運命の堕とし方

うしお

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本編

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ある日裸になって散歩することが日課になっていたユエラは、いつものように散歩をしている最中、突然やって来た見知らぬ男に拐われた。
ほんの一瞬のできごとだった。
男はユエラよりもはるかに大きく、突然目の前に現れた男にびっくりしていたユエラに向い、身につけていたマントをまるで投網のように投げかけた。
驚いたユエラは、逃げる間もなく暗闇に包まれた。
男はもがくユエラに構わず素早く包み込むと、そのまま抱きあげて走り出した。
とても痛かった。
男はユエラを肩に担いでいたらしく、男が一歩踏み出す度にユエラのお腹はごつごつした骨に叩かれ続けたのだ。
それは、本当にとても痛かった。
ユエラが痛みに耐えられず、気絶してしまうくらいに。

だから、ユエラはいま自分がどこにいるのかを知らない。
気が付けばユエラのまわりは、外のように自由な場所ではなくなっていた。
どこもかしこもしっかりと囲まれ、空を見ることさえできなくなっている。
気絶している間に、男によってマントから顔だけ外に出されていたユエラは、ぼんやりとこれは『建物』だな、と思った。
男は拐ってきたユエラを、大きな建物の中に入れたのだ。
ぼんやりしていたユエラは、ふかふかとしたものの上に寝かされていた。
まるで、雲の上のようだ、と思う。
男はゆっくりと瞬きをするユエラの前で、急に不思議な踊りを踊り出した。
そうかと思えば、ユエラに感想を聞くこともなく、慌ただしくどこかへ行ってしまったのだ。
あの男は、なにがしたかったのだろう。
残されたユエラは、ふかふかとした雲の上で大きなマントから抜け出そうと奮闘した。
ゆるやかではあるが、ユエラの体にくるくると巻き付けられたマントはとても手強かった。
ただ一枚の布であるはずなのに、なかなか隙間が見つからず、雲の上から落ちてしまうほどの大格闘の末、ようやくユエラは自分で歩く自由を得た。
ユエラを建物に閉じ込めるだけでなく、マントから助けてくれもしないなんて、あの男はとても不親切だ。

ユエラが入れられた建物はとても広かった。
いつものように散歩をしようとして、三度ほど行き倒れてしまった。
この建物の大地は、とてもやわらかいため足は痛くならないが、木も草もないからユエラが食べられるものが見つからなかったのだ。
ひたすらとことこと歩き続けたユエラが、お腹を空かせて倒れるまでそう時間はかからなかった。
だが、そのおかげで、この建物にはユエラ以外にも、入れられたものがいることを知った。
それは、お腹の空いたユエラにご飯をくれる『アー』であり、行き倒れたユエラを助けてくれる『ウィー』であった。
どちらもユエラに親切で、とてもいい人たちだった。
裸でいたいユエラに、ひらひらを着せようとさえしなければ。
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