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蛇足の蛇足編
12(蛇足の蛇足2)
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カミルが姿を見せないルイを連れ、浜辺に向かって森の中を歩いていたら、目の前をとても美しい少女が横切っていった。
鮮やかな海を思わせる蒼く長い髪が、おだやかな潮風にさらりとゆれる。
彼女は、一糸まとわぬ姿でありながら堂々としており、思わずその美しさに見惚れていたカミルが、彼女が裸であることに気付くまで一瞬の間があった。
まさか、あんなにも美しい少女が、服を着ずに森の中を歩いてくるなんてことは、想像したこともなかったのだ。
「ルっ、ルイっ!」
「なんでしょうか、カミル様」
「お、おま、ぇ……どこに、いるんだ?」
少女を保護しなければ、と思わず、ついてきているはずのルイを呼び、声のした方を見たカミルは困惑した。
確かに声はしたはずなのに、ルイの姿はどこにもない。
「姿を見せるな、とのことでしたので」
「そんなこと言ってる場合か、いますぐ出てこい!」
「わかりました」
「ぅわっ、お前、そんなところに隠れてたのか!」
ルイは、カミルが思っていたよりも近い木の裏から現れた。
大きな体で金属製の鎧を身に着けているというのに、ルイの動きは俊敏だ。
あっちの方から声がしたはずなのに、と思いつつ、カミルはルイを見て頷く。
「ルイ、そのマントを貸せ」
「……マントを、ですか?」
「いいから、早くマントを寄越せっ!」
カミルは、ぐいぐいとルイのマントを引っ張り、困惑するルイからなんとかマントを奪い取った。
そしてそのマントを手に、カミルは不思議な少女を探して走り出した。
それからすぐにカミルは、森の端の方で裸足のまままるで赤子のようによちよちと歩く少女を見つけた。
やはり、靴どころか、何も服を着ていない。
その肌を見てしまわないよう、カミルは少女に持っていたルイのマントを被せかけ、驚いて倒れた体を慌てて受け止めた。
「ほ、保護するだけだからなっ! う、うちで、服を用意するから安心しろよ!」
カミルは自分が領主の息子であることや、少女を傷つけるつもりがないことをマントの中にいる少女に向かって必死に説明した。
追いかけてきたルイが、マントからはみ出た少女の足にぎょっとしていたが、カミルが不思議な少女の話をすると邸に連れ帰ることを許してくれた。
「では、私が代わりに運びましょう」
「いい」
少女を肩に担いでいたカミルに、ルイが手を差し出してたが、カミルはそれをすぐさま断った。
何故だか、彼女を誰にも渡したくないと思ってしまったのだ。
山の上の邸に向かって歩きながら、カミルはマントで包んだ美しい少女のことが頭から離れなくなっていることに気が付いた。
それは、たぶんカミルにとって初めての恋だった。
少女を担いだまま、カミルは自分の部屋へ入り、そのまま寝室へと進んだ。
使用人も騎士たちも、でかけたカミルがこんなに早く戻ってくると思っていなかったのか、誰ひとり出迎えには出てこなかったが、ちょうどよかった。
カミルは、少女をベッドの上におろすと、慎重にその顔だけが見えるようにマントをずらす。
森の中でちらりと見ただけでもわかった少女の美しさは、正面から見ると想像以上のものだった。
煌めく海のような蒼い髪はきらきらと宝石のように艶やかで、ここにくるまでの間に眠ってしまったらしく、閉ざされた瞳を縁取る睫毛はとても長い。
頬にかかる影さえ、芸術品のように美しい彼女の瞳は何色なのだろうか。
カミルの胸は、少女の顔を見ただけで高鳴りが止まらなくなってしまった。
見ているだけで幸せだと思えるほどに。
「カミル様、その少女をどうするおつもりですか?」
だが、その幸せを邪魔するものがいた。
いつの間にか、ルイがカミルの背後に立っている。
