくれるようになった。
もしかして、少しやりすぎただろうか。
「…………ぅ、ん」
もう声も出せないくらい疲弊したエリザベスを抱え、意地で歩こうとしているマルコに槍を持たせて掬い上げる。
左右の腕に子どもを乗せ、あの大きな木の下を目指した。
ユリウスは、槍を杖の代わりにしながら、俺の後をついてくる。
残された冒険者たちは、文句を言うことなく、また方々へと散っていった。
「ほら、水を飲め。ゆっくりだぞ。焦ると噎せるから、気を付けろよ」
「ぁ……ぉ」
「礼は後だ。そうだな。エリーが回復したら、この水袋に水を補充してくれるか?」
こくんと頷いたエリザベスを、膝の上に乗せたまま世話をやいてやる。
まあ、本当なら、このくらいの子どもがいたっておかしくない歳なんだよな。
結婚したいなんて、思ったこともないけど。
「オっちゃん、おとうさんみたい」
俺に寄りかかったまま、ほうっとため息をついたエリザベスがぽつりと呟いた。
「そうか、お父さんか。まあ、エリーみたいな可愛い娘だったら大歓迎だよ」
「えへへ、エリー、かわいい?」
「ああ、エリーは可愛いよ」
ぎゅうっと抱き付かれて、ゆっくりと頭を撫でてやる。
それから、隣に座っていたマルコとユリウスの頭も、しっかり撫でてやった。
「お前らみたいな息子もな」
「お、おれも、オっちゃんみたいな、とうちゃんなら、いてもいいぜ」
「……とうさん」
「一気に三人の子持ちか。こりゃ、ますます稼がねぇといけねぇな」
別に他意はない。
たぶん、この長閑な雰囲気にあてられたんだろう。
するっと口を出た言葉と行動に、自分でも驚きながら、この後のことを考えた。
エルデラの街には、遊びに来ただけだ。
いつかは、ここを離れなくてはならない。
それもそんなに遠くない日に。
その時、俺はこの三人を、この街に残して帰れるのだろうか、と。
◆◆◆
土竜を二十匹倒した。
エリザベスくらいの小さな土竜から、牛と同じくらいのでかい土竜まで、すべてを解体するのは大変なのでまわりにいた冒険者を雇ってやらせる。
このあと、ギルドが買い付けにくる素材の代金から支払う契約だ。
荷車を持ち込んでいる冒険者がいたので、それは先払いで借り上げてやった。
そいつは、討伐協力数は稼げたものの、仕留められた土竜は一匹だったという。
その分も、一緒に運ぶことを約束したら、乗ってきたので契約した。
嬉しいことに、一番でかい土竜からは小さいが魔石まで採れた。
俺の手のひらに乗ったエリザベスの小指の爪くらいしかない小さな魔石を、子どもたちが興味深そうにのぞきこむ。
「ちっちゃいけど、きらきらしてて、きれいだね」
「これが、魔石」
「魔石って、すげーの?」
「これは、金が欲しいなら高く売れるから売ってもいい。もしくは、エリーの役に立つだろうから残してもいいぞ」
「エリーにだけ?」
「魔法使いにしか、出来ない使い方があるんだ。あとで、教えてやるよ」
「なら、残したい! けどさ、それオっさんのだろ?」
「そうだよ。オっさんが仕留めた土竜から出たやつだよね」
「俺はいいんだ。魔法使いでもないしな。ただ、これはまだ俺が預かっておくからな」
周辺から向けられる目には、いくつか冷たいものが混じっていた。
このまま、目の前で彼らに渡したりしたら、それこそ生きては帰れなくなるだろう。
今ここにいる冒険者は、そんな間違いは起こしたりしないだろうが、底抜けの馬鹿が混じっている可能性はどこにでもある。
少なくとも、色々と確認してから動くとしよう。
土竜を一撃で倒した俺を見て、それでもかかってくるというなら、それなりに対処するしかないからな。
「わかった!」
三人から魔石を預かったところで、ギルド職員の乗った馬車が到着するのが見えた。
早速、鑑定士を連れて、素材の買い付けにきたんだろう。
「ユリウス、マルコ、ちょっとエリーと三人でここにいてくれ。何かあったら、大声で俺を呼べ、いいな?」
「うん、わかった!」
木の根元に座らせたエリザベスの横に、マルコが番犬よろしく立ち上がった。
俺は小さくユリウスに声をかけ、到着した馬車から降りてくる職員をチェックさせる。
「ユリウス、お前らを登録した職員は、あの中にいるか?」
「……たぶん、いない。すごく大きい人だったから」
「そうか。なら、ここは任せるぞ」
「うん、いってらっしゃい」
解体していた冒険者に、話しかけようとしているギルド職員に向かって急いだ。
しっかりと瀕死にまで追い込んで、念のため槍で固定してから彼らに攻撃させた。
動けない上にでかい土竜は、どこでも槍で刺し放題だ。
狙うべき場所や、取れる素材について話しながら、次々処理していく。
何匹かは彼らが止めを刺し、しっかりと討伐数を稼いでいた。
気付けば、俺たちのまわりには、おこぼれを狙う冒険者がたくさん集まってきていた。
