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エルデラの街
エルデラの街 3
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農地の端、大きな木の下で作戦会議という名の食事会にする。
このくらい大きな木の下なら、がっしりとした太い根のおかげで、もし土竜が来たとしても安全だ。
まずは、空腹にふらつく三人を、少しでも癒してやるところから始めなければならなかった。
当然のことながら、彼らはひとかけらの食料すら、持ち合わせていなかった。
「いいか、もしこれが久しぶりの飯なら、この干し肉はしばらくは口の中に入れて噛むだけにしろ。これから水もやるが、ちゃんとやわらかくなるまでは飲み込むなよ。喉に詰まらせたり、胃袋がびっくりして吐き出すことになるからな。火が使えるなら、スープにしてやるんだが、今はそこまで出来ないから、よく注意して食べろ」
「う、うん。わかった」
「きをつけるよ」
「ありがとう」
干し肉を削いで、少しずつ渡す。
水は、水袋をまわし飲みだ。
二人の少年は、当然のようにどちらも最初に少女を優先した。
「ありがとう、ユリにぃ、マルにぃ。オっちゃんも、ありがとう」
「いいから、食べろ。いいか、ゆっくりだぞ?」
「うん」
もぐもぐとやり始めた三人を見ながら、作戦を考える。
弓を背負っていた少年、ユリにぃことユリウスは弓使い。
ショートソードをぶら下げた少年、マルにぃことマルコは剣士。
そして、一番幼い魔法使いの少女は、エリーことエリザベス。
そして俺は、エリーからオっちゃん、ユリウスもマルコからはオっさんと呼ばれることになった。
まあ、俺の名前はちょっと発音が難しいから仕方がない。
どうせ、おっさんだし、今さら気にすることでもない。
三人のパーティーは、バランスとして考えたら、あと回復役さえいたら大概の依頼はこなせるようになるだろう。
残念ながら、彼らは若すぎたが。
なんと、成人していたのはユリウスだけで、あとの二人はまだ未成年だった。
成人まであと一年のマルコについては、まだ目をつぶってやってもいい。
だが、十二のエリザベスまで、正式な冒険者として登録されていた。
話を聞けば、担当したギルド職員から、三人分の支度金と引き換えにするなら、三人とも正式な冒険者として登録してやると言われたらしい。
確かに、正式な冒険者と、準登録である冒険者見習いでは待遇が違う。
冒険者見習いでは、街の外に行くような依頼は受けられないから今回のような強制依頼からは外されるし、受けられる依頼は街中限定の子どもでも出来る手伝い程度。
もらえる報酬なんて僅かなもんだ。
もし、エリザベスだけが冒険者見習いとして街に残るとなれば、こうして二人と一緒にはいられなかった。
たぶん、エリザベスは汚れを落とせば、亜麻色の髪に青みがかった灰色の瞳をした美しい少女のはずだ。
見る人間が見れば、この汚れた状態でもそれはわかることだろう。
一人にした途端に、さらわれて奴隷として売られてもおかしくない。
そんなエリザベスを、この二人は一人にすることは出来ないと思ったんだろう。
どうしても三人でいたかったから、そんな無茶な条件でも頷くしかなかったのか。
なんて、ひどい真似をしやがる。
故意に説明をしなかったどころじゃない。
そいつは、この子らを食い物にしやがったんだ。
冒険者登録が出来るのは、十五歳の成人したもののみと決められている。
それは、すべて子どもを使い潰さないために、冒険者ギルドの創立者が決めたれっきとしたギルドのルールだ。
それを破るなんて、そいつにギルド職員を名乗る資格はない。
このタイミングで、彼らを正式に冒険者として登録したのは、この依頼のあとならどうにでもなると思っていたからだろう。
普通に考えて、厄介な土竜退治に、この状態の三人が役に立つとは思えない。
基本的に気性が荒く、今まさに手柄をあげようと躍起になっている冒険者となんて、協力しあえるわけもない。
本当なら、もっと孤立して、何の成果もないまま帰ることになっただろう。
登録を消されたくなければとおどして、金を巻き上げるか、壁穴屋を使って体を売らせるか、もしくはどこかに売り付けるか。
きっと、その職員はろくでもないことを考えていたはずだ。
エリザベスは、そいつのことを『こわいおじさん』と言っていたので、勘のようなものが働いているのかもしれない。