カミルは、マントを閉じてルイから少女を隠した。
この宝物のような少女を、何故だか、ルイには見せたくないと思ってしまったのだ。
「使用人の中で、口の固いものをひとり連れてこい。この子の世話をさせる」
「本邸にお連れになるおつもりですか」
「……だったら、どうする」
「まずは、身元の確認をいたしましょう」
「身元の確認をしてどうするつもりだ。この子が平民だったら、僕から取りあげるつもりなのか」
「いえ、そうではなく、家族が」
「家族なんているわけがないだろう! ちゃんとした家族がいるなら、あんなところをこんな格好で歩いているわけがないじゃないか!」
「カミル、様……?」
「さっさとこの部屋から出ていけ! お前は黙って、使用人を連れてくればいいんだよっ!」
自分でも異常なくらい興奮していると思った。
だが、この少女を奪われるのではと思うだけで、興奮がおさまらない。
激昂するカミルの姿に、ルイは戸惑うような顔を見せたが、すぐに頭を下げると寝室から出ていった。
黙って出ていけ、といったカミルの言葉をルイは律儀に守ったのだ。
ルイがいなくなったあと、カミルはもう一度、少女の顔を見るためにマントを開いた。
その瞬間、急に少女の目が開いたため、驚いたカミルは自分にやましい気持ちがないことを、口早に身振り手振りで告げながら慌てて逃げ出すはめになってしまった。
寝室から出てから、先程の態度は余計に怪しかったのではないかと後悔したが、いまさらもう遅いだろう。
「何をやっているんだ、僕は……」
ソファーにかけたまま、頭を抱えるカミルだが、その頭の中はもう先程見た少女のことでいっぱいだった。
カミルの見たいと願っていた少女の瞳は、神秘的な赤色をしていた。
ほんの一瞬、瞳の中に三日月が浮かんでいるように見えたのだが、あれは気のせいだろうか。
瞬きをしたあと、三日月は見えなくなっていたので、カミルの見間違えかもしれない。
「すごく、綺麗な子だった。あの子となら、ずっと一緒にいられる気がする」
それでも、ほんの一瞬見ただけの少女の中の三日月は、カミルの胸に深く沈み込み、自分ではもう抜けそうになかった。
鮮やかな海を思わせる蒼く長い髪が、おだやかな潮風にさらりとゆれる。
彼女は、一糸まとわぬ姿でありながら堂々としており、思わずその美しさに見惚れていたカミルが、彼女が裸であることに気付くまで一瞬の間があった。
まさか、あんなにも美しい少女が、服を着ずに森の中を歩いてくるなんてことは、想像したこともなかったのだ。
「ルっ、ルイっ!」
「なんでしょうか、カミル様」
「お、おま、ぇ……どこに、いるんだ?」
少女を保護しなければ、と思わず、ついてきているはずのルイを呼び、声のした方を見たカミルは困惑した。
確かに声はしたはずなのに、ルイの姿はどこにもない。
「姿を見せるな、とのことでしたので」
「そんなこと言ってる場合か、いますぐ出てこい!」
「わかりました」
「ぅわっ、お前、そんなところに隠れてたのか!」
ルイは、カミルが思っていたよりも近い木の裏から現れた。
大きな体で金属製の鎧を身に着けているというのに、ルイの動きは俊敏だ。
あっちの方から声がしたはずなのに、と思いつつ、カミルはルイを見て頷く。
「ルイ、そのマントを貸せ」
「……マントを、ですか?」
「いいから、早くマントを寄越せっ!」
カミルは、ぐいぐいとルイのマントを引っ張り、困惑するルイからなんとかマントを奪い取った。
そしてそのマントを手に、カミルは不思議な少女を探して走り出した。
それからすぐにカミルは、森の端の方で裸足のまままるで赤子のようによちよちと歩く少女を見つけた。
やはり、靴どころか、何も服を着ていない。
その肌を見てしまわないよう、カミルは少女に持っていたルイのマントを被せかけ、驚いて倒れた体を慌てて受け止めた。
「ほ、保護するだけだからなっ! う、うちで、服を用意するから安心しろよ!」
