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それは僕なのかそれとも他人なのか
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僕は体を無数のコウモリに変えて逃走を試みる。
人間たちは、何やらぶつくさと呟くだけで空に大きな網を張って僕の逃走を阻む。
網に触れた僕は強制的にその体をひとつに戻して走って逃げる。
回り込まれたせいで、その先は僕たちが住んでいた集落だ。ヤツらが火を放って仲間を生きながらに焼き殺した集落だ。
くそっ、なんで、なんで僕は殺される立場になっているっ。
僕は人間だろ。日本ていう国で生まれ育った平和に溺れた人間だろ。
大きなマントもズタズタ。上等そうな服も破れて穴が空いて、その周りを血の赤が染め上げている。
まさに瀕死。なのに、全快。
死に体とも見える僕だが、吸血鬼らしく夜は元気いっぱいらしい。
相手も隠れながら襲うのはやめたようだ。そんな姿の吸血鬼が脚を震わせながら、走るのもやっとといった逃げっぷりなのだから。
燃え盛る炎が熱い。山々の稜線が白くその輪郭をあらわにしていく。
夜明けだ。
人間たちが、僕を追い詰めようと炎の集落に突入してくる。
僕はつまづいて転び、アイツに馬乗りで拘束される。
肩、手のひら、腕、鎖骨、脇腹、太もも、足。
僕を地面に縫い付けた杭は、周りの人間たちも協力してあっという間に打ちつけられていた。
「こうやって、仲間を……」
「おうよ。化け物の最後には悪くねえだろうよ」
僕が動けないことを確認したエセ聖職者は、直径20cmほどの銀の杭を僕の心臓がある辺りに浮かべた。
「なぜって思ったか?俺が手を離した場所に固定できるアーティファクトだ。最後の一体は朝日で焼きながらじっくりと押し込んでいってやろうと思ってな」
「鬼畜か」
大笑いしてご機嫌なエセ聖職者の笑みは歪んでいる。
ソイツだけじゃない。僕を取り囲む人間たちの顔が、全部。
「おっ、お天道様のお出ましだ。んんー、化け物の肌を見ろよ。焼け爛れてどんどん焦げていくぜ」
身を焦がす朝日を僕は一生忘れないだろう。もしかしたら初日の出なんてのも来年からは見ないかもしれない。
「おらっ、おら、痛いか? 泣け、喚けっ!」
「ぐうっ、ごぼっ」
エセ聖職者が僕を見下ろしながら杭を踏みつけていく。確実にめり込んでいく先端に、圧迫されるような不快感を覚える。
「死ねっ死ねっ死ねっ!」
人間たちの大合唱。青く澄んだ空が遠い。炎で血でどんなに地上を赤く染めても、まだまだ青い。
「なぜ、僕たちを──」
「嘆願書とかなんとか、ありゃあ嘘だ。コイツらを扇動して俺が愉しめる。そういう祭なんだわ、これ」
お互いに接点を失くした人間と吸血鬼は混ざり合うことなく二百年ほどを過ごしていた。
にも関わらずこうして終わりを迎えたのは、このエセ聖職者の享楽のためだったらしい。
「ああ、なるほど──」
「そうだ。だからお前は、絶望して、死ね」
これで満足らしい。エセ聖職者は大きく脚を上げて杭を、踏み抜いた。
響く大絶叫。僕の、断末魔らしい。どうなっているのか、連動しているらしい他の杭も僕により深く刺さり、杭の中心から裂けて僕の五体を弾けさせる。
噴き上がる血しぶきも僕の体もまとめて太陽が焦がして霧のように広がり後には狂気に染まった人間たちだけが立っていた。
人間たちは、何やらぶつくさと呟くだけで空に大きな網を張って僕の逃走を阻む。
網に触れた僕は強制的にその体をひとつに戻して走って逃げる。
回り込まれたせいで、その先は僕たちが住んでいた集落だ。ヤツらが火を放って仲間を生きながらに焼き殺した集落だ。
くそっ、なんで、なんで僕は殺される立場になっているっ。
僕は人間だろ。日本ていう国で生まれ育った平和に溺れた人間だろ。
大きなマントもズタズタ。上等そうな服も破れて穴が空いて、その周りを血の赤が染め上げている。
まさに瀕死。なのに、全快。
死に体とも見える僕だが、吸血鬼らしく夜は元気いっぱいらしい。
相手も隠れながら襲うのはやめたようだ。そんな姿の吸血鬼が脚を震わせながら、走るのもやっとといった逃げっぷりなのだから。
燃え盛る炎が熱い。山々の稜線が白くその輪郭をあらわにしていく。
夜明けだ。
人間たちが、僕を追い詰めようと炎の集落に突入してくる。
僕はつまづいて転び、アイツに馬乗りで拘束される。
肩、手のひら、腕、鎖骨、脇腹、太もも、足。
僕を地面に縫い付けた杭は、周りの人間たちも協力してあっという間に打ちつけられていた。
「こうやって、仲間を……」
「おうよ。化け物の最後には悪くねえだろうよ」
僕が動けないことを確認したエセ聖職者は、直径20cmほどの銀の杭を僕の心臓がある辺りに浮かべた。
「なぜって思ったか?俺が手を離した場所に固定できるアーティファクトだ。最後の一体は朝日で焼きながらじっくりと押し込んでいってやろうと思ってな」
「鬼畜か」
大笑いしてご機嫌なエセ聖職者の笑みは歪んでいる。
ソイツだけじゃない。僕を取り囲む人間たちの顔が、全部。
「おっ、お天道様のお出ましだ。んんー、化け物の肌を見ろよ。焼け爛れてどんどん焦げていくぜ」
身を焦がす朝日を僕は一生忘れないだろう。もしかしたら初日の出なんてのも来年からは見ないかもしれない。
「おらっ、おら、痛いか? 泣け、喚けっ!」
「ぐうっ、ごぼっ」
エセ聖職者が僕を見下ろしながら杭を踏みつけていく。確実にめり込んでいく先端に、圧迫されるような不快感を覚える。
「死ねっ死ねっ死ねっ!」
人間たちの大合唱。青く澄んだ空が遠い。炎で血でどんなに地上を赤く染めても、まだまだ青い。
「なぜ、僕たちを──」
「嘆願書とかなんとか、ありゃあ嘘だ。コイツらを扇動して俺が愉しめる。そういう祭なんだわ、これ」
お互いに接点を失くした人間と吸血鬼は混ざり合うことなく二百年ほどを過ごしていた。
にも関わらずこうして終わりを迎えたのは、このエセ聖職者の享楽のためだったらしい。
「ああ、なるほど──」
「そうだ。だからお前は、絶望して、死ね」
これで満足らしい。エセ聖職者は大きく脚を上げて杭を、踏み抜いた。
響く大絶叫。僕の、断末魔らしい。どうなっているのか、連動しているらしい他の杭も僕により深く刺さり、杭の中心から裂けて僕の五体を弾けさせる。
噴き上がる血しぶきも僕の体もまとめて太陽が焦がして霧のように広がり後には狂気に染まった人間たちだけが立っていた。
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