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ひとだけの街

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 空が茜色に染まるころに彼女は目を覚ました。

「ん……おはよう」
「──おはよう」

 エリーの頭を撫でる手を止めて、僕はカチコチに固まってしまう。無防備な女の子に対してそんなことをする奴とバレたら警察を呼ばれるかもしれないからだ。

「綺麗な空……でももう帰る時間だなあ。もう少し寝たふりしておきたかったけど」

 バレていた。というより騙されていた。なんという悪女か。

「ミャーはこの街に住んでいるの?」
「いや、その……」

 僕は彼女のおかげで、おそらく怪しまれることなくハーフリングとしてこの街の人々を観察出来ていた。

 だからこそ、彼女の質問は当然であり嘘をつく余地は無いのだろうとも思えたんだ。

「そうだよね。ここはヒューマンの街、だものね」
「そういうこと」

 そう、そういうこと。エリーの頭を撫でていた僕はただ撫でていただけじゃない。たまにそのいい香りを嗅ぎながらも街行く人々を観察して、僕たちの他にハーフリングを見かけないどころか、ヒューマン──人間らしき種族以外を見ていない。

 まるで、僕たちだけが見知らぬ世界に迷い込んだ小人のようであったのだ。

「でもミャーがこの街に住んでなくて良かった。わたしだけで、良かった」
「それってどういう──?」
「ううん、ただのひとりごと。ミャーはちゃんと帰るんだよ?道はわかる?」
「えっと……」

 道、帰る。それはつまりハーフリングの住む場所はここではないということだろう。

 答えに窮した僕は顔を上げてエリーの言葉を引き出そうと何かを言おうとした。

 ──したはずだけど、夜の訪れを予感させる夕日に照らされたエリーは、さっきまでの子どもを思わせるような彼女とはどこか別人のようで、きっと情け無い顔をしていたであろう僕にお姉さんのようにハーフリングの街への道のりを教えてくれた。



「人間の街、広すぎ」

 僕の提げていたポーチにはいくらかの硬貨が入っていて、エリーの勧めの通りに馬車を乗り継ぎやっと街の外までたどり着いたときには日が暮れていた。

 ──夜になってもこの街にいたら出られなくなるから

 エリーはそう言っていたからこんな時間にも関わらず僕は外に出てきたけど……なるほど、分厚い外壁にポッカリと開いた門はそろそろ閉められる時間のようだ。

「ん?ホテルとかなかったのかな?」

 少し古めな洋風の建物が建ち並ぶ街で宿泊施設があってもおかしくはない。異世界の常識なんてのは知らないけど、それでも現代日本でもそうであるように夜中に灯りも持たずに野山を彷徨うのは普通ではないと思いたい。

 しかし僕が思考に耽っているあいだに、街は重い音を立てて外界との門を閉ざしてしまった。
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