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酒に酔ったにしても有り得ない

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 同窓生と飲んだときのことを思い出しながら、僕は地べたにうずくまっている。

 ただの営業マンには過酷な現状に、荒い呼吸に、焼け付くような空気に、死にたくなりそうな気分だ。

 まあ、死ねないんだけどね。

 いや、死ねるのか。僕の知っている通りであるなら、誰かの手に掛からなくても、このまま朝日を待てば。

 けど相手は待ってはくれないらしい。

 僕の肩に鋭い痛みが走る。

「ぐあああぁっ」
「観念するんだなあ……この、化け物めっ」

 死角から。僕の右肩から垂直に生えた一本の矢は、その相手が頭上にいることを知らせる。

 上を見上げて、僕は前転して回避する。

 ギリギリのところでかわせた僕がいたところには、炎の赤を映す銀色の杭が突き立っている。

 その上には嗜虐的な笑みを浮かべる狂人がいる。

 まるで聖職者のような服装をしているけれど、表情は完全にヤバいヤツでしかない。

 見た目で誤魔化せる限度を超えているのだろう。そいつには神聖さなど微塵も感じない。

 けれど、突き立った杭には嫌というほどの神聖さがある。僕の、命を奪うことが出来る神聖さを。

「この国を裏から乗っ取ろうとした化け物め。どうだ、追い詰められ、苦しめられ、もがき、死ぬしかない運命はっ」
「エセ聖職者めっ……っ」

 見た目にもやばいそいつだが、対して僕は──黒いマントに身を包んだ紳士。

 とだけ言えば一般人か、良くて金持ちか何かだけども、悲しいかなそいつの口にした事は事実らしく、化け物である。

 青白い肌に赤い瞳。口から覗く牙は人間が持つものではなく、太陽が苦手で美女の生き血が何よりの好物。

 みんな大好き吸血鬼である。

「いったいどれだけの人を犠牲にしてきた?住民からの嘆願書はもはや書庫にさえ入りきらないほどだぞっ」
「お前こそっ……僕の仲間を、どうした」

 ヤツの足元にある銀の杭には、絶えず燃える赤色が揺らめいている。

 燃えている。僕の背後の赤色が。

「あ?そんなもん決まってんだろうが──皆殺しよ」
「──っ!」

 ギリっと食いしばった口の奥で歯が砕けた音が響いた。

 撃ち抜かれた右肩がジクジクと痛む。それなのに、なんともないのが怖い。耐える必要もない痛むという事実だけで、もう矢は勝手に抜けて肩も癒えている。

「僕たちは、人間に迷惑などかけていない。別に……動物の生き血でも、生きていくことは出来るんだから、そうしてこんな山の奥に住んでいたのにっ」
「──隣に化け物が住んでいる街の気持ちにもなれってんだ」

 そう、僕たち吸血鬼は人間たちとともに歩むために、自らその生き方を変えて過ごしてきた。

 おかげで子孫たちはその性質を変えはじめて、これから先の世代は本当に人間の生き血を必要としなくなるはずであった。

 なのに──。

「だからよ、街の平穏のために……死ねや」

 何人いるのか。

 吸血鬼狩りと称して行われた人間たちの饗宴は、僕を殺して終わりを迎えるらしい。

 昼間から始められた宴で生き残り、そろそろ夜明けが訪れる時間に。

 僕は死ぬのか。

 アイドル、ビール、同窓生。

 記憶は錯綜して、終わりを迎える。
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