昔から、エリザベスはそうだった、と二人は口を揃えていっていた。
だから、彼らはこの農地に来た時から、エリザベスの勘を信じて、俺のそばにいたらしい。
ソロだし、エリザベスが怖くないならと、最初からずっと近くにいたのだ。
そういう意味では、俺は最初から無害認定されてたわけだな。
「他の人は、近くにいるだけで怒ったり、怖い顔をするから」
一応、他にも怖くないやつはいただろうと聞いたら、そう返事が返ってきた。
それもそうだな、と納得する。
やる気のない俺はともかく、やる気に満ちたやつらからすれば、この子たちは邪魔になるだろう。
「そうか」
「オっちゃんはね、さいしょから、やさしいかおだったよ」
最初から優しい顔、ね。
まさか、ケツ穴をどうやって拡げてもらうか考えてる時も、見てたんだろうか。
優しいっていうか、エロいこと考えてゆるんでる顔だったかもしれない。
今回はセーフだったみたいだが、子どもにあまり卑猥な顔を見せるわけにはいかないから、気を付けないといけないな。
少し気を引き締めておこう。
「まあ、いい。土竜退治は、俺の指示通りに動け。手を抜くつもりだったが、ここのギルドには、言いたいことが出来た。手柄をあげて、ギルマスんとこ乗り込んでやる」
「え、でも、そんなことしたら、おれたち」
「いいか、冒険者ってのは楽な仕事じゃない。未成年が、準登録って形で冒険者見習いになるのは、冒険者に必要な勉強をするためだ。それにな? 稼ぎが少ないと思うかもしれないが、見習いへの依頼は、冒険者になるための必要な知識を得られるものばっかりなんだ。教えてもらいながら、お金がもらえると思えば少しは我慢できるだろう?」
らしくもなく語り、子どもたちを諭した。
何十年も前の自分を重ねていたのかもしれない。
あの時、こんな大人に会えてたら。
あの時、まともな大人がそばにいたら。
そんなもしもが起こっていたら、俺は今の俺ではなかった、かもしれない。
彼らを救うためというよりも、過去の自分を救うために、俺は動いているようなものだった。
「だから、な。焦らなくていい。ゆっくり大人になれ。しばらくは、俺が面倒を見てやるから」
「あ、ありがとう、オっちゃん!」
三人の顔が、ぎこちなくも無邪気な笑顔を浮かべる。
それが、俺の心を満たしていく。
まるで遠い日の俺が、笑ったような気がした。
このくらい大きな木の下なら、がっしりとした太い根のおかげで、もし土竜が来たとしても安全だ。
まずは、空腹にふらつく三人を、少しでも癒してやるところから始めなければならなかった。
当然のことながら、彼らはひとかけらの食料すら、持ち合わせていなかった。
「いいか、もしこれが久しぶりの飯なら、この干し肉はしばらくは口の中に入れて噛むだけにしろ。これから水もやるが、ちゃんとやわらかくなるまでは飲み込むなよ。喉に詰まらせたり、胃袋がびっくりして吐き出すことになるからな。火が使えるなら、スープにしてやるんだが、今はそこまで出来ないから、よく注意して食べろ」
「う、うん。わかった」
「きをつけるよ」
「ありがとう」
干し肉を削いで、少しずつ渡す。
水は、水袋をまわし飲みだ。
二人の少年は、当然のようにどちらも最初に少女を優先した。
「ありがとう、ユリにぃ、マルにぃ。オっちゃんも、ありがとう」
「いいから、食べろ。いいか、ゆっくりだぞ?」
「うん」
もぐもぐとやり始めた三人を見ながら、作戦を考える。
弓を背負っていた少年、ユリにぃことユリウスは弓使い。
ショートソードをぶら下げた少年、マルにぃことマルコは剣士。
そして、一番幼い魔法使いの少女は、エリーことエリザベス。
そして俺は、エリーからオっちゃん、ユリウスもマルコからはオっさんと呼ばれることになった。
まあ、俺の名前はちょっと発音が難しいから仕方がない。
どうせ、おっさんだし、今さら気にすることでもない。
三人のパーティーは、バランスとして考えたら、あと回復役さえいたら大概の依頼はこなせるようになるだろう。
残念ながら、彼らは若すぎたが。
なんと、成人していたのはユリウスだけで、あとの二人はまだ未成年だった。
成人まであと一年のマルコについては、まだ目をつぶってやってもいい。
だが、十二のエリザベスまで、正式な冒険者として登録されていた。
話を聞けば、担当したギルド職員から、三人分の支度金と引き換えにするなら、三人とも正式な冒険者として登録してやると言われたらしい。