カミルは自分が領主の息子であることや、少女を傷つけるつもりがないことをマントの中にいる少女に向かって必死に説明した。
追いかけてきたルイが、マントからはみ出た少女の足にぎょっとしていたが、カミルが不思議な少女の話をすると邸に連れ帰ることを許してくれた。
「では、私が代わりに運びましょう」
「いい」
少女を肩に担いでいたカミルに、ルイが手を差し出してたが、カミルはそれをすぐさま断った。
何故だか、彼女を誰にも渡したくないと思ってしまったのだ。
山の上の邸に向かって歩きながら、カミルはマントで包んだ美しい少女のことが頭から離れなくなっていることに気が付いた。
それは、たぶんカミルにとって初めての恋だった。
少女を担いだまま、カミルは自分の部屋へ入り、そのまま寝室へと進んだ。
使用人も騎士たちも、でかけたカミルがこんなに早く戻ってくると思っていなかったのか、誰ひとり出迎えには出てこなかったが、ちょうどよかった。
カミルは、少女をベッドの上におろすと、慎重にその顔だけが見えるようにマントをずらす。
森の中でちらりと見ただけでもわかった少女の美しさは、正面から見ると想像以上のものだった。
煌めく海のような蒼い髪はきらきらと宝石のように艶やかで、ここにくるまでの間に眠ってしまったらしく、閉ざされた瞳を縁取る睫毛はとても長い。
頬にかかる影さえ、芸術品のように美しい彼女の瞳は何色なのだろうか。
カミルの胸は、少女の顔を見ただけで高鳴りが止まらなくなってしまった。
見ているだけで幸せだと思えるほどに。
「カミル様、その少女をどうするおつもりですか?」
だが、その幸せを邪魔するものがいた。
いつの間にか、ルイがカミルの背後に立っている。
カミルは、マントを閉じてルイから少女を隠した。
この宝物のような少女を、何故だか、ルイには見せたくないと思ってしまったのだ。
「使用人の中で、口の固いものをひとり連れてこい。この子の世話をさせる」
「本邸にお連れになるおつもりですか」
「……だったら、どうする」
「まずは、身元の確認をいたしましょう」
「身元の確認をしてどうするつもりだ。この子が平民だったら、僕から取りあげるつもりなのか」
「いえ、そうではなく、家族が」
「家族なんているわけがないだろう! ちゃんとした家族がいるなら、あんなところをこんな格好で歩いているわけがないじゃないか!」
「カミル、様……?」
「さっさとこの部屋から出ていけ! お前は黙って、使用人を連れてくればいいんだよっ!」
自分でも異常なくらい興奮していると思った。
だが、この少女を奪われるのではと思うだけで、興奮がおさまらない。
激昂するカミルの姿に、ルイは戸惑うような顔を見せたが、すぐに頭を下げると寝室から出ていった。
黙って出ていけ、といったカミルの言葉をルイは律儀に守ったのだ。
ルイがいなくなったあと、カミルはもう一度、少女の顔を見るためにマントを開いた。
その瞬間、急に少女の目が開いたため、驚いたカミルは自分にやましい気持ちがないことを、口早に身振り手振りで告げながら慌てて逃げ出すはめになってしまった。
寝室から出てから、先程の態度は余計に怪しかったのではないかと後悔したが、いまさらもう遅いだろう。
「何をやっているんだ、僕は……」
ソファーにかけたまま、頭を抱えるカミルだが、その頭の中はもう先程見た少女のことでいっぱいだった。
カミルの見たいと願っていた少女の瞳は、神秘的な赤色をしていた。
ほんの一瞬、瞳の中に三日月が浮かんでいるように見えたのだが、あれは気のせいだろうか。
瞬きをしたあと、三日月は見えなくなっていたので、カミルの見間違えかもしれない。
「すごく、綺麗な子だった。あの子となら、ずっと一緒にいられる気がする」
それでも、ほんの一瞬見ただけの少女の中の三日月は、カミルの胸に深く沈み込み、自分ではもう抜けそうになかった。
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