狼の憂鬱

うしお

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すれ違う認識と闇の凌辱

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クラウスが戻ってきて四日目の朝は、爽やかな陽射しに反して湿っぽいものとなった。

「オリバー。オリバー、頼むから泣き止んでくれ」

オリバーはおろおろとするクラウスに、しがみついてぐすぐすと泣き続けている。

「ほら、果実はどうだ? 飲めるようなら、水も少し飲んだ方がいい。それとも、いっぱいなでなでしてあげようか?」

「……………………んっ、なでなで、して」

「ああ、いっぱいいっぱいなでなでしよう。落ち着いたら、どうして泣いているのか、理由を教えてくれないか?」

「くらっ、くらうが、わるいっ」

本当は、そんなこと微塵も思っていないのに、頭の中がぐちゃぐちゃで、オリバーの口からは八つ当たりの言葉が勝手に飛び出していく。

「わかった。わかったから、話をしよう?」

「ぜっ、ぜんぜん、わかってないだろっ、くらうのばかっ」

ぎゅうぎゅうとしがみついて、クラウスのローブに涙を吸わせまくった。
クラウスのせいではないけれど、クラウスがいてくれたら、あんなことにはならなかったはずだと、恨む気持ちが抑えきれない。
そんなぐちゃぐちゃなオリバーを、クラウスの大きな手は躊躇うこともなく支えてくれる。
頭の後ろから首筋をたどり、背中を優しく撫でおりて、また頭からゆっくりと。
少しずつ少しずつ、高ぶっていたオリバーの気持ちが、癒されていくのがわかる。

「オリバー。頼むから、どうして泣いているのか教えてくれないか?」

「おれを、ひとりにしたっ、おれっ、くろいのっ、こわっ、こわいって、ちゃんと、いったのにっ」

昨夜の恐怖体験については、正直、思い出したくもない。
クラウスに抱かれ、心も体も満たされていたはずのオリバーは、気が付けば真っ黒な闇の中にひとり取り残されていた。
側にいるはずのクラウスの姿はどこにもなく、起き上がろうとした瞬間、光の欠片さえない闇の中からのびてきた蛇のようなものに絡み付かれた。
それは助けを求めようとして開いた口の中にまで入り込み、オリバーは声を出すこともできなくなった。
さらに、振り払おうとした手や足までもが闇に飲み込まれ、オリバーはほんの僅かな時間ですっかり拘束されてしまっていた。
いきなり動けなくされてしまったオリバーは、おぞましくも濃密な闇の気配にがたがたと震えあがった。
いつの間に、こんな近くまでモンスターの接近を許してしまったのか。
クラウスが戻ってきたことに油断して、周囲を怠ったのが原因だろうか。
ダンジョンに巣くうモンスターは、体内に宿る魔力を喰らうという。
その方法については様々な説があるが、モンスターに肉ごと喰らわれて無惨な死体となるか、魂だけを抜かれて人形のような死体となるか、程度の違いしかない。
せっかく、クラウスと再会したのに、こんなところで死ねるわけがないとオリバーは精一杯モンスターに抵抗し続けた。
だが、闇色の蛇は、ゆらゆらとゆれながら、オリバーの抵抗などまるでないもののように、我が物顔で体の上を這いずりまわっていた。
実際、闇に取り込まれた手も足も、オリバーの全力をもってしても最初に拘束された位置からずらすことさえできていなかった。
何匹もの蛇が、オリバーの体をまさぐるように撫でまわし、震えるオリバーの足を無遠慮に割り開く。
蛇たちの目的に気付いたオリバーの、それだけはやめてくれという悲痛な心の叫びも虚しく、開かれた足の中央、剥き出しになったクラウス専用の尻穴に向かって、うぞうぞと集合した蛇たちは、躊躇うこともなく中へと頭をもぐり込ませた。
オリバーの中に四方八方から頭を捩じ込んだ蛇たちは、すぐにクラウスしか知らなかった狭い穴を、我が物顔で蹂躙しはじめた。
一匹一匹は細くとも、一度に何匹も咥えさせられてしまった尻穴は、まるでクラウスの陰茎を咥えさせられた時のように、すっかり大きく拡げられていた。
オリバーは、不気味な蛇によって体が汚され、声にならない悲鳴をあげながら、なすすべもなく絶頂させられる。
蛇たちは、クラウスが教えてくれた悦いところばかりを、ことごとく見つけ出して責め立てたのだ。
しかも、終わらない絶頂に泣き続けるオリバーの中で、不気味に蠢く闇の蛇たちは、それだけで満足しなかった。
蠢く蛇に怯えるオリバーの陰茎や乳首にまでぐるぐると絡み付き、ねっとりとした闇の中で激しく扱きはじめた。
身動きのできないオリバーは、尻穴をほじられながら勃起した陰茎や乳首を扱かれ、わけのわからないまま絶頂の嵐に突き落とされた。
身動きのできない体を好き勝手に犯され、オリバーが助けを求めようとしてもよくわからないものは口の中にまで入り込んでいて、声すら出させてもらえない。
唯一、オリバーを助けてくれるはずのクラウスの姿はどこにもなく、そこには果てしなく続く闇と絶望しかなかった。
もはや、救いの手すら望めないオリバーには、襲いかかってくる快楽の嵐から逃れるすべなどあるわけがなく、身動きもとれないまま絶望の中で絶頂させられ続けることしかできなかった。
身も心も砕かれるほど犯され、まるで壊れた人形のようになったオリバーは、ただただゆれる虚空を他人事のように眺めていた気がする。
そして、そこからクラウスに抱き起こされるまで、オリバーの記憶は曖昧だ。
オリバーは、闇の蛇たちに犯され、正気を失っていたのだろう。
クラウスのぬくもりに触れたことで、ようやく正気を戻れたのかもしれない。

