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一日目リノ、夫役
1、授業開始
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「では、各自準備のできたものからここを出て、実技へと移るように」
実践を交えながら授業説明を終えた黒い仮面の男は、着ていたローブの前を整えながら観客であり、本日の授業を受ける生徒に向かって言い放つ。
静まりかえった部屋には、二十人ほどの生徒しかいない。
だが、これはいまから授業を受ける生徒のほんの一部だ。
これから授業を受ける生徒は、全部で八十人と聞いている。
ここの他にあと三ヶ所でも、同じように授業説明が行われているということだろう。
いつもの授業であれば、周囲の人間の反応を気にするところだが、今日の授業に関してはそれをする必要がなかった。
目の前に立つ男はもちろん、周囲に座る人の顔さえ、今のリノにはわからない。
だが、それは周囲にいる誰もが同じ状況だ。
仮面の男はもちろん、生徒である自分たちも姿変えのアンクレットをつけていた。
アンクレットには、身につけていると目の前で顔を見ても、それが誰かわからなくなる魔法がこめられている。
さらには、本人が望まない限り外れることがないように、魔法で鍵がかけられているため正体を暴かれる心配もない。
これから行われる授業は、相手の素性を知らないまま行うことになっていた。
いつもは気弱でおどおどするしかない伯爵家子息のリノでも、クラスで一番の秀才である公爵家子息のロイドだけでなく、第二王子であるアルステリス王子の存在すら気にしなくていいということだ。
いまはどの人も、顔がわからないただの一生徒でしかないのだから。
黒い仮面をつけた男に言われるまま、覚悟を決めたリノは部屋から外に出た。
この授業は、基本的には二泊三日のお泊まり授業だが、合格ができなければ何日も延長して受けなければならないと決められているので、少しでも早く合格したいリノは素早く動くことにしたのだ。
明日も受けなければならない授業があるため、どうがんばっても今日中に合格することはできないが、場合によっては何時間でも練習する必要があるかもしれない。
それならば、少しでも早く本日の授業を済ませてしまおう、ということである。
小さなパーティーを開けそうなほど大きなエントランスは、いつの間にか真っ黒な幕に覆われていた。
真っ黒な幕はどこかに繋がる通路の入口らしく、いくつかある入口の前には、それぞれ白い仮面をつけた男が立っている。
黒であれ白であれ仮面をつけている男たちはみんな、学園の関係者だという話だが、その声にも顔にも覚えがない。
きっとこちらも何かしらの魔法で、中身が誰であるかわからないようにしているのだろう。
「一人一本だ。導きの杖を受け取るように」
なんとなく誘われるまま、いくつかある列のひとつに並ぶ。
白い仮面の男は、並んだ入口でペンと同じくらいの長さの杖を配っていた。
順番がやってきた差し出す杖を受け取ると、先端に小さな灯りが点る。
「その灯りが指し示す部屋に入りなさい」
リノはどきどきしながら、黒い幕でできたトンネルの中に足を踏み入れた。
実践を交えながら授業説明を終えた黒い仮面の男は、着ていたローブの前を整えながら観客であり、本日の授業を受ける生徒に向かって言い放つ。
静まりかえった部屋には、二十人ほどの生徒しかいない。
だが、これはいまから授業を受ける生徒のほんの一部だ。
これから授業を受ける生徒は、全部で八十人と聞いている。
ここの他にあと三ヶ所でも、同じように授業説明が行われているということだろう。
いつもの授業であれば、周囲の人間の反応を気にするところだが、今日の授業に関してはそれをする必要がなかった。
目の前に立つ男はもちろん、周囲に座る人の顔さえ、今のリノにはわからない。
だが、それは周囲にいる誰もが同じ状況だ。
仮面の男はもちろん、生徒である自分たちも姿変えのアンクレットをつけていた。
アンクレットには、身につけていると目の前で顔を見ても、それが誰かわからなくなる魔法がこめられている。
さらには、本人が望まない限り外れることがないように、魔法で鍵がかけられているため正体を暴かれる心配もない。
これから行われる授業は、相手の素性を知らないまま行うことになっていた。
いつもは気弱でおどおどするしかない伯爵家子息のリノでも、クラスで一番の秀才である公爵家子息のロイドだけでなく、第二王子であるアルステリス王子の存在すら気にしなくていいということだ。
いまはどの人も、顔がわからないただの一生徒でしかないのだから。
黒い仮面をつけた男に言われるまま、覚悟を決めたリノは部屋から外に出た。
この授業は、基本的には二泊三日のお泊まり授業だが、合格ができなければ何日も延長して受けなければならないと決められているので、少しでも早く合格したいリノは素早く動くことにしたのだ。
明日も受けなければならない授業があるため、どうがんばっても今日中に合格することはできないが、場合によっては何時間でも練習する必要があるかもしれない。
それならば、少しでも早く本日の授業を済ませてしまおう、ということである。
小さなパーティーを開けそうなほど大きなエントランスは、いつの間にか真っ黒な幕に覆われていた。
真っ黒な幕はどこかに繋がる通路の入口らしく、いくつかある入口の前には、それぞれ白い仮面をつけた男が立っている。
黒であれ白であれ仮面をつけている男たちはみんな、学園の関係者だという話だが、その声にも顔にも覚えがない。
きっとこちらも何かしらの魔法で、中身が誰であるかわからないようにしているのだろう。
「一人一本だ。導きの杖を受け取るように」
なんとなく誘われるまま、いくつかある列のひとつに並ぶ。
白い仮面の男は、並んだ入口でペンと同じくらいの長さの杖を配っていた。
順番がやってきた差し出す杖を受け取ると、先端に小さな灯りが点る。
「その灯りが指し示す部屋に入りなさい」
リノはどきどきしながら、黒い幕でできたトンネルの中に足を踏み入れた。
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