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第7弾【同一イラスト+別ストーリー】
第7弾B『可愛いからこそいじめたい』
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「……お、おれさ、好きな人がいるんだ」
中身が半分くらい減ったジョッキを見つめたまま、真面目な顔をした三ツ峰豊がぽつりと呟く。
三ツ峰は、手にしたジョッキから一瞬たりとも目をそらさないぞとばかりに見つめていて、真っ正面に座る俺と目を合わせようともしない。
その顔は、ここ数年で一番と言っていいくらい真剣な顔だ。
正直不自然すぎるが、お前にもそんな顔ができたんだな、なんて茶化したりはしない。
こんなに真剣な顔を見るのは、たぶん入社直後の挨拶まわりで、技術畑の先輩方に挨拶をしていた時以来だろうか。
確か、営業部の先輩方にあいつらは気難しいから絶対失敗するなよ、なんて脅されたあと真っ青になった三ツ峰と工場に向かった時のはずだ。
緊張しすぎて噛み倒したのを面白がられて、いまじゃ三ツ峰は、おっさんたちのアイドルと化しているけれど。
まあ、工場に行く度にいろんなおっさんからお菓子をもらってにこにこしているのを見ると、アイドルってよりもペットって言葉の方が思い浮かぶんだけどな。
そういう意味じゃ、愛嬌のある顔を必死にきりっとさせている姿は見ていて面白い。
思うだけで、口にしたりはしないけれど。
それに、いつもへらへら笑っているような男だからって、茶化しちゃいけない話題の時くらいは黙って聞いてやるのが優しさだろうからな。
そして、それを聞いた俺、小鳥遊紘人といえば、お通しで出てきた枝豆を唇に当てたばかりだったので、そのまま中身の豆をぷちぷちと押し出していた。
元気よく口の中に飛び込んできた枝豆をもぐもぐと味わう。
うんうん、程よい塩加減に茹でられている。
「なっ、なあ、おれの話、聞いてるのかよ!」
程よい塩味に誘われて、そのまま次の枝豆に手をのばせば、ようやくジョッキから目を離したのだろう三ツ峰が、ほんのり涙目になりながら俺を見ている。
「……? 聞いてるよ」
「きっ、聞いてるなら、いいんだけど、さ……なんか、ほら、おれに言うこと、あったりしないのかなー、なんて……?」
最初の勢いはどこへやら。
少しずつしぼんでいく三ツ峰を、新しく押し出した枝豆を噛み砕きながら観察する。
目元が赤く色づいてるのは、たぶん酔ってるからじゃなくて、恥ずかしさを堪えているからだろうな、とか、俺から目をそらしてきょろきょろしはじめているのは気まずいんだろうな、とか、思いはするものの三ツ峰は見ていて飽きないから、沈黙だって苦にはならない。
「言いたいこと……? 別にないけど……?」
ゆっくりと味わいながら噛み砕いた枝豆をごくんと飲み込んだ。
ついでに、そのまま残り少なくなっていたジョッキを手繰り寄せて飲み干す。
キンキンに冷えた、とは言いがたいビールをしっかりと飲み込んでから、もう一度、半泣きになった三ツ峰の顔を見返した。
三ツ峰の顔は、いつの間にか、半泣きから七分泣きぐらいに変わっている。
本当にからかいがいのあるやつだ。
「ほ、本当に、ないのかよ……」
七分泣きから、さらに八分泣きに、いやもうこれは九分九厘泣きって、そこまでいったらただの泣き顔か。
さっきまできらきらしていた瞳から、いまにも涙がこぼれ落ちそうで、さすがにちょっとからかいすぎたかと反省する。
「まあまあ、話なら聞いてやるから、な? 機嫌なおせって。あ、ほら、お前に言うことを思いついたぞ」
「えっ、な、なんだよ、言いたいことって」
いまにもこぼれ落ちそうだった涙が、一瞬で引っ込んだ。
俺が三ツ峰をついついからかいたくなってしまうのは、こういうところなんだよなぁ。
「なんだよ、俺とお前の付き合いだぞ。言わなくてもわかるだろ?」
「そ、それって、もしかして……」
三ツ峰が期待するような目で俺を見ている。
自分でも自覚してるが、俺はかなり性格が悪い。
そんなことは三ツ峰だって、わかっているはずなのに、毎回毎回律儀にのってくれるんだから、本当にからかいがいのあるやつだ。
「そうだよ。三ツ峰、」
「う、うん」
ごくりと喉を鳴らす三ツ峰に、最上級の微笑みを向けてやれば、いまにも目をまわしてしまいそうなくらい顔を真っ赤に染めている。
どきどきしているだろう三ツ峰の心臓の音まで、聞こえてきてしまいそうだ。
「ビールのおかわりを頼む。そこのボタンを押してくれ」
「…………は、ぁ……?」
空になったジョッキを手に、期待から大きく外れた答えを返せば、期待で真っ赤に染まっていた顔は一瞬で怒りの赤に塗り替えられる。
「なんだよ、せっかく言いたいことを言ったのに、叶えてくれないのか?」
わなわなと怒りに震える三ツ峰に声をかければ、手にしていたジョッキを一気に傾け、残っていたビールを飲み干した。
半分くらいに減っていたとはいえ、なかなかの飲みっぷりだ。
「おれも、おかわりする!」
「おう、そうしろそうしろ」
俺はにんまりと笑いながら、ついでに焼き鳥の盛り合わせと焼おにぎりを追加した。
怒りがおさまらないのだろう三ツ峰は、ぷりぷりと怒りながらからあげと白飯を頼み、フライドポテトを追加する。
どうやら今日も、いつも通りの展開らしい。
◆◆◆
「たかなし~、おれはな~、たかなしのことが、好きなんだぞ~」
「はいはい、知ってるよ。入社した時からずっとなんだよな。一緒に挨拶まわりに行けて、嬉しかったって言ってたもんな」
「んへへへ……そ~、そ~なんだよ~、たかなしはさ~、めちゃくちゃカッコいいし、しごとできるし、カッコいいだろ~? も~、はじめて見たときから、ほんとに好きでさ~」
「はいはい、わかってるよ。俺も好きだからな」
もう何十回、何百回と聞かされている告白に、俺は三ツ峰の体を公園のベンチに座らせながら、何十回、何百回と繰り返している答えを返す。
「え~、たかなし、おれのこと好きなの~? ほんとに~?」
「本当だって、何回言わせるんだよ。ほら、もうそのくらいにしておけ、どうせ覚えていられないんだから」
「たかなしが~、おれのこと、好きなんだって~、おれ、すっごいしあわせだろ~」
「はいはい、しあわせ、しあわせ。お前が、明日まで覚えていられたら、だけどな」
隣に座った俺の腕に、ぐりんぐりんと頭を擦りつけて三ツ峰が笑う。
酔いざましに買った缶コーヒーを開けながら、少しずつ寝落ちていく三ツ峰を見守ってやる。
いまさら、急ぐつもりはない。
もうとっくに俺たちが両想いなのは把握済みだ。
「好きな人って誰だよ、って聞かれたいんだろうけどなぁ……結構前から知ってるんだよなぁ」
涙目になりながら、聞いて聞いてと訴えてくる三ツ峰の顔が可愛すぎて、からかわずにはいられない。
「でも、そろそろ危険だよな。いつまでも、お前の気持ちをはぐらかしてたら、横から誰かにかっさらわれてもおかしくないしな」
倒れてきた三ツ峰に、いつものように膝枕をしてやって、指先に少し癖のある前髪をくるりと巻きつけた。
「お前の次の誕生日、きっちり答えてやるからな。覚悟しろよ、逃がさないぜ?」
中身が半分くらい減ったジョッキを見つめたまま、真面目な顔をした三ツ峰豊がぽつりと呟く。
三ツ峰は、手にしたジョッキから一瞬たりとも目をそらさないぞとばかりに見つめていて、真っ正面に座る俺と目を合わせようともしない。
その顔は、ここ数年で一番と言っていいくらい真剣な顔だ。
正直不自然すぎるが、お前にもそんな顔ができたんだな、なんて茶化したりはしない。
こんなに真剣な顔を見るのは、たぶん入社直後の挨拶まわりで、技術畑の先輩方に挨拶をしていた時以来だろうか。
確か、営業部の先輩方にあいつらは気難しいから絶対失敗するなよ、なんて脅されたあと真っ青になった三ツ峰と工場に向かった時のはずだ。
緊張しすぎて噛み倒したのを面白がられて、いまじゃ三ツ峰は、おっさんたちのアイドルと化しているけれど。
まあ、工場に行く度にいろんなおっさんからお菓子をもらってにこにこしているのを見ると、アイドルってよりもペットって言葉の方が思い浮かぶんだけどな。
そういう意味じゃ、愛嬌のある顔を必死にきりっとさせている姿は見ていて面白い。
思うだけで、口にしたりはしないけれど。
それに、いつもへらへら笑っているような男だからって、茶化しちゃいけない話題の時くらいは黙って聞いてやるのが優しさだろうからな。
そして、それを聞いた俺、小鳥遊紘人といえば、お通しで出てきた枝豆を唇に当てたばかりだったので、そのまま中身の豆をぷちぷちと押し出していた。
元気よく口の中に飛び込んできた枝豆をもぐもぐと味わう。
うんうん、程よい塩加減に茹でられている。
「なっ、なあ、おれの話、聞いてるのかよ!」
程よい塩味に誘われて、そのまま次の枝豆に手をのばせば、ようやくジョッキから目を離したのだろう三ツ峰が、ほんのり涙目になりながら俺を見ている。
「……? 聞いてるよ」
「きっ、聞いてるなら、いいんだけど、さ……なんか、ほら、おれに言うこと、あったりしないのかなー、なんて……?」
最初の勢いはどこへやら。
少しずつしぼんでいく三ツ峰を、新しく押し出した枝豆を噛み砕きながら観察する。
目元が赤く色づいてるのは、たぶん酔ってるからじゃなくて、恥ずかしさを堪えているからだろうな、とか、俺から目をそらしてきょろきょろしはじめているのは気まずいんだろうな、とか、思いはするものの三ツ峰は見ていて飽きないから、沈黙だって苦にはならない。
「言いたいこと……? 別にないけど……?」
ゆっくりと味わいながら噛み砕いた枝豆をごくんと飲み込んだ。
ついでに、そのまま残り少なくなっていたジョッキを手繰り寄せて飲み干す。
キンキンに冷えた、とは言いがたいビールをしっかりと飲み込んでから、もう一度、半泣きになった三ツ峰の顔を見返した。
三ツ峰の顔は、いつの間にか、半泣きから七分泣きぐらいに変わっている。
本当にからかいがいのあるやつだ。
「ほ、本当に、ないのかよ……」
七分泣きから、さらに八分泣きに、いやもうこれは九分九厘泣きって、そこまでいったらただの泣き顔か。
さっきまできらきらしていた瞳から、いまにも涙がこぼれ落ちそうで、さすがにちょっとからかいすぎたかと反省する。
「まあまあ、話なら聞いてやるから、な? 機嫌なおせって。あ、ほら、お前に言うことを思いついたぞ」
「えっ、な、なんだよ、言いたいことって」
いまにもこぼれ落ちそうだった涙が、一瞬で引っ込んだ。
俺が三ツ峰をついついからかいたくなってしまうのは、こういうところなんだよなぁ。
「なんだよ、俺とお前の付き合いだぞ。言わなくてもわかるだろ?」
「そ、それって、もしかして……」
三ツ峰が期待するような目で俺を見ている。
自分でも自覚してるが、俺はかなり性格が悪い。
そんなことは三ツ峰だって、わかっているはずなのに、毎回毎回律儀にのってくれるんだから、本当にからかいがいのあるやつだ。
「そうだよ。三ツ峰、」
「う、うん」
ごくりと喉を鳴らす三ツ峰に、最上級の微笑みを向けてやれば、いまにも目をまわしてしまいそうなくらい顔を真っ赤に染めている。
どきどきしているだろう三ツ峰の心臓の音まで、聞こえてきてしまいそうだ。
「ビールのおかわりを頼む。そこのボタンを押してくれ」
「…………は、ぁ……?」
空になったジョッキを手に、期待から大きく外れた答えを返せば、期待で真っ赤に染まっていた顔は一瞬で怒りの赤に塗り替えられる。
「なんだよ、せっかく言いたいことを言ったのに、叶えてくれないのか?」
わなわなと怒りに震える三ツ峰に声をかければ、手にしていたジョッキを一気に傾け、残っていたビールを飲み干した。
半分くらいに減っていたとはいえ、なかなかの飲みっぷりだ。
「おれも、おかわりする!」
「おう、そうしろそうしろ」
俺はにんまりと笑いながら、ついでに焼き鳥の盛り合わせと焼おにぎりを追加した。
怒りがおさまらないのだろう三ツ峰は、ぷりぷりと怒りながらからあげと白飯を頼み、フライドポテトを追加する。
どうやら今日も、いつも通りの展開らしい。
◆◆◆
「たかなし~、おれはな~、たかなしのことが、好きなんだぞ~」
「はいはい、知ってるよ。入社した時からずっとなんだよな。一緒に挨拶まわりに行けて、嬉しかったって言ってたもんな」
「んへへへ……そ~、そ~なんだよ~、たかなしはさ~、めちゃくちゃカッコいいし、しごとできるし、カッコいいだろ~? も~、はじめて見たときから、ほんとに好きでさ~」
「はいはい、わかってるよ。俺も好きだからな」
もう何十回、何百回と聞かされている告白に、俺は三ツ峰の体を公園のベンチに座らせながら、何十回、何百回と繰り返している答えを返す。
「え~、たかなし、おれのこと好きなの~? ほんとに~?」
「本当だって、何回言わせるんだよ。ほら、もうそのくらいにしておけ、どうせ覚えていられないんだから」
「たかなしが~、おれのこと、好きなんだって~、おれ、すっごいしあわせだろ~」
「はいはい、しあわせ、しあわせ。お前が、明日まで覚えていられたら、だけどな」
隣に座った俺の腕に、ぐりんぐりんと頭を擦りつけて三ツ峰が笑う。
酔いざましに買った缶コーヒーを開けながら、少しずつ寝落ちていく三ツ峰を見守ってやる。
いまさら、急ぐつもりはない。
もうとっくに俺たちが両想いなのは把握済みだ。
「好きな人って誰だよ、って聞かれたいんだろうけどなぁ……結構前から知ってるんだよなぁ」
涙目になりながら、聞いて聞いてと訴えてくる三ツ峰の顔が可愛すぎて、からかわずにはいられない。
「でも、そろそろ危険だよな。いつまでも、お前の気持ちをはぐらかしてたら、横から誰かにかっさらわれてもおかしくないしな」
倒れてきた三ツ峰に、いつものように膝枕をしてやって、指先に少し癖のある前髪をくるりと巻きつけた。
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