3 / 20
酒に酔ったにしても有り得ない
しおりを挟む
同窓生と飲んだときのことを思い出しながら、僕は地べたにうずくまっている。
ただの営業マンには過酷な現状に、荒い呼吸に、焼け付くような空気に、死にたくなりそうな気分だ。
まあ、死ねないんだけどね。
いや、死ねるのか。僕の知っている通りであるなら、誰かの手に掛からなくても、このまま朝日を待てば。
けど相手は待ってはくれないらしい。
僕の肩に鋭い痛みが走る。
「ぐあああぁっ」
「観念するんだなあ……この、化け物めっ」
死角から。僕の右肩から垂直に生えた一本の矢は、その相手が頭上にいることを知らせる。
上を見上げて、僕は前転して回避する。
ギリギリのところでかわせた僕がいたところには、炎の赤を映す銀色の杭が突き立っている。
その上には嗜虐的な笑みを浮かべる狂人がいる。
まるで聖職者のような服装をしているけれど、表情は完全にヤバいヤツでしかない。
見た目で誤魔化せる限度を超えているのだろう。そいつには神聖さなど微塵も感じない。
けれど、突き立った杭には嫌というほどの神聖さがある。僕の、命を奪うことが出来る神聖さを。
「この国を裏から乗っ取ろうとした化け物め。どうだ、追い詰められ、苦しめられ、もがき、死ぬしかない運命はっ」
「エセ聖職者めっ……っ」
見た目にもやばいそいつだが、対して僕は──黒いマントに身を包んだ紳士。
とだけ言えば一般人か、良くて金持ちか何かだけども、悲しいかなそいつの口にした事は事実らしく、化け物である。
青白い肌に赤い瞳。口から覗く牙は人間が持つものではなく、太陽が苦手で美女の生き血が何よりの好物。
みんな大好き吸血鬼である。
「いったいどれだけの人を犠牲にしてきた?住民からの嘆願書はもはや書庫にさえ入りきらないほどだぞっ」
「お前こそっ……僕の仲間を、どうした」
ヤツの足元にある銀の杭には、絶えず燃える赤色が揺らめいている。
燃えている。僕の背後の赤色が。
「あ?そんなもん決まってんだろうが──皆殺しよ」
「──っ!」
ギリっと食いしばった口の奥で歯が砕けた音が響いた。
撃ち抜かれた右肩がジクジクと痛む。それなのに、なんともないのが怖い。耐える必要もない痛むという事実だけで、もう矢は勝手に抜けて肩も癒えている。
「僕たちは、人間に迷惑などかけていない。別に……動物の生き血でも、生きていくことは出来るんだから、そうしてこんな山の奥に住んでいたのにっ」
「──隣に化け物が住んでいる街の気持ちにもなれってんだ」
そう、僕たち吸血鬼は人間たちとともに歩むために、自らその生き方を変えて過ごしてきた。
おかげで子孫たちはその性質を変えはじめて、これから先の世代は本当に人間の生き血を必要としなくなるはずであった。
なのに──。
「だからよ、街の平穏のために……死ねや」
何人いるのか。
吸血鬼狩りと称して行われた人間たちの饗宴は、僕を殺して終わりを迎えるらしい。
昼間から始められた宴で生き残り、そろそろ夜明けが訪れる時間に。
僕は死ぬのか。
アイドル、ビール、同窓生。
記憶は錯綜して、終わりを迎える。
ただの営業マンには過酷な現状に、荒い呼吸に、焼け付くような空気に、死にたくなりそうな気分だ。
まあ、死ねないんだけどね。
いや、死ねるのか。僕の知っている通りであるなら、誰かの手に掛からなくても、このまま朝日を待てば。
けど相手は待ってはくれないらしい。
僕の肩に鋭い痛みが走る。
「ぐあああぁっ」
「観念するんだなあ……この、化け物めっ」
死角から。僕の右肩から垂直に生えた一本の矢は、その相手が頭上にいることを知らせる。
上を見上げて、僕は前転して回避する。
ギリギリのところでかわせた僕がいたところには、炎の赤を映す銀色の杭が突き立っている。
その上には嗜虐的な笑みを浮かべる狂人がいる。
まるで聖職者のような服装をしているけれど、表情は完全にヤバいヤツでしかない。
見た目で誤魔化せる限度を超えているのだろう。そいつには神聖さなど微塵も感じない。
けれど、突き立った杭には嫌というほどの神聖さがある。僕の、命を奪うことが出来る神聖さを。
「この国を裏から乗っ取ろうとした化け物め。どうだ、追い詰められ、苦しめられ、もがき、死ぬしかない運命はっ」
「エセ聖職者めっ……っ」
見た目にもやばいそいつだが、対して僕は──黒いマントに身を包んだ紳士。
とだけ言えば一般人か、良くて金持ちか何かだけども、悲しいかなそいつの口にした事は事実らしく、化け物である。
青白い肌に赤い瞳。口から覗く牙は人間が持つものではなく、太陽が苦手で美女の生き血が何よりの好物。
みんな大好き吸血鬼である。
「いったいどれだけの人を犠牲にしてきた?住民からの嘆願書はもはや書庫にさえ入りきらないほどだぞっ」
「お前こそっ……僕の仲間を、どうした」
ヤツの足元にある銀の杭には、絶えず燃える赤色が揺らめいている。
燃えている。僕の背後の赤色が。
「あ?そんなもん決まってんだろうが──皆殺しよ」
「──っ!」
ギリっと食いしばった口の奥で歯が砕けた音が響いた。
撃ち抜かれた右肩がジクジクと痛む。それなのに、なんともないのが怖い。耐える必要もない痛むという事実だけで、もう矢は勝手に抜けて肩も癒えている。
「僕たちは、人間に迷惑などかけていない。別に……動物の生き血でも、生きていくことは出来るんだから、そうしてこんな山の奥に住んでいたのにっ」
「──隣に化け物が住んでいる街の気持ちにもなれってんだ」
そう、僕たち吸血鬼は人間たちとともに歩むために、自らその生き方を変えて過ごしてきた。
おかげで子孫たちはその性質を変えはじめて、これから先の世代は本当に人間の生き血を必要としなくなるはずであった。
なのに──。
「だからよ、街の平穏のために……死ねや」
何人いるのか。
吸血鬼狩りと称して行われた人間たちの饗宴は、僕を殺して終わりを迎えるらしい。
昼間から始められた宴で生き残り、そろそろ夜明けが訪れる時間に。
僕は死ぬのか。
アイドル、ビール、同窓生。
記憶は錯綜して、終わりを迎える。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる