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第13弾『まずは、ひとくち』
第13弾『まずは、ひとくち』1
しおりを挟む「よい、しょっ」
馬房に敷き詰められている寝藁から馬糞を回収し、汚れた寝藁も一緒にそれ専用の手押し車へとのせる。
それから、無事だった寝藁をしっかりと端に寄せ、空っぽになったところからブラシをかけて綺麗にしていく。
この馬房の主であるネイシェル様の愛馬シルティオは、その名の通りシルクのような手触りの毛並みが美しい白馬である。
誰もが美しいと褒めるからなのか、本馬も満更ではないようで、美しい毛並みが汚れることをものすごく嫌う。
毎日しっかり馬房を綺麗にしておかないと、機嫌が斜めになってしまうくらいだ。
戦場ではどれだけ泥だらけになっても怒らないくせに、馬房については少しでも汚れていると入ってもくれなくなるのだから困る。
もちろん、せっかく任せてもらった仕事で手を抜くなんてことはあり得ないから、この馬房を使う馬がシルティオじゃなくても、ぼくは同じように一生懸命ブラシをかけるだろうけれど。
「テオ! そいつが終わったら、休憩に行っていいぞ」
「はい!」
「それと、いつものやつ持っていっていいぞ」
「はいっ!」
厩長から声をかけられ、思わずにこにこしてしまう。
超特急で、けれど完璧に馬房の中を磨き上げ、綺麗になった馬房の中に新しい寝藁をたっぷりと敷き詰める。
こだわり屋のシルティオは、馬房の左奥で寝るのが好きだから、そこには他のところよりもほんの少しだけ多めに寝藁を盛りあげておいた。
最後に馬房の外から中を眺めて確認してから、汚れた寝藁とボロでいっぱいになった手押し車を廃棄場まで押していく。
廃棄場では、寝藁とボロはできるだけわけてふたつの山にする。
厩番として雇われているぼくの仕事はここまでだ。
あとで、これを専門に回収しにくる業者がいて、畑に撒く肥料へと加工してくれるらしい。
ボロは畑にとっていい肥料になるけれど、そのまま撒いちゃいけないんだそうだ。
「さて、休憩だ」
騎士団の厩舎で仕事していてよかったと思うのは、ごはんがおいしいことだと思う。
大きな食堂で作られるごはんは、騎士団に所属している騎士様はもちろん、まだ見習いの従士さんとか、ぼくたちみたいな関係者にも無料で提供されている。
さすがに、騎士様たちと同じメニューで、なんてことはないけれど、二個までおかわりできるパンとお皿いっぱいのシチューがもらえるだけで幸せだ。
作業着から普段着に着替えて、しっかりと手を洗う。
馬房の掃除や馬の世話をする厩番の人間は、その体に染み付いた臭いのせいで、遠巻きにされがちだ。
仕事が厩番だとわかると露骨に嫌な顔をされてしまうので、ごはんを受け取ってたらすぐに食堂の隅へ行く。
今日は、ネイシェル様がシルティオを連れて任務に向かわれたので、その準備をしていた分、いつもよりも休憩が遅くなってしまった。
同じ厩番をしている仲間たちは、もう食べ終えてしまったらしく食堂にはいない。
壁を背にして椅子に座り、あらかじめおかわりの分ももらってきたパンを手に取る。
「へへ、まだあったかいや」
昼時に合わせて焼かれるパンは、ほんの少しくらい時間が経ってもかなりおいしい。
パリパリだった外側は、時間が経ったことでほんの少ししっとりとしているものの、ふわふわでもちもちな内側は、しっとりすることでさらにもちもち度が上がり、噛んだときに感じる甘みが増す。
このパンを、肉と野菜のうま味が詰まったシチューと合わせて食べるのが、最高においしいのだ。
騎士様になると、このメニューの他にお肉の塊がつくというから、みんながこぞって騎士を目指したくなる気持ちも少しはわかる。
ぼくみたいに運動がかなり苦手な人間には難しいけれど、普通の人なら訓練次第で兵士になれるし、うまくいけば騎士様にだってなれるのだから。
シチューの中に隠れていたお肉の欠片を見つけて、今日のシチューは当たりだな、とこっそり喜ぶ。
「今日は、いいことがありそうだ」
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