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ゴブリンの話
淫獣の宴 1
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「やっ、やだっ、くるな、くるなぁ……っ」
狭い小屋の中、壁際に追い詰められた青年が、破かれてしまった服をきつく握りしめながら後ずさる。
彼はいま絶体絶命の状況にあった。
ほんの少し前まで、青年は森の中を走っていた。
彼はいま、偶然出会ってしまったモンスターから逃げている最中だった。
世界のあちこちでダンジョンが発生し、中から現れたモンスターなどの異世界生物が現代社会に溶け込んだといっても、それはほんの一部のことでしかない。
時々、どこにあるのかもわからないダンジョンから出てくるモンスターは、はぐれモンスターと呼ばれているが、そのほとんどはゲームや物語に出てくる理性のないモンスターのイメージそのものの化け物だ。
知性があってコミュニケーションがとれるのならともかく、青年を追いかけてくるものたちに人の言葉は通じない。
青年は、汗だくになりながら、逃げ続けるしかなかった。
それから、走り続けた青年は森の中にひっそりと建つ小屋を見つけた。
助けを求め、扉を強く叩いてみたが反応はない。
青年がノブを回してみると、幸いなことに鍵はかかっていなかった。
小屋の中に、人の気配は感じられない。
青年は、申し訳なく思いながらも、そのまま小屋の中に入り込んだ。
息を殺して隠れていれば、化け物たちをやり過ごせるだろう、と。
ここまでずっと緊張を強いられ続けていた青年は、助かるかもしれないという僅かな希望にほっと胸を撫で下ろす。
だが、そんな彼のささやかな願いが叶うことはなかった。
青年が扉を閉めようとした瞬間、青年の手の中にあったノブが消えた。
それは、ものすごい力だった。
ばきばきと木の裂ける音が聞こえ、目の前にあった扉が一気に傾く。
かろうじて残った蝶番が支える扉の向こうには、青年を追いかけてきた化け物の姿があった。
ぎいぎいと不快な音を立てて軋む扉を背に、青年へと近付いてくる化け物の影はひとつではない。
壁際に追いたてられ、もはや後ずさる余地さえなくなった青年を取り囲む影は三つ。
気付けば彼は、完全に逃げ場を失っていた。
青年のお気に入りだったフードつきのトレーナーもジーンズも、すでに服とは呼べないほどぼろぼろになっている。
何度も追いつきかけた彼らの爪が、引き裂いてしまったからだ。
青年の拒絶などそよ風ほどにも感じていない彼らは、その恐ろしい見た目の通り、人ではない。
つるりとした無毛の頭に長く尖った大きな耳、金色に輝く瞳はとても大きく、一昔前に流行した宇宙人のような見た目だが、その肌の色はくすんだ薄い緑色だ。
青年という獲物を前に、喜びを隠しきれないのだろう口元には歪な笑みが浮かび、尖った歯列をのぞかせている。
世界のあちこちに出来たダンジョンと呼ばれる場所から現れるようになった彼らは、ゴブリンと呼ばれる化け物だった。
背丈は、一番高いゴブリンでも青年の胸の高さほどしかなかった。
他のゴブリンたちも、似たような背丈で小学生程度の高さしかない。
だが、三匹のゴブリンは背丈に多少の差はあるものの、揃って恐ろしいくらい筋肉質な体をしていた。
それもそのはず、モンスターであるゴブリンは、普通の人間の何十倍も力が強いのだ。
その上、ゴブリンの爪は猛禽類のように鋭かった。
青年の服が、こんなにぼろぼろになっているのはそのせいだ。
ほんの少し掠めただけで、かなり丈夫なはずのジーンズすら、まるで紙のように軽々と破れてしまった。
ジーンズ以上にやわらかいトレーナーなど、ひとたまりもなかった。
だが、そのおかげで、青年はゴブリンに捕まらずに済んだのだ。