「くらうのばかっ、くらうがっ、くらうが、いないからっ、おれはっ、おれはっ」

「オリバー、どうしたんだ? ずっと、私は一緒にいただろう?」

オリバーの目から、涙がぐっとあふれた。
オリバーだって、また、変な夢を見たのだと思いたかった。
クラウスがつく下手な嘘に頷いて、そうだったな、と言えたならどれだけよかっただろうか。
だが、昨夜のことはこれまで見たどんな淫らな夢よりも、はっきりとしすぎていて夢だと思うことはできなかった。
いまもクラウスの腕の中にいるのに、快楽を求めて疼く尻穴を、オリバーは受け入れたくない気持ちでいっぱいだ。
あれは、クラウスではなかったのに、すごく気持ちよかった。
よすぎるほどに、よかったのだ。
いまも、少しでも気を抜いてしまえば、あの激しい快楽を思い出してしまいそうで、オリバーは体を震わせ、思い出さないよう必死に耐えることしかできない。

「…………ぅそ、だっ」

オリバーは、おぞましい真っ黒な蛇に犯されたことだけでなく、それが気持ちいいと思ってしまったことを何よりも悔やんでいた。
あれに犯されて、悦んでしまったことを、クラウスにだけは知られたくなかった。
だからオリバーは目覚めてからずっと、大好きなクラウスの顔を正面から見ることができなくて、ひたすらしがみついていたのだから。

「嘘だなんて……オリバー、キミはあんなに気持ちいいと悦んでくれたのに、忘れてしまったのか?」

話をあわせてしまえば、すべてがなかったことになるのかもしれない。
それでも、オリバーには、おぞましい闇の塊ともいうべきあれが、クラウスだったなんて思えるはずもなかった。
クラウスの手が、オリバーをなだめるようにゆっくりと撫で下ろされる。

「……うそ、つき」

オリバーは、あふれ出る涙もそのままに、ぐっと奥歯を噛み締めた。
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