「そろそろ休憩にするか」
土竜に止めを刺した槍を肩に担ぎ、ふらふらになっている三人に声をかける。
始めのうちは、休憩することを嫌がっていた三人も、これだけの土竜と戦ったあとでは素直に頷いてくれるようになった。
もしかして、少しやりすぎただろうか。
「…………ぅ、ん」
もう声も出せないくらい疲弊したエリザベスを抱え、意地で歩こうとしているマルコに槍を持たせて掬い上げる。
左右の腕に子どもを乗せ、あの大きな木の下を目指した。
ユリウスは、槍を杖の代わりにしながら、俺の後をついてくる。
残された冒険者たちは、文句を言うことなく、また方々へと散っていった。
「ほら、水を飲め。ゆっくりだぞ。焦ると噎せるから、気を付けろよ」
「ぁ……ぉ」
「礼は後だ。そうだな。エリーが回復したら、この水袋に水を補充してくれるか?」
こくんと頷いたエリザベスを、膝の上に乗せたまま世話をやいてやる。
まあ、本当なら、このくらいの子どもがいたっておかしくない歳なんだよな。
結婚したいなんて、思ったこともないけど。
「オっちゃん、おとうさんみたい」
俺に寄りかかったまま、ほうっとため息をついたエリザベスがぽつりと呟いた。
「そうか、お父さんか。まあ、エリーみたいな可愛い娘だったら大歓迎だよ」
「えへへ、エリー、かわいい?」
「ああ、エリーは可愛いよ」
ぎゅうっと抱き付かれて、ゆっくりと頭を撫でてやる。
それから、隣に座っていたマルコとユリウスの頭も、しっかり撫でてやった。
「お前らみたいな息子もな」
「お、おれも、オっちゃんみたいな、とうちゃんなら、いてもいいぜ」
「……とうさん」
「一気に三人の子持ちか。こりゃ、ますます稼がねぇといけねぇな」
別に他意はない。
たぶん、この長閑な雰囲気にあてられたんだろう。
するっと口を出た言葉と行動に、自分でも驚きながら、この後のことを考えた。
エルデラの街には、遊びに来ただけだ。
いつかは、ここを離れなくてはならない。
それもそんなに遠くない日に。
その時、俺はこの三人を、この街に残して帰れるのだろうか、と。
◆◆◆
土竜を二十匹倒した。
エリザベスくらいの小さな土竜から、牛と同じくらいのでかい土竜まで、すべてを解体するのは大変なのでまわりにいた冒険者を雇ってやらせる。
このあと、ギルドが買い付けにくる素材の代金から支払う契約だ。
荷車を持ち込んでいる冒険者がいたので、それは先払いで借り上げてやった。
そいつは、討伐協力数は稼げたものの、仕留められた土竜は一匹だったという。
その分も、一緒に運ぶことを約束したら、乗ってきたので契約した。
嬉しいことに、一番でかい土竜からは小さいが魔石まで採れた。
俺の手のひらに乗ったエリザベスの小指の爪くらいしかない小さな魔石を、子どもたちが興味深そうにのぞきこむ。
「ちっちゃいけど、きらきらしてて、きれいだね」
「これが、魔石」
「魔石って、すげーの?」
「これは、金が欲しいなら高く売れるから売ってもいい。もしくは、エリーの役に立つだろうから残してもいいぞ」
「エリーにだけ?」
「魔法使いにしか、出来ない使い方があるんだ。あとで、教えてやるよ」
「なら、残したい! けどさ、それオっさんのだろ?」
「そうだよ。オっさんが仕留めた土竜から出たやつだよね」
「俺はいいんだ。魔法使いでもないしな。ただ、これはまだ俺が預かっておくからな」
周辺から向けられる目には、いくつか冷たいものが混じっていた。
このまま、目の前で彼らに渡したりしたら、それこそ生きては帰れなくなるだろう。
今ここにいる冒険者は、そんな間違いは起こしたりしないだろうが、底抜けの馬鹿が混じっている可能性はどこにでもある。
少なくとも、色々と確認してから動くとしよう。
土竜を一撃で倒した俺を見て、それでもかかってくるというなら、それなりに対処するしかないからな。
「わかった!」
三人から魔石を預かったところで、ギルド職員の乗った馬車が到着するのが見えた。
早速、鑑定士を連れて、素材の買い付けにきたんだろう。
「ユリウス、マルコ、ちょっとエリーと三人でここにいてくれ。何かあったら、大声で俺を呼べ、いいな?」
「うん、わかった!」
木の根元に座らせたエリザベスの横に、マルコが番犬よろしく立ち上がった。
俺は小さくユリウスに声をかけ、到着した馬車から降りてくる職員をチェックさせる。
「ユリウス、お前らを登録した職員は、あの中にいるか?」
「……たぶん、いない。すごく大きい人だったから」
「そうか。なら、ここは任せるぞ」
「うん、いってらっしゃい」
解体していた冒険者に、話しかけようとしているギルド職員に向かって急いだ。
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