青年が握りしめた服の隙間からは、若者ならではのみずみずしくなめらかな素肌がのぞいている。
彼は日に焼けた体がほんの少し健康的に見える程度の、ごくごく普通の青年だ。
ゴブリンたちは怯える青年を見て、いやらしく笑いながら大きく舌なめずりをして近付いてくる。
「いやだっ、くるなっ、こっちに、くるな、くるなよぉ……っ」
青年の背中は、壁にぴったりとくっついていて、これ以上後ずさることはできない。
じりじりと包囲の輪を小さくしながら、ゴブリンたちはどんどん青年に近付いてくる。
追い詰められた青年は、ふとあることに気付いてしまった。
気付かなければよかった、と思ってももう遅い。
「ぅ、うそだ、そんな、そんなわけがない……っ」
どれだけ否定しようとしても、目の前にある現実は変わらなかった。
近付いてくるゴブリンたちが唯一身に付けている衣服、腰布とでも呼ぶべきそれを、強く強く押し上げている存在。
青年が、見間違えることもできないほど、存在を強く主張しているモノ。
大きく進んだゴブリンの腰布がひらりとめくれ、見えてしまったのはグロテスクな異形の存在だった。
だが、どれだけ馴染みのない形であっても、それがなんであるのかということは、同じ男である青年にわからないわけがない。
足の間で天を突くようにそそりたつそれは、見間違えようもなくゴブリンの性器だ。
押し上げられた腰布は、頂上が濃い色に変わっており、そこだけがぐっしょりと濡れているのがよくわかる。
ゴブリンたちは、青年を見ながら性器を勃起させているのだ。
早く逃げなければ、と思うのに、体はいうことをきいてくれなかった。
まるで、金縛りにあってしまったかのように強ばってしまって動かない。
そうこうしているうちに、ゴブリンが青年の肩を掴んでいた。
次々に、ゴブリンたちの手がのばされ、青年の体のあちこちを掴んでいく。
ゴブリンよりもはるかに弱い青年が、包囲網から逃げられるわけがなかった。
青年の未来は、ゴブリンたちに見つかった瞬間から確定していたのだ。
狭い小屋の中、壁際に追い詰められた青年が、破かれてしまった服をきつく握りしめながら後ずさる。
彼はいま絶体絶命の状況にあった。
ほんの少し前まで、青年は森の中を走っていた。
彼はいま、偶然出会ってしまったモンスターから逃げている最中だった。
世界のあちこちでダンジョンが発生し、中から現れたモンスターなどの異世界生物が現代社会に溶け込んだといっても、それはほんの一部のことでしかない。
時々、どこにあるのかもわからないダンジョンから出てくるモンスターは、はぐれモンスターと呼ばれているが、そのほとんどはゲームや物語に出てくる理性のないモンスターのイメージそのものの化け物だ。
知性があってコミュニケーションがとれるのならともかく、青年を追いかけてくるものたちに人の言葉は通じない。
青年は、汗だくになりながら、逃げ続けるしかなかった。
それから、走り続けた青年は森の中にひっそりと建つ小屋を見つけた。
助けを求め、扉を強く叩いてみたが反応はない。
青年がノブを回してみると、幸いなことに鍵はかかっていなかった。
小屋の中に、人の気配は感じられない。
青年は、申し訳なく思いながらも、そのまま小屋の中に入り込んだ。
息を殺して隠れていれば、化け物たちをやり過ごせるだろう、と。
ここまでずっと緊張を強いられ続けていた青年は、助かるかもしれないという僅かな希望にほっと胸を撫で下ろす。
だが、そんな彼のささやかな願いが叶うことはなかった。
青年が扉を閉めようとした瞬間、青年の手の中にあったノブが消えた。
それは、ものすごい力だった。
ばきばきと木の裂ける音が聞こえ、目の前にあった扉が一気に傾く。
かろうじて残った蝶番が支える扉の向こうには、青年を追いかけてきた化け物の姿があった。
