壁穴屋

うしお

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ノービルの街

ノービルの街 2

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街が闇に沈む頃、俺は再び酒場まで戻ってきていた。
誰も見ていないことを確認して、酒場の裏手にまわる。
酒場でもらった鍵を使って、地下へと続く扉を開く。
不気味なほど静まり返った階段をゆっくりと降りていくと、次第にざわめきが近付いてくる。

「来たか」

最後の扉の前に居たのは、酒場の店主だ。
差し出された仮面を受け取って、身につける。
額から鼻まで覆い隠すタイプの仮面で、顔が半分以上隠れた。

「これまで、黒輪を使ったことはあるか?」

「ああ、ある」

「なら、説明はいらないな。部屋は一番奥だ。朝まで好きに使ってくれ」

「わかった」

「あんたが帰ってから、もう新顔が出ると噂になっていた。朝まで休むヒマはないかもしれん」

「……望むところだ」

「頼もしい言葉だな」

「あんたからでもかまわんが?」

「遠慮しておくよ。おれは、かみさんが怖い」

「そうかい」

くくっと喉の奥で笑って、肩を竦めた店主と別れた。
しばらくは通うことになるだろうから、不要なトラブルは避けたい。
それに、乗り気でないやつに声をかけるのは、時間の無駄だ。

部屋は全部で五つあった。
廊下を挟んで左右に二つと、突き当たりに一つ。
左右の部屋からは、すでに楽しんでいる獣たちの声が響いてくる。
その声には、抑えきれない激しさが滲み出ていて、これは期待以上かもしれないと胸が高鳴った。
激しい獣たちの輪唱を聞きながら、一番奥と言われた突き当たりの部屋に入る。
中に入って五歩で、三つの穴があいた『壁』と開き戸にぶち当たる。
黒く縁取られた大きな穴の向こうには、もう一つの扉が見えていた。
壁の向こうは、かなりの広さがある。
これほど広ければ、一度に何人か入ってきても余裕だろう。
椅子と机が用意されているのを見て、これから起きることを思わず想像した。

手前の水場で念入りに洗い、たっぷりと油を仕込んで準備を済ませ、一部が穴の壁となっている開き戸を押し開ける。
壁の穴には、なめした革で出来た鞍のようなものが置かれていて、試しに俯せで抱きついてみると、固そうに見えたそれがやわらかく体を受け止めてくれた。
仰向けになってみたが、難なく体にフィットする。

「へえ、おもしろいな」

どちらにするか悩んだが、やはり最初は俯せがいいだろう。
俺は全裸の体を穴へ嵌め込むと、真横の開き戸を閉めた。
簡単な閂のようなもので、固定する。
これで、足のある方から見れば、男のケツが生えた壁の完成だ。
目の前にぶら下がっている紐を引けば、後ろの扉からケツ穴でもいいから犯したい盛った獣たちがやってくる。
待ちに待ったお楽しみの始まりだ。

◆◆◆

きんきんと金属同士を打ち合わせる音が、酒気に満ちた酒場に響いた。
この店では、地下の部屋ごとに鳴る音が違うから、すぐにそれが滅多に鳴らない『奥』の部屋のものであると誰もが気付いていた。
『奥』の部屋は、一度に三人まで入れる規格外用の部屋だ。
一対一では足りなくなった淫乱が、いまこの店の地下にいることを示している。

奥の扉のすぐ前に陣取っていた三人組の若者の一人が、にやにや笑いながら言う。

「誰から行く?」

「誰からって、お前はバカか?」

「バカか、だと? 誰に向かって言ってんだ」

「お前だよ、お前」

「んだとッ!」

「はいはい、ケンカすンなって。奥の部屋なんだから、みんなで行きゃいいンだよ」

「ああ、そっか」

三人は笑いあって、机の上に銀貨を置くと奥の扉へと消えていった。
残された他の客は、男たちが出てくるのを静かに待つことにしたようだった。
店の中には、あと十二人。
三人ずつでも、あと四回はあの部屋の扉が開かれるだろう。
果たして、朝までに終わるのだろうか、と店主は誰も居なくなった机から金を回収し、溢れたエールを拭きながら思った。
街の夜は、まだ始まったばかりだった。

◆◆◆

階段を降りてくる足音が、後ろから近付いてきていた。
その音は、明らかに一人分ではない、二人、いや三人か。
耳をすませていると、後ろの扉がやや乱暴に開かれた。

「おお、絶景ッ!」

「いいケツだな」

「穴は、よく使い込ンでるみたいだねぇ」

扉が開くと同時に、男たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
そのうちの一人に聞き覚えがあった。
店の前で声をかけてきた若い男のものだった。

「縁があったみたいだね。会いに来たよ、ニイさん。店ン中で会えたンだ。オレと遊んでくれンだろ?」

「あぅンッ」

挨拶代わりに素っ裸の右ケツをぱちんっと叩かれ、俺のちんぽからたらりと蜜がこぼれ落ちた。

「へえ、ニイさん、叩かれて悦ぶなんて相当な好きモンだね。ほら、お前たちも挨拶してやンなよ」

「おう、おれはトマだ。よろしくなッ!」

「ひぃンッ」

ばちんっと右のケツが大きな音を立てた。
じんじんと叩かれたところが、すぐに熱を持ち始める。

「バランスよくやってやれよ。俺は、ニキだ」

「ひっ、ぐぅンッ」

ばちばちんっと連続して左のケツを叩かれた。
叩かれたショックで、ケツ穴からぴゅっと仕込んでおいた油をこぼしてしまった。
とろりとタマからサオに油が垂れる。
左右のケツは、どちらもじんじんと熱を持って疼いていた。
どうやら、最初から大当たりを引けたようだ。
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