確かに、正式な冒険者と、準登録である冒険者見習いでは待遇が違う。
冒険者見習いでは、街の外に行くような依頼は受けられないから今回のような強制依頼からは外されるし、受けられる依頼は街中限定の子どもでも出来る手伝い程度。
もらえる報酬なんて僅かなもんだ。
もし、エリザベスだけが冒険者見習いとして街に残るとなれば、こうして二人と一緒にはいられなかった。
たぶん、エリザベスは汚れを落とせば、亜麻色の髪に青みがかった灰色の瞳をした美しい少女のはずだ。
見る人間が見れば、この汚れた状態でもそれはわかることだろう。
一人にした途端に、さらわれて奴隷として売られてもおかしくない。
そんなエリザベスを、この二人は一人にすることは出来ないと思ったんだろう。
どうしても三人でいたかったから、そんな無茶な条件でも頷くしかなかったのか。
なんて、ひどい真似をしやがる。
故意に説明をしなかったどころじゃない。
そいつは、この子らを食い物にしやがったんだ。
冒険者登録が出来るのは、十五歳の成人したもののみと決められている。
それは、すべて子どもを使い潰さないために、冒険者ギルドの創立者が決めたれっきとしたギルドのルールだ。
それを破るなんて、そいつにギルド職員を名乗る資格はない。
このタイミングで、彼らを正式に冒険者として登録したのは、この依頼のあとならどうにでもなると思っていたからだろう。
普通に考えて、厄介な土竜退治に、この状態の三人が役に立つとは思えない。
基本的に気性が荒く、今まさに手柄をあげようと躍起になっている冒険者となんて、協力しあえるわけもない。
本当なら、もっと孤立して、何の成果もないまま帰ることになっただろう。
登録を消されたくなければとおどして、金を巻き上げるか、壁穴屋を使って体を売らせるか、もしくはどこかに売り付けるか。
きっと、その職員はろくでもないことを考えていたはずだ。
エリザベスは、そいつのことを『こわいおじさん』と言っていたので、勘のようなものが働いているのかもしれない。
昔から、エリザベスはそうだった、と二人は口を揃えていっていた。
だから、彼らはこの農地に来た時から、エリザベスの勘を信じて、俺のそばにいたらしい。
ソロだし、エリザベスが怖くないならと、最初からずっと近くにいたのだ。
そういう意味では、俺は最初から無害認定されてたわけだな。
「他の人は、近くにいるだけで怒ったり、怖い顔をするから」
一応、他にも怖くないやつはいただろうと聞いたら、そう返事が返ってきた。
それもそうだな、と納得する。
やる気のない俺はともかく、やる気に満ちたやつらからすれば、この子たちは邪魔になるだろう。
「そうか」
「オっちゃんはね、さいしょから、やさしいかおだったよ」
最初から優しい顔、ね。
まさか、ケツ穴をどうやって拡げてもらうか考えてる時も、見てたんだろうか。
優しいっていうか、エロいこと考えてゆるんでる顔だったかもしれない。
今回はセーフだったみたいだが、子どもにあまり卑猥な顔を見せるわけにはいかないから、気を付けないといけないな。
少し気を引き締めておこう。
「まあ、いい。土竜退治は、俺の指示通りに動け。手を抜くつもりだったが、ここのギルドには、言いたいことが出来た。手柄をあげて、ギルマスんとこ乗り込んでやる」
「え、でも、そんなことしたら、おれたち」
「いいか、冒険者ってのは楽な仕事じゃない。未成年が、準登録って形で冒険者見習いになるのは、冒険者に必要な勉強をするためだ。それにな? 稼ぎが少ないと思うかもしれないが、見習いへの依頼は、冒険者になるための必要な知識を得られるものばっかりなんだ。教えてもらいながら、お金がもらえると思えば少しは我慢できるだろう?」
らしくもなく語り、子どもたちを諭した。
何十年も前の自分を重ねていたのかもしれない。
あの時、こんな大人に会えてたら。
あの時、まともな大人がそばにいたら。
そんなもしもが起こっていたら、俺は今の俺ではなかった、かもしれない。
彼らを救うためというよりも、過去の自分を救うために、俺は動いているようなものだった。
「だから、な。焦らなくていい。ゆっくり大人になれ。しばらくは、俺が面倒を見てやるから」
「あ、ありがとう、オっちゃん!」
三人の顔が、ぎこちなくも無邪気な笑顔を浮かべる。
それが、俺の心を満たしていく。
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