ぎいぎいと不快な音を立てて軋む扉を背に、青年へと近付いてくる化け物の影はひとつではない。
壁際に追いたてられ、もはや後ずさる余地さえなくなった青年を取り囲む影は三つ。
気付けば彼は、完全に逃げ場を失っていた。
青年のお気に入りだったフードつきのトレーナーもジーンズも、すでに服とは呼べないほどぼろぼろになっている。
何度も追いつきかけた彼らの爪が、引き裂いてしまったからだ。
青年の拒絶などそよ風ほどにも感じていない彼らは、その恐ろしい見た目の通り、人ではない。
つるりとした無毛の頭に長く尖った大きな耳、金色に輝く瞳はとても大きく、一昔前に流行した宇宙人のような見た目だが、その肌の色はくすんだ薄い緑色だ。
青年という獲物を前に、喜びを隠しきれないのだろう口元には歪な笑みが浮かび、尖った歯列をのぞかせている。
世界のあちこちに出来たダンジョンと呼ばれる場所から現れるようになった彼らは、ゴブリンと呼ばれる化け物だった。
背丈は、一番高いゴブリンでも青年の胸の高さほどしかなかった。
他のゴブリンたちも、似たような背丈で小学生程度の高さしかない。
だが、三匹のゴブリンは背丈に多少の差はあるものの、揃って恐ろしいくらい筋肉質な体をしていた。
それもそのはず、モンスターであるゴブリンは、普通の人間の何十倍も力が強いのだ。
その上、ゴブリンの爪は猛禽類のように鋭かった。
青年の服が、こんなにぼろぼろになっているのはそのせいだ。
ほんの少し掠めただけで、かなり丈夫なはずのジーンズすら、まるで紙のように軽々と破れてしまった。
ジーンズ以上にやわらかいトレーナーなど、ひとたまりもなかった。
だが、そのおかげで、青年はゴブリンに捕まらずに済んだのだ。
青年が握りしめた服の隙間からは、若者ならではのみずみずしくなめらかな素肌がのぞいている。
彼は日に焼けた体がほんの少し健康的に見える程度の、ごくごく普通の青年だ。
ゴブリンたちは怯える青年を見て、いやらしく笑いながら大きく舌なめずりをして近付いてくる。
「いやだっ、くるなっ、こっちに、くるな、くるなよぉ……っ」
青年の背中は、壁にぴったりとくっついていて、これ以上後ずさることはできない。
じりじりと包囲の輪を小さくしながら、ゴブリンたちはどんどん青年に近付いてくる。
追い詰められた青年は、ふとあることに気付いてしまった。
気付かなければよかった、と思ってももう遅い。
「ぅ、うそだ、そんな、そんなわけがない……っ」
どれだけ否定しようとしても、目の前にある現実は変わらなかった。
近付いてくるゴブリンたちが唯一身に付けている衣服、腰布とでも呼ぶべきそれを、強く強く押し上げている存在。
青年が、見間違えることもできないほど、存在を強く主張しているモノ。
大きく進んだゴブリンの腰布がひらりとめくれ、見えてしまったのはグロテスクな異形の存在だった。
だが、どれだけ馴染みのない形であっても、それがなんであるのかということは、同じ男である青年にわからないわけがない。
足の間で天を突くようにそそりたつそれは、見間違えようもなくゴブリンの性器だ。
押し上げられた腰布は、頂上が濃い色に変わっており、そこだけがぐっしょりと濡れているのがよくわかる。
ゴブリンたちは、青年を見ながら性器を勃起させているのだ。
早く逃げなければ、と思うのに、体はいうことをきいてくれなかった。
まるで、金縛りにあってしまったかのように強ばってしまって動かない。
そうこうしているうちに、ゴブリンが青年の肩を掴んでいた。
次々に、ゴブリンたちの手がのばされ、青年の体のあちこちを掴んでいく。
ゴブリンよりもはるかに弱い青年が、包囲網から逃げられるわけがなかった。
青年の未来は、ゴブリンたちに見つかった瞬間から確定していたのだ。
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